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女神『異世界転生何になりたいですか』 俺「勇者の肋骨で」 作者:安泰
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第五十三話:『異世界転生先の星』

「ところで女神様、今って平成何年でしたっけ」

『貴方は何度異世界転生をしたと思っているのでしょうか。正規の時間軸ならば平成はおろか、令和すら終わっていますよ』

「あ、平成の次って令和って言うんですね。平成が終わるまで生きられなかったからなぁ」

※この主人公がこの世界に現れたのは平成29年です。

『散々異世界転生した立場でしみじみしない。そもそもよく平成自体を覚えていましたね』

「異世界毎に十個覚えれば五百は超えますからね」

『ヤドカリや野菜に転生した時に年号を覚える暇があったでしょうか』

「ヤドカリの時はむしろ七海を統べる覇王にまでなれましたので、年号を変えてましたね」

『年号を変えた経験はなかなかレア……でもないですね。建国する異世界転生者も少なくありませんし』

「そのうち世界を創り出すかもしれませんね」

『神になれるかと言えば……可能ではありますね。もっとも貴方程度では世界を運営する程度でしょうが』

「女神様とどう違うのでしょうか」

『神にも格はあります。そうですね、簡単な例え話をしましょう。私と貴方で月見酒を楽しんでいたとします』

「もちろん『月が綺麗ですね』と言いますね」

『そのドヤ顔での発言に苛立った私は貴方を消し飛ばすわけですが、下級の神ならば貴方が燃え尽きるような炎で消し飛ばす程度です』

「ふむふむ。普段から消し炭にされてはいますけどね」

『その程度で死ぬのでその程度でやっているだけです。これが中級程度の神にもなれば月やそのへんの星を掴み、貴方に叩きつけます』

「距離感おかしくないですかね」

『人間の尺度で測れないことを引き起こせなくては神とは言えませんからね』

「なるほど。それではその上の神様はどうでしょうか」

『貴方が意識する前に存在を消します』

「何が起こったかさえ分からないままと」

『人間の認識に合わせている時点でおままごとのようなものですからね。人の言語で説明できる行為でドヤ顔している神は大抵三流です』

「つまり毎回俺が報告できる創造主や神様は三流ということですかね」

『私から見ればそうですね。だからと言って他の神と違う扱いをすることはありません』

「流石女神様」

『誰であろうと見下します』

「流石女神様」

『別に冗談というわけでもないですがね。神にとって他の神への評価とはどれほど自分の歴史に影響を及ぼしたかで決まります。私と対等の力を持っていたとしても、私の神生になんの貢献もしていなければ存在していないも同じですから』

「そうなると女神様にとって評価の高い神様ってどれくらいいるのですかね」

『黒飴を渡してくるおばあちゃん系神様は結構上位ですかね。あとは私の宅飲みに付き合ってくれる女神とかも比較的。単純な力量では私の十分の一もない方々ですがね』

「力量差よりも友情の厚さが優先されているわけですね」

『そう言う意味では――そろそろ異世界転生の時間ですね』

「おっとそうでした。ではガサゴソ……異世界に憧れた少年さんより、『異世界転生先の星』」

『こいつ、ついに星に……』

「俺も出世しましたね」

『ちょっと待ってください。ここまで大規模な転生先だとまずは受け入れ先の交渉から始めないといけませんので』

「星にも意思があったりする例はあるわけですし、そう難しくないのでは」

『貴方の世界の舞台となる星に転生したい者がいるのですが、と伝える立場にもなってください』

「普段から脅すような感じで交渉していたのでは」

『程度と言うものもあります。やり過ぎると以前の二の舞になりますよ』

※第五十話参照。

「ではちょっと俺もLINEで知り合いの神様達に交渉を持ちかけてみます」

『人間である事を忘れていませんかね。どこの世界に人間のふざけた願いを快く受け入れる神がいるのかと』

「あ、OKもらいました」

『この男の知り合いと言うことを忘れていました。どこの神ですか』

「ええとですね、以前トマト勇者として転生した時の世界の創造主さんです」

『貴方が黒魔術で魂をたまねぎに封じ込めた創造主ですか』

※第十七話参照。

「ちょうど息抜きに新しい世界を創造したから、是非遊びにおいでと」

『フランク過ぎませんかね』

「あまりなさそうな機会ですし、行ってきますね」

『星に転生する機会はあまりなさそうどころの話ではないと思いますがね』

「異世界転生先も結構幅広くなっていますから、そうとも言い切れませんよ。木に転生するブームとかもありましたし」

※第七回ネット小説大賞、受賞作品の中には杉に転生したものがあります。

『勇者や魔王への転生よりも他の転生先の方が最近多く見られるだけに、何とも言えない気持ちになりますね』



『彼は気楽に言っていましたが、星の寿命は相当長いです。それだけ彼が帰ってくるのが遅くなるというわけですが……はぁ。……神にとって、他者への評価とは自身の神生にどれだけ影響を与えたか……。そう言う意味では彼はどの神よりも――』

