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失敗短編作品 投棄場 作者:唯乃なない
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みんなの夢

 ふと思い立って、クラスのみんなの夢を聞いてみることにした。


 まず、田中に聞いてみた。


「いかつい男目指して肉を食いまくってるんだ」


「いや、脂肪しかついてないんだが。ただのデブ」


「ひでぇっ!」


「しかし事実だ」


「ひでぇっ!」



 次に伊東に聞いてみた。


「歌って踊れる超絶美少女になるんだ!」


「また美少女か。多いな~」


「ただの美少女じゃないんだぜ」


「アイドルとか?」


「いや、東京タワーのてっぺんに立って踊るんだ」


「意味がわからない」


「大勢の人間に注目されながら踊り狂いたいんだよ。パンチラもあるぜ」


「ふーん」



 次に、木田に聞いてみた。


「話すと長くなるんだが……」


「長い? まぁ、いいぜ」


 どいつもこいつも要約すると3行程度の話だったから、長いと言ってもたかが知れているだろう。

 せいぜい10行とか、きっとその程度。


「まず、事の始まりから話を始めないといけないなぁ」


「ん? ちょっとまて、どういうことだ。事の始まり? 普通に話してくれればいいんだが」


「そうはいかないんだ。俺の理想の姿は物語形式で頭のなかに収まっていて、たったひとつでも要素が抜け落ちると全く意味を成さないんだ」


「いや、いらんよ。要約してくれ」


「いや、だめだ! 是が非でも一から十まで一言ももらさずにきっちり聞いてくれ!」


「なら聞かなくていいわ。そんじゃ」


「ま、待ってくれ! き、聞いてくれ! 頼む!」


「どうせ流行りのラノベとかアニメのパクリ設定だろ? そんな他人の設定資料集みたいな話を聞きたかないよ」


「は!? 設定資料集だと!? ちゃんとストーリーがあるんだぜ!? 聞きたくないのか!?」


「別に」


「お、おい! ほんとうに良いのか! ナイスな展開目白押しだぜ!?」


「嘘だな」


「熱い展開、抱腹絶倒な展開、萌えキャラに格好いいキャラ、魅力たっぷりだぜ!?」


「嘘だな」


「濡れ場もあるぜ!」


「まぁそうだろうな。濡れ場がないわけがない」


「そこは同意するのか……。と、とにかく聞いて損はない! 聞いてくれ!」


「断る」


「頼む! 頼むから聞いてくれ! いつかなんとか形にしたいと思っていたんだ!」


「土下座までするとは……凄いな、お前」


「き、聞いてくれるか?」


「だが断る!」


 言ってみたかったんだ。


「そ、そんな……お、おい、俺がここまでしているのに聞かない気か!?」


「ふはは、興味はないな!」


「なんだと、お前はあのいつも片目を隠している白魔術使いがいつも意味ありげに持っている本の中身を知りたくないのか!?」


「……へ?」


 片目を隠している白魔術使いが意味ありげに持っている本の中身……?

 なんだそれ、なんかすこし気になる。


「ってか、そこまで設定作っているのか? なにやってんだお前は……ま、まぁそういうのはちょっと好みかもな」


「だ、だろ?」


「でもまぁ、どうせ禁じられた超強力な魔法が込められた魔術書とかだろ。パターンなんだよ」


「……へ」


 奴がにやりと笑った。


「な、なんだよ」


「そんなありきたりなわけがないだろ!? そんなありきたりなら、俺だってわざわざ言ったりしないさ! やつの持っている本は交換日記だ! しかも驚いたことにあのディーン隊長との交換日記だ。あいつら、普段全然そんな素振りを見せないくせに裏でそんなことしてやがって羨ましい!! ああっ、腹が立つ!」


「ん……?」


 だんだんついていけなくなってきた。一体どうなっているんだ。


「それにしてもあの冷静沈着で、普段表情一つ変えない白魔術師がまさか交換日記を使用人に見られるのが怖くていつでも持ち歩いているなんて……意外とかわいいところがあるんだよなぁ。とはいえ、残念ながら俺は美少女なのでアプローチできないけどな」


「ん? ん?」


「俺が男だったら絶対にアタックしているところなのに……惜しいぜ」


「い、いや、お前……男だろ?」


「この設定の中では美少女なのだ。これはいかなるものにも覆せない事実であるっ!」


 こいつらしからぬ凛とした声が響き渡った。

 背筋がシャキッと伸び、眼光は俺を射抜くようにらんらんと燃えている。

 なんだこの有無を言わさぬ迫力は。

 しかし、言っている内容はおかしい。


「あ、あそうか……わかったよ。じゃあな」


「まて! 貴様、本当に聞きたくないのか!? あの白魔術師のパンツの色が何色なのかということを!?」


 隣の教室まで聞こえるような異様なほどはっきりした発声をする。

 「パンツの色」が思いの外響き渡った気がした。

 なんてやつだ。こんなに恥を知らないなんて、意外と大物だったようだ。


「は、は……?」


 頭のなかをいろんな思考が駆け抜けていく。

 ……ん?


