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失敗短編作品 投棄場 作者:唯乃なない
8/9

ダメ作家シリーズ

書けないときに文章を書くと、ダメ作家ネタが書けたりする。

しかも、全部ぶつ切りで終わる。

そんなどうしようもない文章をまとめて投棄する。

■プロット嫌い


「書けぬ……書けぬぞ!」


「書けるぞ、ならわかるけど、『書けぬぞ』かい」


「書けるわけ無いだろう!? 普通に考えてみてくれ、現実に有りもしない滑稽無糖な話をなにもないところからスラスラ思いついて物語を作れるわけがないだろう!?」


「そのためのプロットだろうが。この前プロット書いていたじゃないか」


「ああ、あれ? あれはつまらないからボツにしていまぶっつけ本番で書いている」


「だから書けないんだろう……あれの通りに書けよ」


「馬鹿言え! あれの通りに書いてみろ、良くても二流だ、悪ければ三流だ! しかし、ぶっつけ本番で書いてみればなにか違う話が書ける気がするんだ。もしかしたら一流の作品が……!!」


「いや、無理だろう。無理だからプロット書いているんだろ」


「く、く、くそーーー」



■燃え尽きた作家


「ああ面倒くさい面倒くさい」


「なにがそんなに面倒くさいんだい」


「先週まで書いていた原稿があるんだが、しばらく休んでいたせいですっかり中身を忘れてしまったんだ。確かに大枠はおぼえているよ。でも、登場人物の口調だとか態度といったディティールをすっかり忘れてしまった。せっかくもう一度書きだそうとしたのに、それを思い出すために昔書いた原稿をもう一度読まないといけない。それが面倒すぎてとても耐えられないんだ」


「君……よくそんなんで作家をやっているね」


「不思議なことに、幸いこれで飯が食えているよ。しかし面倒くさい。あの退屈な原稿をまた読まないといけないのか」


「自分で退屈だと思うのかい。よくそれで……」


「書いた時は楽しいんだが、あとで読むと退屈なんだ。そして、どういうわけだかこれが結構人気なんだ。世の中わからないものだよ」


「僕には君のほうがわからないけれどもね。作家というのは変わっているものだね」


「さーて、読まないといけないなぁ……面倒くさいなぁ。どうしようかなぁ。やっぱり今週も休もうかなぁ」


「君、そんなんで本当に作家としてやっていけているのか」


「不思議なことにやっていけてるんだな。なにより昔書いた本がヒットしてるおかげで今のところ生活に困っては居ないのさ。あれほどのヒットを飛ばせる人間はそうはいないだろう。それに、僕にだってまたあれだけのヒットを飛ばすことができるかどうかわからない。というか、多分ムリだろうね。そこから考えてみると、この本を書くことにどれだけの意味があるだろうか。仮にこの本を書き上げたとしてもおそらくあの本の十分の一の売上すらないだろう」


「さっき人気だって自分で言ったじゃないか」


「もちろん、それなりに人気さ。しかし、対象としている範囲が狭いから、趣味の合う人に人気であってもヒットはしない。となると、金銭的には書いても書かなくてもたいして変わらないな。書かなくてもいいんじゃないか?」


「君……大丈夫か?」


「あんまり大丈夫じゃないね」


「君はお金のために書いているのかい?」


「いや、まさか。金持ちになりたくて作家になる人間など掃いて捨てるほどいるだろうが、そんなもので書き続けられるものじゃないよ。書いていない人にはわからないだろうが、想像と妄想を永遠と続けながら文章に書き起こしていくのは楽しくもあるが大変なことだ。金銭のためだけに続けるのは僕には無理だ」


「ならば、なんでそんなに気力がないんだ」


「簡単な事だ。僕は書きたいことを全部書いてしまったんだ。そのうちの幾つかが売れて、それ以外の大部分はたいして売れても居ない。しかし、売れようが売れまいが、僕が書くのは僕が書きたいと思ったことだ。なにしろこの商売は想像と妄想が燃料だからな。書きたいことじゃないと妄想もできやしない。しかし、もう僕には書きたいことなど無い。となるともはや金銭を目的として踏ん張るしか無いのだが、金銭的にもあまり得るものがなさそうで、いよいよ僕の書く気力がなくなりつつあるのだよ」


「スランプというものかい」


「世間的にはそんなものだろうか。しかし、僕の場合は重症だよ。もう書きたいものがない」


「今まで君はなにを書いてきたんだ? 実を言うと僕も君の代表作を二作ほど読んだだけでほかを知らないんだ」


「一番古い友人なはずだが、君は本が嫌いだからなぁ。だからこそ、僕も気楽なのだが。僕が書いた作品かい? 一番古いものではありきたりな恋愛さ。僕も若かったから理想の女性と打ち解けて仲良くなっていくことがこの上もなく楽しく思えたのさ」


「それはみんなそうだろう。なるほど、そんなものを書いていたんだな」


「だんだんとそれだけでは満足できなくなり、かなりひねくれた女性を書くようになった。今読むとその女性のひねくれ方の中に自分の性格が見えてきて嫌になるよ」


「そんなものかね。僕にはよくわからない感覚だね」


「しかし、ひねくれものばかり書いていると新鮮さはあるんだが、だんだんと心が痩せていってしまう。その後の僕はガラッと方向性を変えてミステリーを書いた。いわゆる探偵小説ものさ」