「ただいま戻りましたー」

『そんな予感はしていました』

「リスポン。復帰硬直を狙われるとどうも防ぎきれないんですよね」

『対応しても吹き飛ばすだけですよ。異世界転生先の星に転生したと言うのに、随分と早かったですね』

「そうでもないですよ。星としては数十億年ほど生きてましたし」

『そろそろ精神が神格化しそうで怖いですね。その割には変わりないようですが』

「星として転生した場合、星に生命が生まれ、人間が生まれ、物語が始まるまでやることがなさ過ぎるのではと気付きまして。創造主さんに事前に相談したところ、知覚部分に早送り機能をつけてもらいました」

『ふざけた転生先に対して割とまともな対策しているのがなんとも。ですがそれなら確かにある程度はスムーズに進みそうですね』

「星として転生するのも意外と楽しかったですよ。移動とかはできませんけど、自分の体のことですので色々と変化を起こせたりできましたし」

『天動説と地動説、どちらを基準とした世界であっても星が勝手に移動しては困りますからね。ちなみに公転や自転の話ではありません』

「どっちだったかなぁ。太陽役の田中さんに確認してみよう」

『太陽役て。あの男恋人を探していたはずですよね。太陽役でどう再会するつもりだったのでしょうか』

「彗星として転生してくればワンチャンあったかなと。おっ、返信がきました。地動説のようですね」

『恋人を抱きしめたら恋人が燃え尽きるのですが。聞こえとしてはちょっとした悲劇的な感じですが、規模的に何をやっているのかと言いたくなりますね』

「まあ田中さんも息抜きがてらに遊びに来ていましたし」

『以前も言いましたが異世界転生を小旅行のように捉えるのは止めなさい。これ田中にも言ったはずなのですがね』

「話は戻りますけど、星としてできるのは意識的に天候を変えたり地殻変動を起こしたりと言った感じでした」

『この場合天災と言うべきなのか人災と言うべきなのか判断に困りますよね』

「しゃっくりやくしゃみ的な感じで地震や噴火が起きますから、人災と言うよりは天災でしょうか」

『かなり簡単に災害が発生しそうですね』

「でも間近で恐竜の生活とかを見れたのは良かったですね。迫力ありましたよ」

『星のサイズと比べれば恐竜は微生物以下だと思うのですがね』

「まあ宇宙空間って思ったよりも寒くて、くしゃみをしたら滅んでしまいました」

『くしゃみが原因でジュラ紀が終わったと知った未来の人間達の驚愕の顔が見てみたいものです』

「うっかりで人類を滅ぼす可能性もありましたから、創造主さんが俺の体に魔力を覆わせて暖を取れるようにしてくれましたね」

『星が寒くないように神が気を使ったのが世界に魔法が生まれた原因と知った未来の人間達の驚愕の顔が見てみたいものです』

「その後は猿が人間へと進化して、その過程で魔族とか色々分かれましたね。いやぁ、進化の行程をじっくりと眺めると言うのも楽しかったですよ」

『神がいる世界ならば、地球で言うキリスト教の教えのように神が人を創ったとかやると思ったのですが。ダーウィンの進化論的な感じでまとまっていたのですね』

「一応アダムとイヴ的な立場も用意していたそうですが、異世界転生者の応募がなかったそうです」

『流石に始まりの人類として転生するのは暇が過ぎますからね』

「どうも俺が星として転生しているのが避けられた要因っぽいですが」

『それもそうですね。他の人が星に転生しているけど、アダムとイヴに転生しませんかとか言われたら流石に二の足くらい踏みますね』

「そんなわけで文明を生み出す人類が誕生したわけなのですが、ここで少し困ったことになりまして。なんと彼らは勝手に人の体を弄り始めるんですよ」

『人じゃないでしょうに。木を切って鉱石を掘るくらいは当然するでしょうからね。それくらい我慢なさい』

「でも気持ち的には体の表面にいる微生物が肉体を抉ってくるような感覚でして」

『軽くホラーですね』

「あまりにもくすぐったくなったので、つい体を捩ったら大惨事でしたよ」

『星が体を捩ったら大地震どころじゃないでしょうね』

「仕方ないので痛覚は遮断してもらうことになりましたね」

『星には元々五感がないのですがね』

「でも星の当事者になって思ったことですけど、自然は大切にしないといけませんね」

『星の当事者にならなくても思えることではあるのですがね』

「星視点は神様視点のようなもので、地上の色々な視点を認識できたのが面白かったですね。色々と楽しめました」

『その色々の色は色欲の色でしょうがね』

「それもなくはないですが、やはり普段の主観以外で行われている物語などを知ることができるのは感慨深かったですよ。まさか魔王と勇者が激しく戦っている最中、王様があんなポエムを綴っていたなんて」

