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女神『異世界転生何になりたいですか』 俺「勇者の肋骨で」 作者:安泰
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第六十七話:『魔王に最初に滅ばされる国の宝物庫に設置された罠』


「いやぁ、暑いですね。暑すぎて体が融けちゃいそうですね」

『比喩表現ではなく融けているのですが、開幕から人間を辞めないでもらえますか』

「ゴムのような柔軟な体作りをしていたので、熱に弱いんですよね」

『貴方の骨の成分、通常のものと違いませんかね』

「普通だとは思いますよ。気になるのでしたらいろいろな機材がありますので、調べてみては」

『金属探知機にガイガーカウンター、どうしてこんなものがあるのか』

「お題箱の調査用に購入したんですよ」

『なるほど。しかし金属探知機とかに引っかからないからと言って、普通だとは――』

「俺の体に反応していますね、金属探知機」

『融けている体のどこに金属要素が』

「最近筋トレとかして、鋼のような体を手に入れたからかもしれません」

『ゴムのような柔軟な体作りをしていたのでは』

「鋼のゴムですよ」

『軽く矛盾していませんかね。そもそもそこまで筋肉質でもないでしょうに。体の下に金属でもあるのでは』

「ちょっとどいてみましょうか」

『動きが完全にスライムのそれですね。そして足元にあるのは……』

「IHヒーターですね」

『そりゃ融けますね。……融けるのですかね?』

「肩こりは解けてますね」

『肩こりどころか肩まで融けてますからね。どうして足元にこんなものが』

「足つぼマッサージになるかなと」

『普通にマッサージ機を買いなさい。暑いのもそれが理由でしょう』

「いえ、暑いのは太陽が照っているからかと」

『妙に明るいと思ったら空が青い』

「俺が言うのもなんですけど、気づくの遅くないですかね」

『どうして私の空間に空があるのでしょうか。しかも太陽つきで』

「天井をつけてみました。あれは太陽型電球ですよ」

『本当だ、よくみたら空色の天井がつけられている』

「空に向かってノックする動作をするだけで、天井から音が聞こえてくる」

『わざわざ浮いてまで確かめにはいきませんよ』

「下から覗きたかった」

『だから浮かないのですよ。ほら、元の体に戻る』

「リスポン。太陽型電球ですが、周囲の温度をガンガン上げてくれる常夏機能付きなんですよ」

『冬には欲しい機能ですが、この空間にはいりませんね』

「でも日焼けもできますよ。女神様もたまには小麦色の肌になりましょうよ」

『私の肌を焼くには温度不足ですね。太陽の中に入ってもダメージありませんし』

「辛いものを食べたらすぐに汗をかくのに」

『食事は楽しめるように調整してありますから』

「つまり食べることで日焼けする食べ物を作れば良いということですね」

『食事をするだけで肌の色が変わる食べ物はあまり食べたくないですね』

「美肌に良い食べ物も肌が白くなったりするじゃないですか」

『それとこれとは違うと思いますが』

「次回辺りには用意しておきますね。今回はそろそろ転生の時間ですし」

『次回という言い方は止めなさい。今回はガチャの準備などが見られないようですが』

「実は今回の転生先は既に引いておりまして。ずっと表示している状態です」

『どこですか。あの太陽型電球あたりですか』

「よく分かりましたね」

『私もこの展開長いですからね』

「ちょっと光度を下げてみましょう」

『うっすら見えますね。まだ眩しくて読めませんが』

「サングラスをどうぞ」

『ここまで用意周到にするほど見辛いのを予測しているのなら、最初から別のアプローチを考えれば良かったのでは』

「サングラスをつけた女神様を見たかったので」

『……ほら、早く読みなさい』

「はい。玄米茶さんより『魔王に最初に滅ばされる国の宝物庫に設置された罠』」

