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女神『異世界転生何になりたいですか』 俺「勇者の肋骨で」 作者:安泰
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第六十六話:『勇者の棺桶』

『ごちそうさまでした』

「お粗末様でした。ところで女神様、ちょっと問題が起きているのですが」

『それ食事を始める前に言えなかったのですか』

「いやまあ、俺にはどうしようもない案件でもあるのですが、そこまで大事になりそうではなかったので」

『ふむ。聞きましょうか』

「転生先を決める方法って今おみくじじゃないですか」

『そうですね。少し前はソーシャルゲームのガチャでしたが』

「一応これって通販のガチャシステムで、実際に送られてきた転生先を入れている箱から自動で取得している形なんですよ」

『無駄にハイテクですね』

「んで、送られてきた転生先は基本的に以前使っていた目安箱に保管されているわけなのですが……こちらです」

『何だが禍々しいオーラを放っていますね。一体どうしてこうなったのか』

「原因を調べてみたのですが、どうもお題の件数が六百六十六に達成してしまったのが原因のようでして」

 ※ついでに六十六話目。おかげさまでお題の数が666件を突破しました。こんなキリ番で喜んでいいのやら。

『獣の数字、いわゆる不吉な数字というものですか。はて、私はその数字を不吉と呼ぶ神とは疎遠なのですが』

「地球では不吉な数字でしたからね。地球出身の人が送ったからそれっぽく要素を拾っちゃったんですかね」

『要因があるとすればそれくらいでしょうか。外部の神の仕業も考えられますが、とりあえず邪気は祓っておきましょうか』

「中身まで消し飛ぶ奴じゃないですよね」

『邪気に込められた業の深さによりますね。邪な気持ちが込められていれば、それ相応の出力は使います』

「多分ダメそう。せめて今回の分の転生先だけでも引いておいて良いですかね」

『構いませんよ。貴方が邪気の影響を受ける可能性はありますが、そちらはリスポンさせれば良いだけですし』

「なら大丈夫ですね」

『大丈夫と言い切れることが大丈夫じゃないのですがね』

「ガザゴソ……うお」

『そういえば普段は物理攻撃で消し飛ばしていますが、精神的な攻撃は平気なのでしょうかね』

「なんか、ドクターフィッシュのいる水槽に腕を突っ込んでいる気分です」

 ※人の角質とかを食べてくれる魚。

『割と平気そうだし、なんなら邪気に何かしら除去してもらっていそう』

「よいしょっと」

『邪気に浸したはずの右腕が妙に綺麗に見えますね。邪気以上に邪な存在なのでしょうか』

「案外くすぐったくて癖になりますよ」

『一生闇堕ちしそうにないですね』

「お題の方はっと、V.p.p.さんより『勇者の棺桶』」

『お題も若干ダークな案件ですね。いつもどおりと言えばいつもどおりですが』

「つまり今回はホラー回ということですね」

『ホラー回ってありましたっけ。毎回ある意味ホラーではありますが』

「一応ホラーゲームなどにおいて主人公が隠れるときに使用するロッカーとかがそうですかね」

 ※第二十二話参照。

『あー。ありましたね。でも今回は勇者のとついているので、ファンタジー案件だとは思うのですが』

「それもそうですね。それじゃあ頑張って両立してみます」

『その頑張りは評価し辛いですね』


 ◇


『浄化しようと思いつつ、何度も腕や足を突っ込んでしまうとは。やりますね』

「ただいま戻りました。あ、それをやってるんですね」

『おかえりなさい。こう、肌に触れられる感触自体が新鮮なので、つい浄化が捗らない感じですね』

「でも転生前に比べるとすっかりと邪気が減っていますね」

『私くらいになると、触れるだけで邪気が払えますから』

「じゃあ触れても大丈夫な俺は、清い存在ってことですね」

『散々消し飛ばされておきながら、よくそのセリフが吐けますね。勇者の棺桶でしたか』

「はい。今回は勇者コーフーとヒロインのカータの二人の冒険記といった形です」

『ふむ。カップルの間に転生してきましたか』

「まあ、基本的に俺を運ぶのはヒロインのカータでしたけどね」

『勇者の棺桶ですからね。中に勇者が入っていたら、運ぶのはもう一人になるのは当然ですね』

「コーフーは勇者でありながら、非常に弱い男でしたね」

『勇者が主人公なのに弱い展開ですか。ちなみにどれほど弱いのですか』

