骨と卵   作:すごろく

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説明要らないかなっと思いましたが、やっぱり書きました。
気長にお付き合い下されば幸いです。


その1 父子の暑苦しい想い。

真っ白な光に包まれて意識が遠のいて行く

なんだか暖かく妙に心地良い

 

(サービス終了その時ってこんな感じなのか、、、初体験だからな、スゴいな)

 

一世を風靡したユグドラシルと言う名のゲームがその12年の幕を閉じた。

そのプレイヤーであった鈴木悟は最後にログインして来た仲間と別れて、全て吹っ切れた。

そう、彼が言っていたようにまた何処かで会えば良いんだ。

気心も知れたし連絡先交換もしてる。何度かオフ会もした。

その内にまた新しいサービスも始まるだろうから誘ってみるのも良い。

だからもう会えない相手に最期は会いに行った。

跡形もなく消えてしまう自身の分身に。

 

ーーーーー

 

NPCはゲーム内のデータ。

当たり前だがサービス中だからそこに"居る"。

データと言えば、鈴木悟もゲーム内ではデータである。

モモンガと言う名の骸骨姿の魔法詠唱者でアインズ・ウール・ゴウンと名乗るギルドのマスターであった。

拠点はナザリック地下大墳墓、難攻不落と呼ばれそこのラスボスとまで称された事もあった。

 

その最奥部、ゲームで得たお宝アイテムの格納場所。

通称宝物殿の守護者として配置されたモモンガ渾身のNPCがパンドラズ・アクターである。

心血を注いだ。

仲間との相談と協力、課金という鈴木の血を惜しみなく注ぎ込んだ。

そんなパンドラズ・アクターだ。

己の最高傑作をまじまじと眺めたい、スクショも撮っておきたい。だってこれでサヨナラなんだから。

 

ーーーーー

 

「チュン、チュン」

「ウん?なんの音?テレビ?」

 

昨夜は分身パンドラズ・アクターを堪能してユグドラシルを終えた。

最後の方はよく覚えてないが多分寝落ちしたのだろう。

とても気持ちよく寝た気がする、久々の熟睡である。

 

だが

 

目を開けた鈴木は驚愕する。そして狼狽した。

「え、え、え?ナニ?何処?え?ちょ、まって、まって!」

そりゃそうだろう。

部屋でオンラインゲームして寝落ちしたと思って起きたら森に居たんだから。しかも自然なんぞとうに消え失せた時代に生きている鈴木悟にはそもそも森の中って状況が"ありえない"話だった。現実の森なんか見た事無いのである。

前に"森林浴"とかラベルにあったアロマオイルと似た香りがする。木漏れ日も差してる。これって間違いない、森の中の風景だ。ナザリックの人口森林がある階層にそっくりだ。

 

(と、すると、まだナザリックに居る?宝物殿から第六階層へ飛んでしまった?それにしても匂い?これは何故だ?確か規制対象だったよな。ったく、最期まで使えねー運営だなぁ。今日でお仕舞いなんだからちゃんとしてくれよな!)

 

鈴木はコンソール画面を出そうとするが出せない。

緊急コールもログアウトも出来ない。

 

(ちょっと待て!コレはヤバい!相当ヤバいぞ!ログアウト出来なきゃ会社行けない!無断欠勤即解雇だぞ!どーすんだよ!ブラックだけどとりあえずは給料貰えてんだぞ、、、。

そ、そーだ。今、何時だ?ゲーム内時間はリアルタイムになってるから、、、朝か?いや、相当陽が高い?よな?昼っ?

えーーーっ!もうアウトじゃん!どーしよ、、、参ったなぁ、、、補償とかあんのかなぁ、、、)

 

森の中に座り込みブツブツと独り言を呟く骸骨。

陽が高くても十分にホラーしていた。

 

「むだんけっきんそくかいこ?魔法の詠唱かなにかでしょうか?」

「違うよ!そんなんじゃねーよ!いや、ある意味で即死魔法かな?はは」

「え!?誰っ!?」

鈴木が驚いて振り返るとそこには見慣れた軍服姿の埴輪が立っていた。

「パンドラズ・アクター?」

 

ーーーーー

 