『罠ですか。どちらかと言えば引っ掛かりそうな方ですよね』

「そうですね。俺はあまり罠とか見破るの得意じゃないんですよ」

『でしょうね。罠を全部踏み抜きながら進み続けるタイプですものね』

「即死系のイベントとかとは疎遠気味ですからね。結構おせおせでもなんとかなるんですよ」

『そうでしょうか。私の印象だと見る度に死んでいますが』



『肌は焼けませんが、日向ぼっこごっことしては悪くありませんね。いっそ水着にでもなれば常夏気分を味わえるのかもしれませんね』

「ただいま戻りました。水着でしたら用意してありますよ。スク水からビキニまで、紐とかも完備です」

『おかえりなさい。とりあえず報告はその太陽型電球の上でしなさい』

「それは構いませんけど、眩しくないですか?」

『サングラスをつけておきます』

「よくお似合いで」

『魔王に最初に滅ばされる国の宝物庫に設置された罠でしたか』

「はい。魔王ズーミーによって滅ぼされた国、ヴォルテロストの城にあった宝物庫に設置された罠に転生してきました」

『魔王よりも威圧感のある国ですね。ちなみにどのような罠になったのでしょうか』

「罠といったらやっぱり落とし穴ですよ」

『否定はしませんが、宝物庫の罠としてはどうなのでしょう』

「宝物庫に入って第一歩の位置にスタンバっていましたね」

『それ城の人も落ちませんかね。解除すれば起動しないタイプの落とし穴でしょうか』

「いえ、ホログラムで巧妙に周囲に溶け込んだ常時開放型の落とし穴でした」

『ファンタジー世界なのですから、そこはせめて幻影とかにしてほしかったですね。そして常時開放型なら、宝物庫に宝を運ぶ時とかどうしたのですか』

「そこは梯子をかけてですね」

『欠陥住宅ですね』

「ちなみに最新式の落とし穴で、多少ならサイズも変更できます」

『物理法則を無視するあたりはファンタジーですね』

「梯子を掛けられていても、それごと飲み込んでやりましたよ」

『運び入れる人が可哀想ですね』

「宝物庫に宝を運び入れる人はマカユという若い兵士の男でした」

『男の兵士ですか、容赦なさそうですね』

「はい。できれば女の子に上を通ってほしかったので、マカユが上を通る度に落としてやりましたね」

『欲望に素直』

「でもまあマカユは中々骨のある若者で、数回落ちた程度で仕事を辞めた者達と違って全然辞めようとしませんでしたからね」

『しれっと確認された犠牲者達』

「マカユは独り言が多く、最初はよく悪態をつかれていましたが、一年も経過するころになると俺の中で日々の苦労とかを独白するようになっていましたね」

『余裕出てますね。でも落とし穴に落ちることが一番の苦労かと思うのですが』

「半年を過ぎた頃辺りからは落下のテクニックも上達していましたからね。むしろ俺の中が落ち着くまであったようです」

『落下のテクニックとは』

「宝を傷つけないように、かつ落下時のダメージを完全に殺すように落ちてきましたよ。見事な五点着地でした」

『宝を持ちながらの五点着地はテクいですね』

「休日の日などは俺の中でキャンプをする日もありました」

『慣れ親しむにも程がある。今回貴方は言葉を話さなかったのですか?』

「そうですね。落とし穴から声が聞こえたら、ホラー系と勘違いされて埋められるかもと思ったので」

『どんなに上手く渡ろうとしても、穴が広がって落としてくる落とし穴は十分ホラーですよ』

「まあそんな意思を感じられるような落とし穴だったからこそ、マカユも親しみを持ってくれたのでしょう」

『自分を散々落としてくる落とし穴に、親しみもなにもあったものではないと思うのですが』

「でもプロポーズが成功した時とか、娘さんが生まれた時とか、嬉しそうな顔で報告落下しにきましたよ」

『親しみは持たれていますね。報告落下て』

「ですがある日、宝物庫の外が騒がしいことに気づきました」

『急に真顔になりましたね』

