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壁が覆い尽くす街並みに愕然…高さ9.7メートル「防潮堤に殺された」故郷

川口穣,菅沼栄一郎AERA
延々と続く雄勝湾の防潮堤。中央の空き地付近に64人の犠牲を出した雄勝病院があり、高橋頼雄さんの自宅もすぐ近くだった。奥には高台移転地も見える (c)朝日新聞社

延々と続く雄勝湾の防潮堤。中央の空き地付近に64人の犠牲を出した雄勝病院があり、高橋頼雄さんの自宅もすぐ近くだった。奥には高台移転地も見える (c)朝日新聞社

高さ9.7メートル、圧倒的な威圧感がある。すぐ裏にある海の気配は感じない。かつては住宅が立ち並んだが、今は人が住めない災害危険区域となっている(撮影/編集部・川口穣)

高さ9.7メートル、圧倒的な威圧感がある。すぐ裏にある海の気配は感じない。かつては住宅が立ち並んだが、今は人が住めない災害危険区域となっている(撮影/編集部・川口穣)

 女性が震災前に住んでいた地域は津波で浸水したものの、今も人が住めるエリアで、災害公営住宅も建てられた。入居者は以前から同地区に住んでいた人たちで知人も多い。友人も熱心に女性を誘った。だが、女性が終の棲家に選んだのは縁のない地域だった。以前の友人と会うことはもうほとんどない。

 彼女が今の災害公営住宅を選んだ理由はたった一つ。震災で亡くなった一人娘の夫の職場に近いからだ。早くに夫と別れ、震災で娘と孫を亡くした女性にとって、娘婿はほぼ唯一の縁戚だ。

 義理の息子は5年前に再婚し、再婚相手との間に子どももいる。それでも、今も週6回は女性の元に足を運ぶ。

「ごめんなぁ」

 女性は、つい漏らしてしまう。そして、こうも言う。

「『大丈夫、長生きしてけらいん』と言ってくれる。ありがたいな。でも新しい家庭があるし、『いつまで生きてんだ』と思われないか不安になります」

(編集部・川口穣、ジャーナリスト・菅沼栄一郎)

AERA 2021年2月15日号より抜粋


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