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失敗短編作品 投棄場 作者:唯乃なない
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意味もない会話劇

「退屈だな」


「ああ、退屈だな」


「うん、退屈だな」


「そうだな、退屈だな」


「ああもう、本当に退屈だ」


「そうだな」


「いや全く本当に退屈だな」


「ああ」


「全くもってどうしてこれほどまでに退屈というものは退屈なのだろうか」


「…………」


「退屈すぎるな」


「…………」


「退屈過ぎるっ! あまりに、あまりに、あまりにっ! なぜ、どうして、どのような神の御心によりこれほどまでに退屈なのか!? あぁ、退屈よ、なぜ退屈は退屈なのかっ!」


「いいんだけど、まだやる気かい?」


「いいや、とりあえず気は済んだ」


「それはよかった。無視をするにしても鬱陶しすぎてどうしたものかと思っていたところだ」


「そんなことよりだな」


「おい、俺のツッコミは無視かよ」


「そんなことより、これをどう思う」


「これってなんだ。俺にはお前がどこを指さそうとしているのかわからないのだが。指先をぐりんぐりん動かすなよ」


「いやいや、これであっている。俺はこうやって指先を激しく動かすことでこの世界の様々な事象を指さしている」


「……疲れてきたから帰っていいだろうか。そういう変にひねった会話はだんだん疲れてくるんだ」


「そうか、それは悪かった。本当のことを言うとなにか話題を出そうと思ったのだが特に何も思いつかずに指を動かしていただけなんだ」


「なるほど。とても納得した」


「しかし、このように部室でひたすら篭っているのも飽きたな。やはり高校生という特権を活かして青春を謳歌するべきだと思うがどうかね」


「そうだな。とりあえず芝居がかったセリフを言い続けるよりはマシだと思うぞ」


「お前のそのテンションはもうちょっとなんとかならないのか。もっとこう、俺のように元気に喋れないのか!? くはははははっっ! はっ! はっ! うげっ……はっ……はっ……苦し、喉になんか行った……っはぁぁ……おげぇ……」


「大丈夫……か?」


「だ、大丈夫……とにかく、この俺のように芝居っけたっぷりに笑ってみるとか、それぐらいのリアクションは出来ないのか!?」


「俺は物心ついたころからそういうオーバーリアクションが大嫌いなんだ」


「なんとつまらない奴。まぁ、いいさ。とにかく我々もたまには部室の外で活動しようではないか」


「分かったよ。分かったから、お前が先に行けよ」


「そうは言われても俺は行き先を決めていないのだよ、君。君が先に行き給えよ、ぬふふ」


「なにが、ぬふふだ。俺だって特に行き先は無いよ。なんだよ、なにか無いのか」


「そうだな。とりあえず校庭に行ってみようか」


「校庭に入ってもしかたがないと思うが、まぁ行ってみるか」


「よし、そう、この道だ。この廊下を右に曲がって、ずんずんと深呼吸をしながら進んでいき、突き当りを左に曲がってほどよく歩いたところで右を向くと正面玄関があるのだよ、旅人よ」