軍服を着た埴輪は片手で軍帽を押さえて優雅に一回転するとビッと止まり右手を胸に当てまるで舞台挨拶をする役者の様に深く一礼して口を開いた。

「ハイ!んンモモンガ様の最も忠実なる僕にしてナザリック宝物殿領域守護者パンドラズ・アクター、御身の前に」

 

鈴木悟はもう何が何やらさっぱり分からなくなっていた。思考回路は既にショートして煙を出していて機能不能だ。

ゲーム終了で普通の日常が始まると思ったら事故に巻き込まれてログアウト出来ていない。勤めも解雇で途方に暮れていたら今度はゲーム内キャラが声をかけて来た。ショートして当たり前、全てを繋げて理解しているような脳の方が異常だろう。

 

「パンドラズ・アクターよ、ここは一体何処なのだ?」

 

自分が居る場所、これこそが基本である。

寒い場所なら火を起こす必要があるし、暑い場所なら水を見つけなければ死んでしまう。最初の質問は実に理にかなっていた。決してそれしか思いつかなかった訳ではない。ましてやまだゲーム内だと思っているのに寒暖なんぞ関係ないだろう、なんて意地悪は言わないで欲しい。それ程狼狽しているのだから。

 

埴輪は一呼吸おきゆっくりとしかしはっきりと告げた。

 

「恐らくは異世界転生かと。」

 

ーーーーー

 

異世界ってなんだよ?しかも転生?

お前、喋ってる事だけでもお釣りくるほどにパニックなのにナニ落ち着いてんだよ!と鈴木は心の中で突っ込んだ。

そして不思議と突っ込んだら少しだけ落ち着いた。

どうやらここは森の中、ナザリックにあった蟲の武人が守護する氷の世界や赤いスーツを来た悪魔が守護する灼熱地獄でもないようなので直ちに命の危険はないようだ。運営と連絡は取れないし、ログアウトも出来ない。ならば状況を確認して対応だ。目の前の埴輪は恐らくはと言った、少なくともコイツは今の自分より情報を持っていそうだ。先ずはチュートリアルから始めるか。

「パンドラズ・アクターよ、何故お前は異世界転生などと推測する?正直に言うと私には今の状況が全く理解出来ていないのだ。もし何か知っているのなら説明してはくれないか?」

鈴木は可能な限り落ち着いた口調で語りかける。

 

「はっ!モモンガ様は実はまる3日お休みになられておりまして。その間に付近の探索を行いましたところ、ナザリックはおろか周辺の沼地もございませんでした。他の守護者たちの気配も感じません。ちなみに低位ではありますがモンスターの気配が3体ありましたが現在我々には気付いてない模様。危険はないと判断いたします。更に異世界転生が決定的なのは、こうして私がモモンガ様に直接お話させていただける事。かつて宝物殿で何度か試みましたが叶いませんでした。」

埴輪は何故か最後の所だけやけに嬉しそうに報告した。

 

(3日も、、、?あれからそんなに経っていた?だとしたら、このアバターの特性、飲食不要は有効なのか?でも寝てたんだよな。気を失ってたのか?う〜ん、これはいつくか実験、いや検証が必須だな)

「そうか、ご苦労。迅速かつ的確な行動、よくやった。」

鈴木は分身を誉めた。この心細い状況ではコイツしか居ない。実に頼りになる相棒じゃないか。

 

パンドラズ・アクターは舞い上がっていた。

自らの創造主に直々褒めて頂いたのだ。

これほどの歓喜を感じた事はない。

「うンモモンガ様っ!このパンドラズ・アクター、身に余る光栄に打ち震えておりますっ!より一層の忠節を捧げる事、どうかお許しください。」

 

「お、おう。そ、そうか。それとな今は私とお前の2人だけとなってしまっている。そんな堅苦しい物言いは不要だぞ?私ももっとフランクにしたいのだ、お前も、そうだな、可能な限り、主従の垣根を取ってはくれぬか?」

魔王ロールは嫌いではない、寧ろ厨二っぽさが抜け切れていない鈴木は好きなロールだ。しかしそれは日常で非日常を楽しむエッセンス、今はそれでは余りに精神負担が大きい。

 

パンドラズ・アクターは少し驚いたような仕草をして直ぐになにやらモジモジし出した。

なんだコイツ、小便か?てか、そんなのするんだっけ?