「おい、お前、それどうせありがちな中世魔法ファンタジーな世界だろ?」


「うむ。大まかにはそれに属するかな」


「なんだその言い方。まぁいい。ってことは、別に現代じゃないんだからそんな……パンツなんて野暮ったいものだろ」


 さすがに女子の目も気になるので、パンツは小さめに発音する。


「ククククッ! バァカメェェェ!!」


 異様な表情で大声を発する眼の前の変態。


「その『パンツ』はこの俺が現代から持って行って渡した超セクシーな際どいやつだぁ! ぐへーっへっへっへ」


 どうしよう。

 こいつは俺が思っていたよりやばい人間な気がしてきた。

 そのうえ、理解不能な謎の迫力により、ギャラリーが集まってきた。

 まて、どうなっているこの状況。


「さぁ、その色を知りたくないのかぁ!?」


「ま、まて、お前落ち着け……な? 落ち着け……とにかく落ち着け。な、自分を思い出すんだ。よくわからないが……なんかの暗黒面に捉えられてそうだから、とにかく落ち着け」


 そう言うと、もはや友人とは思いたくないが腹立たしいことに友人である奴は我に返ったように、顔を上げた。


「す、すまん……つい、あの下着姿を思い出してしまって興奮してしまった。俺としたが……」


 ん?


「……見たのか?」


「あ、あぁ。持ち込んだ下着を彼女の誕生日プレゼントに渡したのだが、是非ともつけたところを見たいと女友達の気安さもあって頼み込んだんだ」


「ど、どうだったんだ?」


「す、すばらしかった。自分で履いたのを鏡で見るのもなかなか良かったが、彼女の姿は本当に素晴らしかった」


「ん? ちょっとまて、お前それ自分のも見たのか?」


「せっかく美少女になったわけだし、そりゃ見るだろ。だれだってそうするはずだ」


「ま、まぁそれはそうかも……」


 そうかもしれないけど、これだけ衆人環視の目がある中でそれを堂々と告白できるお前のメンタルはどうなっているんだ。

 ……ん?


「おい、履いたといったな。まさかそれをプレゼントしたのか?」


「も、もちろん洗ったぞ」


 なっ……!?


「渡したのか!? それを渡したのか!? おい、お前何をやっているんだ!?」


「洗った! 念入りに洗った! いくら俺でももう一つ買いに行く勇気がなかったんだ! 本人には言わないでくれ!」


「言わないけどよ……ん?」


 ちょっとまて、これ、ただの妄想だよな。


「いや、なんか熱くなってるけど……そういう設定っていうだけだろ?」


「えっ…………」


 なぜか一瞬固まったが、ぎこちなく頷いた。


「も、もちろんだとも。そ、そう。まさか俺がそんな下着を買ったりするわけないだろう?」


「そう……だよな。なんか思わず俺も乗っちまった。で、それから?」


「あ、あぁ……白魔術使いの下着姿はそれはそれはすばらしくて……でもまぁ、もうちょっと高級な下着のほうが気品あったなーとかいうのはあるんだけどな。物静かな彼女にあの下着は正直だいぶミスマッチ……しかしそれはそれでなんとも表現しきれない魅力が……くっ、思い出してきた……燃えたぎる……」


「お、落ち着け」


「レーアが……いや、その白魔術使いはレーアっていうんだけどな」


「あぁ」


「正確にはレーアっていう発音だ」


 レーアの「れ」は「り」とも「れ」とも取れる発音で、「あ」の前に小さな「ぃ」が入るようにも聞こえた。


「凝った発音だな……」


「日本人には呼びにくいんだよ」


「お前設定懲りすぎだろ……」


「ま、まぁな……。とにかくレーアの下着姿を見れるなんて、なんて俺はラッキーだったんだと悶絶したという話だ」


「妙に凝った変態な妄想だな。なんて変態なやつだ。中世ファンタジーの世界に転生して美人キャラに下着を着せて鑑賞とは」


「いや違う。行き来可能だ。こっちと向こうの世界を自由に行き来できる」


「という設定だよな?」


「……あぁ、そういう設定だ」


「最初から1行で説明しろよ」


「い、いや、違うんだ。これはただのサブエピソードで本編があるんだ」


「本編? 今度こそ三行で説明しろよ」


「はぁ? てめぇ、人の人生なめてんのか!? 人生を3行で要約できるかよ!」


「い、いや、人生って……ただの妄想だろうが」


「妄想は妄想である言わなければならないが、その実、妄想だと断定できないところに物事の奥深さがあるような気がしてならないということなんだ!」


「は? なに?」


「とにかく要約なんて出来ない!」


→ここで終わっている




「色んな人の夢を聞いてみたら、いろんな人がいろんなことを言う」というコンセプトで書き始めたはずが、3人めが暴走を始めてしまった話。

勢いでここまでは書いたものの、「メインストーリー考えるの面倒だなー」とその後書かずにディスクの肥やしになっていました。

たぶんこのまま先を書くことはないでしょうから、ここに置いときます。


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