「知ってるよ。というか俺は旅人設定なのか」


「そうだ旅人よ! 見よ、廊下をゆく華麗な女子達がこの俺の華麗なユーモアに華麗に魅了されている!」


「俺個人の感想としては、誰一人として俺達に注目していない気がするんだが」


「ははは、見解の相違というやつだなぁ。いやはや、参ったこれは。あははははははははは」


「……呪われた笑い人形の隣を歩いているような気がしてくるから、その笑い方は辞めてくれ」


「なんだ、全くつまらないやつ。お前もよくそんなフレーズが咄嗟に出てくるな」


「実を言うと今のフレーズは俺的にも感心しているんだ。最初はもっと違うセリフを言おうと……おい待て、こっちは職員室だろう」


「おっと、おおっと……」


「奇妙な動きしなくていいからさっさと行くなら行こうぜ」


「分かった分かった。……えーと、玄関玄関、靴だ靴。この靴箱……じゃなかった、あれ、俺の靴はどこだ? あれ?」


「お前、そっち隣の組だっての」


「のあぁ、しまった! 一つ隣だったか。よく間違えるんだ、これが」


「さすがだな」


「それは褒めているのか」


「そう思っておけ」


「刺があるなぁ。……などと言っているうちにさぁ、ここが我が高校の校庭だよ、旅人よ」


「まだその設定続いてるんか。もういいよ」


「そう言うなよ、旅人よ。見よ、あの戦士たちを」


「戦士……」


「彼らは辛く厳しい訓練に堪えながら、来るべき戦いの日のために準備しているのだよ」


「そうだな。運動部っていうのは本当に過酷だよな。よくやるもんだ」


「見よ、あの美しい戦士たちの勇姿……あれ、女子は?」


「居ないな。休憩中か?」


「なんだ男しか無いのか。つまらないから帰ろう」


「なんで校庭にまで来たのかと思ったら、女子を見に来ていたのか」


「当たり前だ。我々は健全たる男子高校生である。我々が女子高校生を見ないで一体誰が女子高校生を見るというのか」


「そうか。勝手にやってくれ」


「お前いくらなんでもそのツッコミは心に突き刺さりぃっ! ……あ、すいません。ちょっとよそ見していたもので」


「す、すいません。すぐにどきますから」


「あはは……」


「…………」


「……すげぇ怖い顔してたなさっきの人」


「お前がトラックの上を歩いているからだろうが。短距離走か長距離走かしらないが、走り出す前で良かったな。走り出した後にぶつかったら結構あぶなかったんじゃないか」


「それにゴリラに似ていた」


「……そうだな」


「きっとあいつはゴリラの生まれ変わりに違いな……なんだよ」


「やめとけ」


「なんでだよ。いいだろ」


「さっきの人、走りながら時々怖い顔でこっち振り向くんだ」


「は? ……本当だ。うわ、振り向いた。うわ、怖い顔。うわっ、ゴリラ顔!」


「だからやめろって。聞こえてるような気がして怖いんだよ」


「そうだな。では校庭のゴリラ顔は堪能したわけだから、次の観光スポットへ向かおうではないか、旅人よ」


「まだやるのかよ、それ」


「さて、旅人は何を見たいと?」


「別にないけど」


「ほほお。なんと悪代官様、それはそれは、なんとも、ぬふふふ」


「いいけど、俺は旅人じゃなかったのか? いいけど」


「ふひひひひひひひ、それはあまりに下劣ですよ旅人さんよぉ」


「はぁ……疲れる」


「女子更衣室が覗きたいなんて、なかなかの悪ですなぁ、旅人さんよぉ、えぇ?」


「言ってねぇ! 一人で行って来い!」


「そうは言えども旅人さんも一人の男。見たいんでしょう? 見たいんでしょう? 正直におっしゃいなさい、さぁ旅のお人よ!」


「普通に嫌なんだが。別に見たくないっての」


「ははは、これだから旅人というのは強情でいけませんなぁ」


「俺はお前のそのテンションが不思議だよ。そろそろ冷めないか?」


「はっはっはっ、照れ隠しですかな、旅人さん。さぁ、女子更衣室はこちらですよ!」


「いや、こっちプールじゃん。11月にプールなんか水も入っていないだろ」


「だから、プールの女子更衣室でさぁ。げへへへ」


「なんかその笑い方マジでキモいんだけど。演技でやってるにしても、素でキモいぞ」


「お前……凹むこと言うなぁ」


「もう帰ろうぜ。肌寒いし」


「何言ってんだよ、お前……じゃなかった旅人さん!」


「まだやるんかよ……元気だな、お前は」