「基本的に、戦闘後には常に棺桶の中でしたね」

『弱いとかいう次元じゃなさそう』

「何せ俺を常備して運んでいるくらいですからね。それはもうポロポロと死んでましたよ」

『某ゲームですと死んだら棺桶になりますけど、冷静に考えるといつ死んでも良いように棺桶を常備しておくというのも狂気じみた話ですね』

「カータはそんなコーフーの入った俺を引っ張る日々でしたね」

『それだけ散々死にながら、よく見捨てられませんでしたね。その勇者』

「コーフーが身を挺してカータを守りながら戦っているのが原因でもありましたからね」

『仮にそうだとしても、色々と学習してほしいとは思わないのでしょうか』

「あとカータですが、弱っていくコーフーを見るのが好きというちょっと変わった乙女心を持った少女でして」

『人はそれを乙女心ではなくサイコパスと言うのですよ』

「なので結構頻繁に俺を開けて中のコーフーの死体を見て微笑んでいましたね」

『貴方がホラー展開に持っていくと思っていたのに、登場キャラがホラーとは』

「一応俺もホラーを演出しようとは思ったんですよ。コーフーが死んで中に入っている時とかに、突然ガタガタって揺れたりして」

『なるほど。それは確かにホラー要素がありますね』

「まあカータはさほど驚かず、首を傾げつつ中を確認し、念の為に聖水をぶち撒けてましたけど」

『そんな臭い消しみたいなノリでやらなくても良いでしょうに』

「序盤はモンスターもそこまで強くはなく、カータ一人でもどうにかなっていたのですが、中盤以降になるとちょっと敵が強くなってきました」

『ヒロイン一人でどうにかなっている敵相手に、毎回死んでいる勇者がいるのはどうにかならなかったのですかね』

「コーフーも役には立っていたんですよ。序盤の敵の勢いある攻撃を全て引受け、カータの強化魔法を重ねがけする時間を稼いでくれていましたので」

『ソーシャルゲームとかでたまにある、落とす前提で使われるタンク役みたいな勇者ですね』

「ただ得られる経験値は、倒した時に生きている者達で均等に分配される感じでして」

『それ経験値が全部ヒロインに入っていますよね』

「いえ、俺にも入っていました」

『なお悪い』

「まあ問題として、中盤に入るとコーフーがあまりにも早くに脱落するせいで、カータの強化魔法の準備が整ってなかったりしてたんですよ」

『レベルを上げてやればいいのに』

「そこはカータが大丈夫だと連呼して先を急がせたせいですかね」

『本当に勇者が弱るのが好きなのですね。そもそもそれだけ弱い勇者に意味はあるのでしょうか』

「一応勇者にしか使えない力がありまして。魔王やその側近クラスにもなってくると、その力を使わないと一切の攻撃が通用しなかったんですよ」

『必要性は理解できましたが、ならなおさら鍛えるべきでしょうに』

「まあその力はコーフーと一緒に戦えば仲間にも反映されるので、本当に大丈夫ではあったのですが」

『勇者が勇者の剣みたいな立ち位置してますね』

「ただ道中はそうもいきません。しっかりとした強化魔法を使う前にコーフーが倒れ、あわや全滅の危機といった状況にまで追い込まれました」

『ちなみに全滅したらどうなるのですか。ゲームでは全員教会かお城に飛ばされますが』

「死体を運ぶ人がいないので、誰かが発見するまでそこに野ざらしでしょうかね」

『その辺はシビアと。教会でサクっと生き返る時点でシステマチックではありますが』

「それは可哀想だったので、俺がさっと手助けをすることにしました」

『ニョキっと手足でも生やしましたか』

「いえ、今回はズォッとです」

『違いがイマイチわからない』

「気付いたんですよ。人間じゃない体で、人間の手足が生えると、なんかダサいって」

『人生を六十回近く繰り返す前に気づいてほしいことでしたね』

「なので今回は棺桶のモンスターっぽく、影の手を生やしてみました。こう、ズォッと」

『人間の体でズオッと腕を増やさないでください。ですが確かに影の手などは棺桶型のモンスター等ではよく見られますからね。ビジュアル的にはありよりです』

「俺もなんだかんだレベルは高かったので、特に問題なく敵を倒せましたね。カータには魔物と勘違いされて攻撃されましたが」

『でしょうね』

「とりあえず仲間であると説得し、一緒に冒険することにしました」

『とりあえずで説得できたのですか。ちなみにどんな路線で説得をしたのでしょうか』

「付喪神的な感じだと説明しました。なんかこう、百回以上使われたから意思が宿った的な感じで」

『確かに棺桶も百回以上使われたら、何かしら宿りそうではありますね』

