ニューメキシコの新種ティラノ軍団…恐怖の支配者「ディナモテラー・ディナステス」

超肉食恐竜ティラノサウルス徹底研究
小林 快次, MOVE編集部 プロフィール

一軍メンバーへの進化の兆しを見せるススキティラヌス

そのディナモテラー・ディナステスに続いてもう一種、ニューメキシコ州からは新たなティラノ軍団が発見されています。こちらの論文は2019年に発表されたもの。

これまでのララミディア大陸南部軍団は、8000万年前以降の恐竜でした。しかし新たに見つかったススキティラヌスは、約9200万年前(チューロニアン期中期)の恐竜です。ススキ(suski)はギリシャ語でコヨーテ、ティラヌス(tyrannus)は暴君王の意味で、コヨーテの暴君王。標本は大人ではないそうで、大きさは3メートルほどと小型です。

この連載で繰り返し伝えてきたように、みなさんが想像する恐竜時代といえば、ティラノサウルスとトリケラトプス、そしてカムイサウルスに代表されるハドロサウルス科の恐竜たちが闊歩していた白亜紀後期の時代でしょう。じっさい、北米大陸はこれらが主体となって恐竜の世界を作り出していました。

このティラノサウルス・トリケラトプス・ハドロサウルスの王国は、8000万年前くらいに確立し、その後およそ1400万年の間、隕石がメキシコのユカタン半島に衝突するまで存続しました。

前回、ティラノ軍団の二軍メンバーが、白亜紀セノマニアン期の始めから白亜紀サントニアン期の終わりにかけて失踪をしている事実に触れ、これを「白亜紀中頃のティラノサウルス類のギャップ」と呼ぶことをご紹介しました。このギャップはティラノ・トリケラ・ハドロ王国の前の時代となり、この空白期間をつぶさに研究すれば、王国の始まりの経緯が解明できるのではないかと考えられています。

たとえば、ギャップ時代のティラノ軍団メンバーであるティムルレンギアの発見により、ギャップ時代のティラノ軍団はまだ大きくなく、一軍メンバーに見られる巨大化は8000万年前くらいにならなければ始まらないと結論づけられました。そして、ティムルレンギアや同時代のシアングアンロンは、まだ巨大化こそ始まっていなかったものの、脳や聴覚、噛む力の発達の兆候が見られ、これらが後の一軍メンバー成立の鍵を握るといわれています。

研究によってススキティラヌスは、そのティムルレンギアと同じ二軍に属する種であることがわかりました。体の大きさはティムルレンギアと同じく小さめで、8000万年前以前のギャップ時代のティラノ軍団が総じて小型だったことがあらためて確認されています。

さらに足の構造を見てみると、足の甲の骨(中足骨)が衝撃を吸収する構造になっており、速く走るのに適していたこともわかりました。この衝撃を吸収する構造は、その後のティラノ軍団にも見られるもの。二軍メンバーは、自分たちが世界を支配するチャンスを、大型化する前から虎視眈々とうかがっていたかのようですね。

* * *

この連載の続きは、メルマガ「MOVEファンクラブ通信」で2月19日(金)に配信予定です。

今すぐメルマガに登録するにはこちらから。

〈小林先生監修&著書のMOVEシリーズ〉

『恐竜 新訂版』
2015年、2016年の最新の発見も網羅した、恐竜図鑑。画期的な羽毛恐竜クリンダドロメウスや飛膜をもったコウモリのような恐竜イー、2016年に発表された日本の恐竜フクイべナトルなど、最新情報がもりだくさん!
 
『恐竜2』
450万部の大人気学習図鑑シリーズを牽引する「恐竜」の最新研究を徹底紹介した図鑑が登場! ティラノサウルス徹底研究、最新恐竜図鑑 2016年から2019年に発見された主な恐竜を紹介。ほかの図鑑には掲載されていない恐竜も多数掲載!
 
『MOVEmini 恐竜』
最新の情報が豊富に掲載された、いちばん新しい恐竜図鑑! ポケットサイズながらも、美しいイラストや迫力のある写真で、臨場感あふれる恐竜図鑑になっています。2018年や2019年に発表された、ハルシュカラプトルやボレアロペルタ、バハダサウルスなどの新種の恐竜も掲載。
『はじめてのずかん きょうりゅう』
脳医学者がつくった「賢い子」を育てる 画期的図鑑の第二弾! ファースト恐竜図鑑として、おすすめです。肉食恐竜ティラノサウルス、スピノサウルスから植物食恐竜トリケラトプス、ステゴサウルスまで人気の恐竜を網羅。
 
『ぼくは恐竜探険家!』
「はやぶさの目」とよばれる、気鋭の恐竜学者・小林快次氏が恐竜学者としての道のりを、恐竜少年とよばれた少年時代から、「はやぶさの目」とよばれ、数々の大発見をなしとげるようになった現在まで、あますところなく語りつくしました。これからの恐竜研究恐竜学者にあこがれる子ども達の必読書です!

関連記事