【先生ができること(8)】読者の反響から思うこと②

弁護士 太田 啓子
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著書『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』は、主には男の子の育ちに関わる大人や中高生くらいの男の子を読者と想定して書きましたが、一方では成人の男性たちにもぜひ読んでほしいと思っていました。

成人男性の読者からは多少の反発があるかもしれないと思っていたのですが、実際には「自分自身にも多く当てはまると思った」「冷や汗をかきながら読んだ」「もっと若い時に読んでいたら、今までの自分の葛藤は少しは小さかったかもしれない」「大学生の今、読めてよかった」などと、真摯(しんし)に受け止めた方の声を見聞きしました。

例えば、「あまりにも正しすぎる内容に、何にも考えず男同士で馬鹿にやってた頃の自分を否定されているような気がして、ムカつきながらも当時モヤモヤしていた行き過ぎた男同士の同調圧力の事にも触れており、あの感覚は自分の息子には植え付けないようにと心に誓いました」(Amazonサイト上のレビュー9月23日付)などがありました。本書に反発を感じつつも、実は自分もホモソーシャルなノリの中での同調圧力に嫌な思いをしていて、それを「嫌だ」と言っていいことだったのだと自覚し、「次世代にはこれを引き継ぎたくない」という気持ちを持った男性は少なくないのではないでしょうか。そう捉えている感想が多かったことに、私はとても希望を感じました。そのことを認めるところが、まずは出発点だと思います。

『これからの男の子たちへ』の中で「男性は女性に比べ感情の解像度が低い」「感情の言語化が重要だ」という指摘をしているのですが、男性から寄せられた感想には、これに賛同の趣旨で言及したものが数多くありました。

「弱音を吐いてはいけない」という抑圧から、自分の中にある痛みや弱さに目を背けてしまい、その感情に言葉を当てることもないから明確に自覚することもない。しかし、その感情がなくなるわけではないから、怒りや不機嫌などの形で噴出してしまう…ということは、よくあることです。離婚事案で見聞きする男性の問題行動の背景にも、こういうことがあるのではないかと感じます。

言語化によって感情を表現する回路を適切に開くことは本当に重要ですが、これは筋トレのように、訓練によって身に付けられるものだと思います。子どもの頃から周囲の大人がその適切な機会を与えられるようにするにはどうすればよいかと、私自身も日々考えています。


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