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【web版(裏)】奴隷転生 ~その奴隷、最強の元王子につき~ 作者:カラユミ

神精界編

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第94話 奴隷、精霊の魔力に圧倒される

「その様子じゃ、本当みたいね……アンタは以前から、やることが一々無茶苦茶なのよ。これで残るは強欲竜アワリーティアと、怠惰竜イグナーウスだけじゃない……」


 呆れた顔を見せるアイネス。

 この場で強欲竜のことを言えば、さらに取り乱すと想像できる。

 それでも言うべきだろうと、俺は話すことにした。


「俺が殺ったわけじゃないんだが、もうアワリーティアもいないんだ……」


「……………………なんですってっ!!!!!!!!」


 オーバーリアクションとも受け取れる驚きを、体を使って表現したアイネスは、隣にいたフィーエルの肩を掴んで前後に揺らす。


「落ち着いてください、アイネス。アワリーティアを殺したのは、おそらくですが、エルフの錬金魔法を進化させ、ヘルアーティオを擬似的に蘇らせた……アルスさまです……」


 そのまま卒倒しそうになったアイネスの小さな体を、手のひらで受け止める。

 だが、すぐに起き上がると、今度は俺の耳を引っ張ってきた。


「どういうこと! アタシが寝ていた間に何があったっていうのよ!」


 興奮するアイネスをフィーエルが押さえつけ、フィーエルがアルスの下を離れたところから細かく説明してゆく。その話が進むにつれ、アイネスの表情が落ち着き、やがて、険しいものへと変わっていった。


「だいたいのことはわかったわ。アンタが偽アルスと呼んでるアルスは、相当壊れてるのね……」


「そうだな、フィーエルに手を出そうとした時点で、完全に壊れている」


「さっきの王女を助けるってやつだけど、アタシから条件を一つだけ出させてもらうわ」


 アイネスはフィーエルの顔を見据え、その言葉を吐いた。




「王宮にいるアルスを、アンタの手で始末しなさい」




 フィーエルの表情は変わらない。

 だが、一瞬、魔力が大きく乱れた。

 アイネスが、どういう理由で、なぜ俺の手で始末するよう条件を付けたのかはわからない。

 昔から、フィーエルを傷つけることを極端に嫌っていたアイネスだ。その言葉を吐いたということは、フィーエルを慮って言ったことだけは確かだろう。


「俺もそのつもりだが、一つ聞いていいか」


「構わないわよ」とアイネスはフィーエルの肩に手を置きながら、俺を力強い目で見つめてくる。


「どうしてそんな条件をつけたんだ」


「――――簡単なことよ。このまま放置すれば、フィーエルに危害が及ぶ。それに、これはアンタが撒いたタネ……アンタにしか解決できないことだからよ」


 次の瞬間、いくつもの水の礫が俺に向かって飛んできた。

 しかし、それもアイネスが手をかざすだけで、薄い水の膜一つで全て受け止める。


「聞こえたわよ。その人間、禁忌に関係あるのでしょう」


 水の精霊たちは、明らかに俺に敵意を向け、アイネス相手にも、今にも攻撃をしてきそうな気配がある。

 だがまたしても、あの風の精霊は俺の前に飛んでくると、水の精霊に対峙する姿勢を見せた。


「やるなら僕も相手だから! 水の上位精霊と共闘だなんて初めてでワクワクするよ!」


「ちょっと、アンタ何なのよ! 手出ししないでちょうだい」


「えーーッ! 僕のほうが先約だったんだけどなぁ」


 アイネスはピットが言ってることが本当なのか、という目を向けてきたため、黙って首肯してみせた。


「――――いったいどうなってるのよ。こんな暴君まで手懐けてるなんて。まあいいわ。作戦を変えればいいだけね」とだけ言いい、アイネスは水の精霊の下へ一人近づいてゆく。


 アイネスはくるりとこちらに向き直り、俺を指差した。


「アンタたちが疑っているように、あのウォルスは、禁忌を破ったアルスと直接関係があるわ」


「おいっ! どういうつもりだ」と俺は思わず叫んでしまった。


 同時に魔力循環を全力で行い、戦闘態勢へと移った。

 だが、アイネスが尋常ではない魔力を放出し、この場にいる全員の動きを封じた。


「だけど、そのアルスを殺れるのは、イーラを討伐したこのウォルスしか存在しない。アンタたちがしきりに気にしている因果律の歪みは、人間に責任を取らせるのが筋だと思うんだけど」


「その人間が、歪みを正せるとは限らない」


「人間を捕まえ、あなたの手で修正させるほうが効率はいい」


 水の精霊は引き下がる様子を見せず、魔力を放出し返してきた。

 精霊らしく凄い魔力ではあるが、明らかにアイネスよりも劣るレベルだ。

 そんな魔力で立ち向かってくる姿は、玉砕しようとも引き下がるつもりはない、という意思がヒシヒシと伝わってくる。


 殺気立つ水の精霊とアイネスの間に、当然のように、ピットは割り込んできた。

 そして両手を叩いて、俺たちの注意を自分へと向けた。


「はいはい、ここは僕が引き受けるよ! アイネスには貸しってことでいいから」と笑顔で言いながら、魔力を解放する。


 こちらもアイネスに負けず劣らずの、化け物じみた魔力だ。

 俺とやっていた時が、かなり手を抜いて遊んでいたというのがよくわかる。

 暴君と呼ばれる上位精霊は、周囲の魔素を全て従えるかのような、圧倒的な風の渦を作ってみせる。

 まさか、ここまで無茶苦茶な奴だとは思わなかった……。


「ここは僕が遊んでてあげるから、君たちはもう帰っていいよ」


「アンタは暴れたいだけでしょうが」


「ヘヘヘッ、じゃあ貸しはなしってことで」


 ピットは「中位精霊と下位精霊でも、ここまで一度に相手にするのは久々だな」と嬉しそうに言うと、水の精霊の中へと突っ込んでゆく。

 初めてじゃないことに一瞬引いたが、すぐにこちらも離脱することに意識を切り替える。


「行くわよ。アンタたちもう時間は残ってないでしょ。あまり長居したら帰れなくなるんだから」


 アイネスはそれだけ言い、フィーエルの手を引っ張って森の中へと飛んでゆく。

 俺はピットに右手を上げその場をあとにした。

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