「最初は半信半疑のカータでしたが、俺が協力することで冒険が楽になったので、徐々に親しげになってくれましたね」

『貴方が仲間なら確かに心強そうですね。そうなると勇者も楽をできるのでは』

「それが俺は勇者の棺桶なので、中に勇者が入っていないと機能しなかったんですよ」

『そんな勇者が装備しないと効果を発揮しない伝説の武具みたいな』

「今回は臓物まといなコーフーがいたので、思ったようには戦えませんでしたが、やはり仲間と一緒に冒険するというのは楽しかったですね」

『体の中にいるから臓物まといなのでしょうが、そんな足手まといの類義語みたいに言われても』

「俺が動く時はコーフーが死んでいる時なので、基本的にはカータとの二人旅のような感じでしたね」

『それはとても楽しかったでしょうね』

「楽しかったと言えば楽しかったですが、カータがコーフーに対して一途過ぎたので、ちょっと胸焼け気味でしたかね」

『そういえば死体を眺めて微笑むようなサイコパスヒロインでしたね』

「休憩している時とかに棺桶を開けて、コーフーを見ながら話とかしてましたね」

『死体に話しかけているようにしか見えないでしょうね』

「『あ、寄っちゃってる』とか言いながら、コーフーの体を綺麗にしてましたね」

『勇者が中に入っている状態で戦闘してますからね』

「死後硬直でガチガチの体を腕力で戻す様は、愛を感じましたね」

『他に感じるものがあったでしょうに』

「野宿する時とかはカータも棺桶の中に入って一緒に寝ていましたね」

『よく死体の入った棺桶に入って眠れますね』

「カータのコーフーとの冒険の割合って、生きている時よりも死んでいる時の方が長かったようですし」

『そういう問題なのでしょうか』

「それに俺は寝ずの番ができましたので、その方が敵にも襲われにくかったんですよ」

『ヒロインが死ねば、冒険そのものが終わりみたいな状況ですからね。ある意味合理的と言えば合理的なのか』

「でもコーフーが強くなる方法を教えようとすると、やんわりと断ってきましたね」

『やっぱり私情しかないですね』

「ただ勇者が弱いままだと、終盤の戦闘などは結構大変でしたね。万全を期すために結構な時間レベル上げの戦闘とかしてましたし」

『棺桶と支援魔法を使うバッファーのパーティですからね。バランス悪そうですね』

「実は俺も支援魔法を使うバランス型でして」

『バランス悪いですね。どうしてまたそんな役割を』

「普段ソロの時はアタッカーですし」

『そうでしたね。アタッカーである必要がない時でも常時アタッカーでしたね』

「おかげですっかりと教会のベーニッヒ=シャケット神父とも顔馴染みになりましたよ」

『それ元から顔馴染みですよね。紅鮭は今回神父枠ですか』

「魔王サイドをやっている時に、何度も復活する勇者と遭ったことがあるそうで、ちょっと今後の対策の一環として、教会周りの事を学びたいとか言っていましたね」

『あの紅鮭は紅鮭で様々な人生を真面目に謳歌していますね』

「大変ではありましたが、俺とカータは苦難を乗り越え、ついには魔王を倒すことにも成功しました」

『勇者が乗り越えられてませんね』

「一応俺がベーニッヒから蘇生魔法を習ったので、最後あたりの戦闘ラッシュ時は常に生きていたんですけどね」

『棺桶が蘇生魔法を使うのはどうなんですかね』

「死体を入れたら、次の瞬間には蘇生して出てくるって、なんだか神の子っぽくないですかね」

『どちらかと言えばマジシャン』

「まあそんな感じで、最後はコーフーが死ななくなったのでお役御免といった感じで転生を終えたって流れです」

『ふむ。オチが少々弱い感じもしますが、毎回が毎回というわけでもないですか』

「お土産に棺桶を持って帰ろうと思いましたが、カータがそんなものよりもこっちをとその世界の菓子折りを渡してくれましたね」

『気が利きますね、そのサイコパスヒロイン。ふむ……見た感じですと紅茶が合いそうですね。準備をお願いします』

「はい。分かりました。それでは少々お待ちを」

『……おや、これはメッセージカードでしょうか』


 ◇


 棺桶の精霊様へ


 この手紙を読んでくださっているということは、貴方はきっと私達の世界から離れ、貴方の想い人のいる世界へと戻られたのでしょう。

 大変お世話になった貴方にだけは事実をお伝えしようと思い、この手紙を忍ばせてもらいました。本来ならば口頭で言うべきだったのですが、これは本来私一人だけで墓場に持っていこうと思っていたことでしたので。