「最初はいつもの王様によるワンマンライブでも始まっているのかなと思ったのですが、そうではなかったのです」

『いつもワンマンライブを行っている王はちょっと嫌ですね』

「なんと魔王の軍勢が攻め込んできていたのです」

『魔王によって最初に滅ぼされる国でしたね』

「そして叫び声が響く中、深手を負ったマカユが宝物庫に現れ、俺の中へと飛び込んできたのです」

『落とし穴なのに落ちるという描写ではなく飛び込むというのも妙な話ですね』

「その時のマカユは一本の剣を握りしめていました。それはヴォルテロスト城の地下深くに封印されていた勇者の剣」

『地下にも宝を保管する場所があったのですね』

「魔王は自分を傷つけられる唯一の武器、勇者の剣を奪うためにこの国を攻めてきており、地下の封印すらも破ったのです」

『用意周到系魔王ですね。ふむ?しかし地下の封印を破ったのならば、なぜ一兵士の男が勇者の剣を持っているのでしょうか』

「それはですね。封印が解かれ勇者の剣が持ち去られそうになった時、王様が魔王の前に立ち塞がったのです」

『ワンマンライブとかしているだけに格好付け方は上手いですね』

「そしてこの国で最も優れた兵士に勇者の剣を託し、自分が魔王と戦っている間に、安全な場所に持っていくようにと命じたのです。その兵士こそがマカユだったのです」

『最も優れていたのですか』

「毎回俺の中に落ち、宝を持ったまま這い上がるトレーニングをしていましたからね」

『ちょっとした筋トレになっていますね。そういえば落とし穴の深さってどのくらいだったのですか』

「普段は数百メートルくらいでみょんみょんしていましたね」

『想像以上に奈落だった。よく生きていましたね。前々の被害者も込みで』

「最初は数メートル程度だったのですが、マカユの五点着地が見事だったのでついみょんみょんと」

『可愛く言っていますが、みょんみょんと落とし穴が数百メートルも伸び縮みするのはホラーですよ』

「ちなみに横幅とかも同じくらい伸ばせますね」

『横幅広げたら城の地下とかと被りませんかね』

「ちょっと壁消しちゃったりしましたけど、そこは魔法とかで補修できましたから」

『地下にいた人から見れば、突然目の前に奈落の大穴が出現する形ですね』

「ただそのマカユも所詮はただの一般人。勇者の剣を持ちながら魔物の軍勢を突破し、国から逃げることは困難だと悟ったのです」

『断崖絶壁を頻繁に登り降りする一般人とは』

「マカユは勇者の剣を俺の底に置き、言いました。『俺が知る最も安全な場所はここだ。お前なら必ずこの剣を然るべき相手に託してくれる』と」

『落とし穴に対する信頼が異常に高い』

「その後マカユは『俺もここにいたいが、妻と子を逃がさなきゃならない。達者でな』と登っていき、それ以降は姿を見ませんでした」

『その後の情報はなかったのですか』

「俺は宝物庫の罠ですからね。宝物庫の外の様子を知るすべはないのです」

『王様のワンマンライブは聞こえていましたがね』

「暫くして大勢の魔物が宝物庫へと侵入してきました。勇者の剣の場所を魔法で把握されてしまっていたようです」

『情勢的には王も敗れ、国が滅んだ状態でしょうから、物量作戦で突破されそうではありますね』

「俺はマカユに託された剣を守るために、全力でみょんみょんしました」

『必死さがイマイチ伝わり難い』

「深さが大体十数キロくらいまで伸びましたかね。もう城の地下とかも全部飲み込むレベルでみょんみょんと」

『マリアナ海溝並だった』

「魔物達は勇者の剣を手に入れようと俺の中へと挑んでいきます」

『ラストダンジョン並の難易度はありそうですね』

「壁を伝い降りようとする魔物にはホログラムで偽の凹凸を見せ、転落させてやりました」

『ホログラム要素活きましたね』

「飛んで降りようとした不届き者には石をぶつけて、転落させてやりました」

『普通なら賢い選択なのですがね。そもそもどうやって石を投げたのか』

「それはもう壁をみょんみょんとさせて」