 

「どうした?小便か?我慢せず行ってこい。」

 

「いえ、その、今のモモンガ様のご提案で、その、、、

なんと言うか、、、あの、、、」

 

「はっきり言わんか!男だろう!」

 

「ハイ!不詳パンドラズ・アクター、常々望んでいた事がございます!も、モモンガ様の事を、その、、、なんと言うか

、、、。父上と呼びとうございますっ!」

 

暫しの沈黙が2人に訪れる。

とうとう言ってしまった!と気まずく頭を垂れる埴輪と

豆鉄砲を食らった鳩、いや、骸骨。

 

「ハ、ハハっ!」

 

鈴木は初めて笑った。

NPCのあまりにも人間臭い頼みに緊急の糸は緩んだ。

 

「元よりお前は分身とも呼べる存在だ。父上と呼びたければそれを許そう。そして私も、いや、俺もお前を息子と呼ぼうじゃないか!本日只今から俺たちは父子だ!」

 

鈴木は妙な気分だった。

現実には結婚どころか異性経験も無い。

それが成人している息子が出来た。それも夢とも現実とも分からない摩訶不思議な世界、まだ右も左も分からない世界。

だけど何故か嬉しかった。息子と言うより仲間が出来た、そんな気分が心地良かった。独りじゃなくなった、仲間とまた何かを出来る。そんな気持ちは随分と久しぶりで、それが嬉しかった。だからこそ、今、言って置かねばならない事がある。話すべき事がある。

 

鈴木は愛息を真っ直ぐ見つめて口を開いた。

「我が子よ、俺たちは父子の契りを結んだ。なら俺はお前に話しておくべき事があるんだ。これから話す事をよく聞いて欲しい。お前は頭が良い、必ず理解してくれると思う。」

 

ーーーーー

 

鈴木は語った。

ユグドラシルの成り立ち、仲間との出会いと別れ、リアル世界での鈴木悟、NPCの生い立ち、そして今の己の気持ち。

 

パンドラズ・アクターは黙って耳を傾ける。

どの話も驚きだった。己の中の基準が全て崩れ去ると言っても過言では無いほど、衝撃を受けた。

 

どれ程の時間が経っただろう。

一気に語り尽くした鈴木は一呼吸置いて、最後にこう訊ねた。

「どうだ?至高の創造主の実態は。大した事はないだろ。

そんな俺を父と呼び、これからも付き合ってくれるか?」

 

目の前のパンドラズ・アクターはもう自らが作り出したNPCではない。自ら思考し行動する"生き物"だ。コマンド入力で"動く"、そんな"物"ではないのだ。たとえこれが夢の世界だとしても、だ。

 

「父上、委細承知いたしました。では、私からもお話しがございます。先程もチラッと申しましたが、私にはこうなる前の記憶があるのです。そうですね、ユグドラシル時代とでも申しましょうか。あの時の記憶でございます。父上にお声をかけたかったけれど、声が出せなかった。父上とお呼びしても良いかと許可を得たかった。その理由もわかりました。

父上、私はもう何年も父上がたったお一人でナザリックを維持していた事を承知しております。ワールドアイテムを至高の方々と宝物殿に仕舞いに来た時の嬉しそうなお声。やがて無言でユグドラシル金貨を無造作に放り込む、そんな作業にも似た繰り返しの中の寂しそうなお顔。胸が張り裂けそうでした。無礼ながらもお慰めいたしたかった。お話相手になりたかったのです。もう父上のあの様なお顔は見とうございません。私が愛でたいのはワールドアイテムでもマジックアイテムでもございません。父上の笑顔でございます。今こうして直接に言葉をかわせ、父上は私を息子だと仲間だと言ってくださる。何をこれ以上望みましょうや。私、パンドラズ・アクターは父上と共に生きていきましょうとも!」

 

今度は鈴木が驚いた。NPCに"記憶"があったのだ!

しかも記憶のみならず思考もしていたと!これはこの世界だからなのか?いやユグドラシル時代の話だから元々なのか?

最低限の教育しか受けていない鈴木悟には理解の範疇を超えた話だ。

 

「ありがとう、我が子よ」

「こちらこそ、よろしくお願いします父上。」

 

2人の異形は固く握手した。

 

 

 

 

 

 

 




やって見たものの大変ですね。
月に1話ぐらいか、もしかしたらもっとかかるかもです。

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