「目の前には桃源郷があるんですよ旅人さん!」


「誰も居ないだろうが、いいから帰ろうぜ」


「そうじゃないんだよ旅人さん。旅人さんにはロマンってものがわからないらしい」


「だからそういうのいいんだって。普通に喋れっての。帰ろうぜ」


「お、おい、ちょっと待てちょっと待て。まじでお前にはこのロマンがわからないのか?」


「はぁ?」


「だからよぉ、今は誰も居ないけど、夏は女子達がこの中で着替えをしているわけだろう」


「そりゃな」


「だろう? ということは数カ月前まで女子達が裸で居た空間ということだ! ここに潜入する……興奮するだろ?」


「いや別に」


「なんでだよっ! 正直に言ってみろ、興奮するだろ?」


「お前が興奮するんだろうということはわかるけど、俺は正直別になんとも思わない」


「へっ、これだから! 全く優等生ぶっちゃって本当にまったくもうったらもう」


「行くなら一人で行ってこいよ」


「あーあー、これだからロマンのない男は……。仕方ねぇ、いっちょここは俺が一人で……」


「行けばいいだろ」


「……行くかよ」


「なんだ、本当に行くのかと思った」


「い、いや、さすがにやばいだろ。行かないよ、いくら俺でも」


「なんだよ、さっき自分で行くって言っただろ。行けよ」


「もういいって。部室帰ろう」


「なんだよ、自分であんだけ引っ張っといて行かないのかよ」


「うるさいな。別にいいだろう! ……あぁ、や、その、なんでもないです!」


「あ、そ、そうです。全然なんでもないんで! 別に、あの、本当に!」


「違うんです、違うんです! 本当になんでもないんです! ただの冗談を話してただけで、忘れ物じゃないで!」


「あ、はい、そうです。こいつの言う通りで。自分も特に忘れ物とかしてないですから」


「は、はい、じゃ…………ビックリした」


「お前がアホなことしてるからだろうがっ!」


「やーもー……まさか先生来るとは思わんかった」


「ったく! ……にしても、『忘れ物した?』とか言ってたけど、この季節にプールに忘れ物するわけないだろうがなぁ。秋田先生もかなりボケてるよな」


「あーくそ、ビックリした。あービックリした。あ~、秋田先生でよかった。滝沢とかだったら普通に怒鳴られてたぜ」


「まぁな。ってか早く戻ろうぜ。寒いし」


「いやいや、それじゃつまらんだろう。やはりここは俺らも真面目に部活動をするべきじゃないか?」


「真面目に部活動ってなにやるんだよ。前々から思っていたんだが、電卓・ワープロ部って何をやればいんだ? 一応部室に古い電卓と電源が入らないワープロはあるけどな。入部して一年半が経つが、未だに活動内容がわからない」


「お前もよくそんな部に入ったな。俺もだけど」


「暇だとは聞いていたからな。だけど、まさか幽霊部員65名を抱える大勢力だとは思わなかったよ。今年も大量に入ったから今だと80名を超えるのか」


「だが、アクティブに活動しているのは俺とお前の二人だけだな。さしずめ、俺達は影の組織のツートップというところだな。かっこいいぜ」


「格好わるいと思うが。本気で早く戻ろうぜ、マジ寒い」


「へへへ、旅人さんよ。我々は影のツートップらしく仲良くやっていこうじゃありませんか。げへへ」


「別にいいんだけど、悪の組織の一員みたいな言い方をしておいて俺は旅人なのか?」


「いいじゃありませんか旅人さんよ。旅人さん、見なされ、あの憎き運動部の奴らを」


「別に憎くないけど、なんだよ」


「やつら、運動部の特権でこんな広い校庭を独り占めしてるんですぜ。許せないと思いませんか、兄貴!」


「いや、別にいいだろ。そもそも寒い中でよく頑張ってるなって……お前もさっき言ってただろ。ってか、俺が兄貴なのかよ」


「ワープロ部の威信にかけてやつらを打倒してやりまっさー!」


「いや、まじかよ。ま、まじで走るなよ! おい、そっちトラックだろ、おい!!」


「これからは俺達の時代だあああぁぁぁぁ~~~~~~……げふっ」


「あ、ゴリラさんに正面衝突……」

会話だけで移動と状況を説明する遊びをしてみた文章。

むかしの書きかけを引っ張り出してきて無理やり完成させて投稿しました。

書いてみたけどオチがないので失敗作扱いで。

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