 私はコーフーの幼馴染であり、勇者の子孫としてコーフーを預かった村長の娘でした。

 コーフーはとても心優しい人で、勇者の力が目覚めた時は自然なことなのだと思いつつも、どうして彼のような人が戦う運命に巻き込まれたのかと嘆きました。

 私はコーフーと一緒に冒険に出る時、父からコーフーの持つ勇者の力について説明を受けました。

 勇者の力に目覚めた者は、魔王やその力の恩恵を受けた強大な魔物達の力を削ぐことができる。死しても簡単な祝福の魔法一つで蘇生することができる。そしてその力は際限なく成長するのだと。

 魔王を倒すための力、それを聞かされた時私はコーフーに期待を抱いて冒険を始めました。ですがすぐに私は思い知らされたのです。勇者の力とは、勇者の呪いでもあったのだと。

 コーフーのレベルが上がった時、確かに勇者の力は増大しました。ですがその日の夜の会話で、私はコーフーが自分の飼っていた犬の存在を忘れていることに気づきました。

 次にレベルが上がった時、彼は一人の友人のことを忘れてしまっていました。その次の時は、前日に話したはずの私の妹の名前すら忘れていました。

 コーフーは勇者として成長するのではなく、勇者として生まれ変わっていく。最後には魔王を倒すためだけの存在になるのだと、私は理解しました。

 私は怖かった。一緒に育ってきたコーフーが、私のことさえも忘れてしまうのではないかと。

 ですがある時、コーフーが私を庇って死にました。私は焦りましたが、父から教わった勇者の力のことを思い出し、その場で魔物をどうにか倒したあとに彼を生き返らせました。

 そして冷静になって確認してみると、私一人だけがレベルが上がり、コーフーはそのままでした。

 私はこの時決意しました。コーフーにはこのままでいてほしい。私を幼馴染として、自分の命を投げ出してでも庇ってくれる優しい彼のままであってほしいと。

 私は酷い人になりました。コーフーには死んでもすぐに生き返らせられるから、全ての攻撃から私を守る盾になってほしいと要求し、運びやすいように棺桶を常に持ち運ぶようにしました。

 強化魔法の時間稼ぎと理由を作り、それが効率的だと誤魔化し、彼を何度も何度も死なせました。その行為が彼を騙すことであることも、彼にとって酷い仕打ちであることも理解しながら。

 まだ私を守ってくれている、まだ私の好きな彼だと、彼の眠っている顔を見て誤魔化し続ける日々。誰にも言えない。言ってしまえば、私はコーフーから引き剥がされ、彼はまた勇者として成長させられてしまう。

 一人で戦い続けようにも私は勇者ではない。肉体的にも精神的にも限界が近い状態でした。

 そんな時、貴方が私を助けてくださいました。貴方は私の辛そうな顔を見たくないと、そんな些細な理由だけで、何一つ事情を聞こうともせずに私に協力してくださったのです。

 貴方がいなければ、私はコーフーを勇者にしてしまっていたか、意地を通すだけ通して世界を救う役目を果たせなかったことでしょう。

 勇者でもなんでもないただの女の身勝手な願いを、叶えてくださった貴方には感謝してもしきれません。

 これから死ぬまでの毎日、貴方の人生の謳歌を願い祈り続けます。これが私の次の決意です。


                             カータより



『……サイコパスは訂正しておきますかね』

「女神様、紅茶の準備ができました」

『はい。いただきましょうか』

「あ、茶柱。縁起が良いですね」

『出ていますね、祈りの効果』


そろそろ締め切りなので最後の告知をば。


書籍化企画で行っている1~14話までの間で今回のような地の文を使ったアフターストーリーを追加する投票や、書籍化書き下ろし用のオリジナルストーリーのお題の公募を行っております。


『勇者の肋骨書籍化記念企画追加投稿場所』にて投稿を受け付けております。

締切が7/12、明日いっぱいまでです。

ワンチャンで貴方の無茶振りが本になります。なってしまうのです。お気軽にご参加ください。

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