森会長が辞任表明 川淵氏は一転辞退、五輪組織委
東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(83)は12日、評議員や理事らによる臨時の合同懇談会で自らの発言に責任を取り、辞任することを正式に表明した。後任としてあがった川淵三郎・元日本サッカー協会会長(84)はいったん受諾したが、不透明な「後継指名」の経緯に批判が高まり12日に辞退した。会長選びは振り出しに戻り、組織委のガバナンスの欠如を露呈した形となった。
理事会での手続きを経て決定するはずの後任会長を森氏が川淵氏に託そうとしたことは、ルールに基づかない行為として理事の中からも問題視する声が上がっていた。
男女平等と反差別という五輪憲章が掲げる理念を損ない、その後の対応でも失策を重ねた。国際的な信頼回復が組織委として急務となるなか、後任会長選びではより透明性の高い選考プロセスと説明責任が不可欠となる。次期会長の選出に手間取ったり不透明な経緯で再び批判を浴びたりすれば、ガバナンスが問われ大会の開催能力そのものに疑問符が付くことになる。
この日の合同懇談会で後任の選考プロセスについて、理事会のもとに、アスリートら10人弱で男女比をほぼ半々とする選考委員会を設けることが承認された。選考委のメンバーは理事から選ぶが当面は非公表とし、選考後に明らかにする。委員長は組織委の御手洗冨士夫名誉会長(85)が就任する。具体的な選考スケジュールは明らかにしなかった。
新会長は選考委員会で候補者を絞り込んだうえで、理事会に諮られる。定款や規則によると、組織委の会長を選定する権限は現在35人の理事で構成する理事会にあり、理事の過半数の出席のもと、半数超の賛同を得て決議されることが必要になる。
組織委の武藤敏郎事務総長は合同懇談会後の記者会見で「選考委員会をできるだけ早く開く。(選考委で)1人の候補者を選んでもらうことが望ましい」と後任候補の絞り込みを急ぐ考えを示した。武藤氏は組織委に男女共同参画を推進するプロジェクトチーム(PT)を立ち上げることも明らかにした。
森氏は12日の合同懇談会で「きょうをもって会長を辞任する。五輪の開催準備に私がいることが妨げになってはいけない」と述べた。森氏は「女性を蔑視するとかそういう気持ちは持っていない」としつつ「本当に情けないことを言った」と陳謝した。森氏は理事会で承認されれば正式に会長職を退く。
一方、川淵氏は懇談会後、「白紙に戻し、辞退する。新会長に最大限の努力をしてほしい」と述べた。新たな後任候補として橋本聖子五輪相らの名前が浮上している。
新会長には、観客の受け入れの是非など、開催方法をめぐる決断が求められる。政府や組織委などは3月にも観客数の上限を決める方針で、無観客や収容人数の50%を含めて想定し検討を進めている。海外客を受け入れるかも焦点となる。4月にはラグビーや競泳などのテストイベントも控え、大会準備は大詰めを迎える。
森氏は今月3日に日本オリンピック委員会(JOC)の会合で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言し批判を招いた。翌日の記者会見で謝罪し発言を撤回、続投の意向を示したが、反発は収まらず辞任を決断した。
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- 石塚由紀夫日本経済新聞社 編集委員分析・考察
会見を拝見しました。女性蔑視発言を「解釈の問題」と捉えるなど、最後までご自身の発言や認識のどこが問題であったのかを理解なさっていない様子で、残念でした。 加えて違和感を持ったのは、辞任表明が終えた後、参加者から拍手が挙がったこと。確かにここまで活動を引っ張ってきた功績は評価すべきかもしれません。でも、そんな功績も吹き飛ばすくらいの失言でした。あの場で拍手が起こる組織委員会も今回の問題の深刻さを認識していないのでは――そんな印象です。
(更新) - 木村恭子日本経済新聞社 編集委員今後の展望
会長人事を巡り、静観していた首相官邸が動き出しました。後任人事が「森ー川淵ライン」で決まりつつあったところに、川淵氏が一夜にして辞退するというどんでん返し。 背景には、これまで森氏の進退については「組織委員会が判断すべき」と距離を置いていた菅首相が、批判がおさまらない世論を懸念している旨を、組織委の武藤事務総長に伝達。武藤氏は、IOCのバッハ会長が森氏と並ぶ女性の共同会長を置くよう提案していたことを明らかにし、「女性登用」の可能性が高まっています。 海外の人権団体も後任人事を注目しているといわれ、いま有力候補として挙がっているのは、橋本聖子五輪相。ご本人の判断はいかに。望む、早期決着!
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