『人の黒歴史くらいは目を瞑ってあげてやりなさい。そもそも話が急に飛んでいますが、勇者と魔王は誕生していたのですね』

「星の観点から見ると、ちょっと生まれが違う者同士の中で優れた個体同士の小競り合いでしかなかったですがね」

『星規模で見ればそうでしょうね』

「人類の希望である勇者が敗れたことよりも、王様のポエムの方がよっぽど染み渡りましたね」

『魔王が勝利しましたか。さては今回のお土産はそのポエム帳ですね』

「よく分かりましたね。はいどうぞ」

『わからいでか。まあこれは後で読むとして、やはり星としての一生ですと漠然とした感じになりがちですね』

「日本を舞台にした物語をずっと雲の上から眺めるようなものですしね」

『視野が広すぎると言うのも考えものですね。なにかこう、盛り上がりのようなものは感じなかったのでしょうか』

「うーん。暇だったので紅鮭師匠と漫才の練習をしたとかですかね」

『やはり混ざっていましたか。そもそも星と漫才て、サイズ比を考えたらどうですか』

「紅鮭師匠は月に転生していたので、そこまで差はなかったですよ」

『そんな予感もありました』

「ちなみにこれがその時の写真ですね」

『その時の写真と言われましても、ただの天体写真――なんで星から腕が生えているのでしょうか』

「こう、ニョキッと」

『その部分に住んでいた生物が軒並み宇宙空間に吹き飛ばされていませんかね』

「住処を失った魔王には少し悪いことをしましたね」

『魔王城を起点に腕を生やしましたね、この星』

「でもやっぱりツッコミは腕でやらないと、腕を生やせられなかった紅鮭師匠のツッコミとか体当たりでしたし」

『月が星に体当たりしたのですか』

「思わず盾にしましたけど、魔王って防御力低いですよね」

『魔王もピンきりですが、月の体当たりを耐えられる魔王は結構少ないですよ。しかし月が落下したとなれば、星の生物は皆死に絶えてしまうのではないでしょうか』

「その時には俺の上には魔王と、理性を持たない魔王軍くらいしかいませんでしたので。勇者が敗れたことを知った王様が全ての人類を宇宙に逃していたのです」

『急にSFチックになりましたね』

「創造主さん曰く『どうせどこかで自爆しそうだし、宇宙開発くらいは進めさせておくわ』と」

『貴方の知り合いだけあって、貴方のことをよく理解してくれていたようですね』

「まあ田中さんとかが飽きた場合、太陽が消滅したりするわけですからね。そのへんの予防線はしっかりしていたわけですよ」

『太陽の消滅理由が飽きたからと知った時の未来の人間達の驚愕の顔が見てみたいものです』

「紅鮭師匠のツッコミによって二度と生物を誕生させることができなくなった俺は、もういいかなと思い田中さんへ体当たりをして消滅することにしました」

『太陽と星と月のくだりがなければ、何を言っているのかさっぱりわからないですね。それにしてもやりたい放題ですね』

「創造主さん曰く、今回の転生先の物語の主軸は宇宙を舞台にしたものだそうです。なので始まりの星の歴史とかは適当でいいよと」

『なるほど。舞台を整える前の過程ならどれだけ酷くても問題ないと。むしろそれまでの退屈凌ぎとしては悪くなさそうですね』

「いい物語が撮れた場合、ブルーレイディスクで贈ってくれるそうですよ」

『神がブルーレイディスクを利用するというのも、なんとも言えない気分になりますね』



『ううむ……。このポエム、思った以上に洗練されていますね……。人でありながらこの完成度……さては別の転生者が……』

「女神様、以前の創造主さんからブルーレイディスクが届きましたよ。タイトルは『たまねぎウォーズ、コックの復讐』だそうです」

『宇宙規模にしておきながら野菜が主人公て』







異世界でも無難に生きたい症候群の更新が数日ほど遅れましたので、詫び肋骨的な感じでの更新です。

書籍二巻の方も良い出来ですので、是非そちらも。


こちらの更新は間隔が広めですが、コメディチックな作品を別に更新しております。

『覚醒してください、勇者(魔王)。』、興味がありましたら是非。

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