「ああ、よくあるやつだね」


「しかし、やっぱり僕の興味はミステリーにはなかった。中編の駄作を三作ほど書いただけで、僕はミステリーを捨てた」


「なるほど」


「今度は精霊や伝説の宝具が出てくるようなファンタジー冒険小説を書いた。人気のジャンルだったから、有名になれるかもしれないという下心もあった。しかし、やっぱり僕には無理だった。佳作を二編書いただけで終わってしまった。次に宮廷の中の闘争を描いた政治小説を書き、貧民の生活を描いたお涙頂戴話を書き、世界の終わりをかけた神々の戦いを描き出す神話のような話を書き、とにかくメチャクチャに書いた」


「次から次へとよくそんなに書けるものだね」


「まだ燃え尽きてはいなかったのさ」


→しかし、これを書いている作者はここで燃え尽きたのでこの文章はここで終わっている。




■安易な道へ走る作家


「だめだ。書く気力がない」


「じゃあ書かなきゃいいじゃないか」


「そうも行かない。締め切りまでになんとかして書き上げないといけないのだ。内容は糞でも構わないけど、とにかく分量を作り上げないといけない」


「難儀な。適当に書けばいいじゃないか」


「その適当というのが難しい。いくら適当と言えども単純作業をこなしていればできるような仕事じゃなくて、積極的に想像力を働かせないと実現不可能な仕事なのだよ」


「それはわかるが……じゃあ想像力をふるいたてるしか無いんじゃないか?」


「そりゃそうだがね、君。想像力というのは奮い立てようとして奮い立つものじゃないのだよ。なんというか、自然と湧いていくるとしか言い様が無いような、繊細で神秘的なものなのだよ」


「そりゃそうかもしれないけれどもね。そんなことを言っていても仕方がないじゃないか。とにかくふるいたてる努力をするべきだよ。どうだい、例えば感動的な小説や戯曲を見るというのは」


「小説は危険だよ。例えばものすごく面白い小説を読んだとしよう。すると、感動すると同時に『自分にはこんなものは書けない』という事実に打ちひしがれるし、その小説を楽しむことにすべてのエネルギーを消費した挙句にその小説が頭のなかで動き続けてしまってとても自分の小説なんか書く気になれない。じゃあ、というんで、つまらなくて非常にくだらない小説を読んだとしよう。すると、『自分ならこれより大分マシなものが書ける』と勇気づけられるのだが、あまりにくだらなすぎてだんだんと気持ちが麻痺してきて、読み終わった頃には小説なんか忘れて出かけたくなってしまうのだよ」


「はぁ……なんともはや」


「読むだけなら問題ないのだが、それを創作意欲につなげようとするといろいろと問題があるわけだよ。それから戯曲というが、あんなまどっろこしいもの見てられないよ。いっちゃあなんだが、僕は焦っているんだ。一見のんびりしているようにみえるかもしれないが、そうじゃない。心のなかでは常に焦ってどうすればいいか悩んでいるんだ。そんなときにあんな戯曲を見て見給え。文章で読めば10分で終わってしまうものをなんで二時間も書けてやっているのかとイライラしてしかたがないさ」


「君……それは楽しみ方を間違っているよ」


「そんなわけで、お手上げだ。もう、想像力をかき立てようとかそういうことは諦めることにして、想像力が死んでいても書ける小説を考えたいと思う」


「ちょっと待ちなよ。さっきは想像力がないと書けないと言っていなかったか?」


「忘れたよ。とにかく、想像力なんか無くても書ける方法を思いつかないと行けない。よし、考えるぞ」


「帰ってもいいだろうか」


「なにをいうか、君も考えるんだよ」


「そんなことを言われても、僕は小説なんて一行も書いたことはないんだよ」


「いいから考えるんだ。えーと……なにかないか……」


「素人考えかも知れないが、アイディアをカードに書いてそれを引くというのはどうだい。そういうのがあった気がするよ」


「そういえばそうだね。そんなものがあった。しかし、あれは『突然の告白』とか抽象的な事がかいてあるだけだ。それをうまくストーリーに入れ込むにはそれなりの想像力が必要だよ。もっと機械的に書ける手はないものだろうか。一切想像力がない超堅物の人間でも小説がすらすらと量産できるような魔法の手がほしいんだ」


「そんなものはないんじゃないか。もしそんなことができたら、一番初めに君が廃業じゃないか」


「その時はその時さ。とにかく、そんなものを考えようじゃないか」


「仮にそんなものができたとしても、そんな風に書かれた小説が面白いとはとても思えないがね」


「それはそうかもしれないが、量産できてしまえばいいのさ」


「そもそもそこまでして量産する必要があるのかね? 例え少量でも傑作を作れればそれで十分だと思うが」


「そうもいかないのだよ。書く量を抑えて傑作を作れるなら誰も苦労はしていないさ。それに、第一今の僕には締め切りまでにとにかく分量を確保することが最優先なんだ。傑作だとかそういうことは一切気にしていない」


「ならば、褒められたことじゃないが既存の作品をそのまま真似すればいいんじゃないか?」


「なるほど」


「納得してしまうのかい」


「それはいい手だ。誰も読んだことがないような非常にマイナーな作品を探してきてそれを真似してしまえばいいんだな。よし来た。そうしよう」


「おいおい、本気かい」



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