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「私達は父上から……国王陛下から教会の思惑の調査を命じられた。その際に暗部の人間を使い、調査をすることも許可されている。しかし、私でも動かせない暗部の組織がある。それが、陛下直属の諜報部隊――『
陛下の手となり足となり働く暗部の精鋭部隊。
その指揮権は国王陛下のみが持ち、国王陛下と国王陛下が認めた人物以外にはいかなる情報も開示しないとされている。
「その暗部が情報をやり取りするために使うのが白い烏なのだそうだ」
「……白い烏、昨日アンジェリーナ様のもとにやってきた鳥のことですね。つまり、殿下はアンジェリーナ様も陛下のご命令で動いていると……しかし、それはおかしいのではありませんか? アンジェリーナ様は……」
「奇妙なことはまだある。実はアンジェリーナ、最近は王妃教育を受けていないようなのだ。担当の教師に尋ねたら『アンジェリーナ様は王国始まって以来の才女でございます。もうこれ以上、アンジェリーナ様にわたくし共で教えられることはありません』と嬉しそうに彼女の功績を話されてしまった。……つまり、ここ最近、王城には王妃教育のために足を運んでいるのではないということだろう」
……私はきっと、アンジェリーナについて何も知ろうとしていなかったということなのだろう。
結局、私は一方的だったということか……彼女のことを知ろうともしないで、私の都合だけを押し付けようとしていた。
だから、王城に勤めている誰もが知っているような情報も私だけが知らないという状況に陥る。ちょっと調べれば分かることだというのに。
「しかし、エーデルワイス嬢の、理由を知らされない何かがあっても一切揺るがない殿下への愛には感嘆させられます。それ程までに愛されていて、正直羨ましいです」
「感情に振り回されない姿は、まさしくご正妃に相応しいご気性だ」
……ガルファールとシリウスは強引に話の方向を変えようとしたようだが、二人とも、そっちはそっちで私の精神をゴリゴリ削る話題なのだが……。
「……殿下? どうされましたか?」
「……アンジェリーナのあれはな、愛は愛でも恋い焦がれる愛ではないのだ」
「ええと……つまり?」
「エーデルワイス嬢は、殿下に恋心を抱いては……いない?」
「おいシリウス。不敬にも程があるぞ。そんな訳あるか」
「……全くもってその通りだ」
ガルファールはギョッとした信じがたいと言わんばかりの視線を寄越し、シリウスは不憫な、痛ましげな視線を向けてくる。同情はやめてくれ……。
「非常に困ったことに、アンジェリーナは私とシュピーゲル嬢の恋を応援するつもりなのだ。……あのカフェテリアの騒動でも、エスメラルダ嬢とレッドローズ嬢と異なり、アンジェリーナはシュピーゲル嬢の貴族令嬢としての態度を注意することがあっても、それ以上のことは一切無かったという。更に厄介なことに婚約破棄に備えているというのだから、私はどこからどう正せばいいのか途方に暮れているんだ。……このままでは、ありもしない私とシュピーゲル嬢の仲を、全力で応援されてしまう」
「うわぁ……」
「殿下が一番不憫だった」
シリウスがお気の毒に、と頭を振った。なんて腹立たしい。……お前らだって私のことを笑っている暇はないだろう?
「それで、ガルファールとシリウスは婚約者二人と話をすることができたのか?」
「それが……学園で会おうとしても絶妙なタイミングで逃げられてしまうのですよ。それもこれも、きっとサンストーン伯爵令嬢のせいです」
アンジェリーナは自らの影響力を考え、あまり多くの人を取り巻きとして連れ歩くことは無かった。
取り巻きはエスメラルダ嬢とレッドローズ嬢の二人だけ……しかし、アンジェリーナが学園を休むようになってから、二人に近づき、瞬く間に取り入った令嬢がいた。
それが、ミスシス・ヴィー・サンストーン……社交界でも目立たない伯爵令嬢だ。
彼女が二人と共に行動するようになってから、ごく自然に避けられるようになった。まるで、私達の行動を予測しているかのように、ごく自然に、私達と遭遇しないように二人を誘導しているように思える。
確かに、そのおかげでシュピーゲル嬢からの被害がカフェテリアの出来事以来起きていないのだが……何故だろう、このモヤモヤ感は。
アンジェリーナが学園に来ないことといい、突然現れたサンストーン伯爵令嬢といい、誤解を誤解のまま解決させないように何者かの意図が働いている気がする。
教会の件を解決しないことには、アンジェリーナ達の誤解を解くことができないが……このままでは例え解決しても取り返しのつかない状態に陥ってしまいそうな、物凄い嫌な予感がする。
「とにかく、まずはサンストーン伯爵令嬢の目的を探らなければならない。……それから、教会の件も迅速に頼む。この件を暴けなければ、シュピーゲル嬢の暴挙を見過ごさねばならない日々も続くんだからな」
シュピーゲル嬢の、あの天真爛漫な振る舞いにはいつも辟易しているのだ。
ファーストネームを勝手に呼び、王太子である私に許しもなく触れる。いつまでもそんなことを見過ごせる筈がない。
お忍びで街へ視察に出た際にも何度かシュピーゲル嬢と遭遇している。最初は彼女の言う通り、たまたま偶然出会ったのだと思っていたが一度なら偶然、二度なら奇跡、三度目なら必然という言葉もあるように、三回を越えれば仕組まれたものであることが確定する。
しかも、日にちも時間帯もバラバラなのに、悉く遭遇するのだ……もし本当にシュピーゲル嬢にこちらの行動が筒抜けになっているのなら、それは由々しき問題だ。王太子の私の予定や移動ルートを把握されている事態など、決してあってはならないからだ。
……いや、それはサンストーン伯爵令嬢も同じか。
だが、もし私の予想が当たっていれば、サンストーン伯爵令嬢が私達の動きを知っているのは別段不思議なことでも無くなる。
……『