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2019年10月10日 公開
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。株式会社モバイルファクトリー社外取締役。一橋大学経営管理研究科非常勤講師。『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』(KADOKAWA)、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)など著書多数。新著に『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)がある。
――山口さんは今年(2019年)7月に上梓された新著『ニュータイプの時代』で、「世界は変わった。戦い方も大きく変わる」と喝破されています。世界は具体的に、どう変わったのでしょうか。
これまでの日本で高く評価されてきたのは、従順で、論理的で、勤勉で、責任感の強い人物でした。そうした価値観の追求が、かつての経済成長をもたらしたのは事実です。翻って、現在の日本に目を向けてみて下さい。世界に取り残されて、G A F A(Google、Amazon、Facebook、Apple)のような会社は一向に生まれない。それはつまり、VUCA化(V=Volatile/不安定、U=Uncertain/不確実、C=Complex/複雑、A=Ambiguous/曖昧)した社会では、従来の「昭和的価値観」が通用しないことを意味します。
――ビジネスパーソンの声に耳を傾ければ、「これまでのやり方を踏襲するだけではダメだ」と感じている人は一定数います。しかし社会全体としては、何の変化も生じないまま平成が幕を閉じました。
残念ながら、昭和的価値観を規範として崇めている企業は依然として少なくない。私も多くの企業と仕事で付き合っていますが、昭和的価値観はようやく「終わりの始まり」を迎えたという感覚です。日本社会が完全に脱却できるのは、まだ時間がかかるでしょう。これはある意味、致し方のないことで、あらゆる物事は始めるよりも終わらせるほうが難しい。いつまでも別れた恋人を忘れられない人が多いのと同じです(笑)
ならば、少しでも終焉を早めるために、誰かが声をあげなくてはならない。私が『ニュータイプの時代』に込めたのは、「昭和的価値観は終わりです。昭和の『葬式』をして昭和に別れを告げて、次の時代に向けて皆で歩みはじめましょう」というメッセージです。
――「葬式」という強い言葉に、山口さんの危機感が表れているように思えます。
これまでの「正解」と「不正解」を逆転させるわけですから、容易ではありません。たとえば、「仕事に感情を持ち込むな」とは、昭和の職場でよく聞かれた言葉です。そこに突然、「喜怒哀楽は大事だ、仕事を推進するエネルギーになる」と呼び掛けても、戸惑いや反発を生むだけでしょう。
まず大事なのは、絶対視されている古い規範を相対化することです。「仕事に感情を持ち込むな」という考え方は、はたして「いまの時代」でも合理的で有益な規範なのだろうか。そう問いかけて、物事を一歩引いて俯瞰することが大切です。まずは昭和的価値観に疑いの目を向けて――すなわち「葬式」を開いたうえで、本当に必要な人材や思考が何かを考えなくては、日本社会に未来はありません。
――それでは、令和時代の企業は新たにどのような価値観に拠ればいいのでしょうか。
私は昭和的価値観に縛られている「オールドタイプ」と対比して、「ニュータイプ」という言葉を用いています。これからの世界では、自由で、直感的で、わがままで、好奇心の強い人材が求められます。『ニュータイプの時代』では細かく24の項目に分けて紹介していますが、私がとくに強調したいのが「役に立つ・役に立たない」から「意味がある・意味がない」へと価値の源泉をシフトすべきということ。なぜならば、現在はもはや「正解」の価値が低い世の中だからです。
――どういうことでしょうか。
たとえば、洗濯機の開発を考えたとき、「綺麗さ」「時間の短さ」「静かさ」「水の少なさ」を追求することは、人びとの暮らしに「役に立つ」家電をつくるという意味では正解です。ところが、家電量販店に足を運んでみて下さい。飽くなき開発競争の末、店頭にはハイスペックの洗濯機が何台も並びます。私にはむしろ、すでに顧客の求める水準を不必要に超えている製品ばかりに思える。テレビでいえば、モノクロからカラーに移行したくらいのインパクトがなければ、もはやユーザーにとっては大きな意味を成しません。4K・8Kの時代と叫ばれていますが、どれだけのユーザーがそれを待ち望んでいたでしょうか。
――たしかに洗濯機でいえば、「この新製品は従来よりも3分速く洗える」と言われてもピンときません。
役立つもので溢れているいま、「よりスペックの高い製品をつくる」ことは、正解であっても価値は低い。そこでニュータイプの企業がどう展開しているかといえば、彼らは「意味がある・意味がない」という判断軸でビジネスのポジショニングをとっている。
昨今、Dysonの掃除機が人気です。なぜかと言えば、多くの人が「Dysonがある家にしたい」と考えるからです。Dysonの掃除機は役立つものでありながら、同時に他の製品にはない付加価値を備えている。機能では日本製も負けていませんから、それでもDysonの掃除機を選んでいる方は、そこに何かしらの意味を置いているのです。
車を例に挙げれば、昔からフェラーリやランボルギーニに代表される高級車は羨望の的でしたが、燃費が悪いなどのデメリットも少なくない。スピードにしても、日本の公道では存分に試すこともできません。にもかかわらず、いつの時代も3000万円以上を出してランボルギーニに乗る方は存在します。今後、カーシェアリングや自動運転が普及しても、ドイツ車や高級車はそこに意味を見出す愛好家たちがいるかぎり、市場から消えることはありません。