『手足は生やしてなかったのですね。みょんみょんというとゴムのような壁をイメージしますね』

「転生前に体を柔らかくする忍術を体得していましたからね」

『あのIHヒーターで融ける珍事を活かしていたとは。しかし結局的には落下ダメージしかないのであれば、中には底に落下してから生存していた魔物もいたのでは?』

「俺の底には剥き出しの勇者の剣がありましたからね。握り手を地面側に突き刺した状態で」

『剣山トラップの材料に勇者の剣を使いましたか。落下先に剥き出しの勇者の剣は強力ですね』

「魔物は死んだら塵に還りますから、再利用は簡単でしたね」

『落下ポイントにピンポイントで勇者の剣があるかどうかは気になりますが、みょんみょんしたのでしょうね』

「ええ、床の位置もみょんみょんとみょんみょんしてやりましたね」

『他に擬音を知らないのですか貴方は』

「ですがここで諦めない魔王軍のしぶとさ。魔王ズーミーは魔物達に命令し、俺の中に足場を建設し始めたのです」

『わりと現実的』

「まあ壁をみょんみょんして足場ごと魔物を落としてやりましたけどね」

『しかしこっちが非現実的』

「そしてとうとうズーミーは勇者の剣を諦めます」

『生きているダンジョンのような存在が全力で妨害してきますからね。しかししぶとさを説明していたわりにすぐに諦めましたね』

「二十年くらいは妨害していましたからね」

『想像よりはしぶとかった』

「ズーミーは『こんなん勇者も取れんやろ』と捨て台詞を吐いていましたね」

『吐くでしょうね。関西訛りなのは謎ですが』

「ちなみにここに帰る前に創造主の人に聞いた後日談ですが、そのズーミーは勇者の剣を手に入れた勇者によって倒されたそうです」

『ちゃっかり勇者が回収できていますね。どうやって回収できたのか』

「魔王が諦めた後も、盗賊とかがちょくちょく来てたんで適当に飲み込んでいたんですよ」

『滅んだ国の宝物庫なら、盗賊からすればお宝の匂いがするスポットですからね』

「そうしていたところ、ある日可愛い女の子が入ってきたので、すっと深さを五十センチくらいにして勇者の剣を差し出したんですよ。そうしたらちょうどその女の子が勇者だったのです」

『魔王軍を散々飲み込んだ奈落の穴が、一瞬で子供騙しの落とし穴になりましたね』

「俺としてはマカユに言われた通り、然るべき相手に剣を託せたので満足ですね」

『勇者が男だったり女盗賊が現れていたりしたら、世界滅んでいませんでしたかね、それ』

「ただ本能に身を任せた行動とはいえ、罠としての役割を放棄した俺は概念死してしまいました」

『その死因が適用される環境で、よく勇者の剣を勇者に託せるまで生きていられましたね』

「まあ未練は色々とありましたね。勇者の剣を手に入れて喜んで帰っていったスカートの似合う勇者、あの子が俺の上を通ることがなかったこととか」

『本当に未練がましい表情ですね』

「あ、あとマカユが無事に家族で国を脱出できたかどうかとかも気になりますね」

『未練を微塵も感じないいつもの爽やかな顔ですね』

「マカユなら大丈夫だろうなって思っていますし。ちなみにお土産は勇者に忘れ去られた宝物庫のお宝を持ち帰ってきました」

『金銀財宝に興味はあまりないのですが。一つだけお土産棚に仕舞って、残りは貴方の趣味の活動資金にでもしたらどうですか』

「そうですね。ではこのワンマンライブ中の王様の黄金像をお土産棚に飾っておきます」

『半裸で絶叫しているおっさんの像を選びますか。布を被せておいてください』


8月中に投稿しようと思ったらギリギリ間に合わなかったです。てへ。

今月中にもう一本くらいは更新すると思います。書籍化とかの情報でモチベが上がれば数話いくかもしれません。モチベーションは大事、暑さも跳ね飛ばせますからね。

皆さんも暑さを跳ね除けるモチベーションを養っていきましょう。

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