第三話:召喚士アルト・レイスの実力
「う、わぁ……。一年ぶりに見たけど、とんでもない破壊力ね……」
「れ、レックスさーん? 生きてますかぁ……?」
ステラが顔を青く染め、ルーンが安否確認の声を掛けた。
(こんなので終わってくれたら、楽なんだけどなぁ……)
残念ながら、レックスはそんなに
直後――前方から突風が吹き荒れ、額から血を流す彼が姿を現した。
「は、はぁはぁ……。お前はマジで容赦ねぇな……っ。並の冒険者なら、今ので消し炭だぜ?」
「水龍ゼルドネラの
「はっ。お前に『万優』なんて言われても、嫌味にしか聞こえねぇ、……よッ!」
言うが早いか、水龍の力を宿した彼は、凄まじい速度で駆け出した。
(この距離を一足で詰めてくるなんて……。冒険者学院の頃より、さらに速くなっているな)
(アルトみてぇな超一流の召喚士に、遠距離戦を挑むのは自殺行為だ。召喚士の弱点は、『超接近戦』……!)
互いの視線が交錯。
先手を打ったのは、十分な加速を付けたレックスだ。
「
この距離この速度じゃ、召喚獣は間に合わない。
「武装召喚・
俺は二本の剣を召喚し、迫り来る斬撃を打ち払う。
「く、そ……召喚士のお前が、なんでこの速度に付いて来れんだって、のッ!」
「あはは、けっこうギリギリだよ」
「抜かせ! この
その後、一合二合と剣を重ねるたび、レックスの体にのみ生傷が増えていく。
雷龍リンガと炎鬼オルグの後方支援があるため、互角以上に立ち回れているのだが……。
ちょっと『決め手』に欠けているのが現状だ。
(ここまで『ビタ付き』されたら、リンガとオルグは大きく動かせないし、何より手印が結べない……。レックスの召喚士対策は完璧だな)
(畜生、接近戦でも押し切れねぇ……っ。それどころか、一瞬でも気を抜いたら逆にやられちまう。近接もいける召喚士とか、反則だろ……!)
火花と硬音を散らし、激しい剣戟を奏でる中、俺は思考を巡らせていく。
(こっちの手札は、リンガ・オルグ・王鍵・殲剣の四枚。ちょっと心許ないけど、『要は使いよう』か)
俺は殲剣ロードルを解放し、漆黒の闇を広域に展開。
「黒の型・弐ノ太刀――
横薙ぎの一閃、数多の黒い斬撃が吹き
「ぐっ……!?」
圧倒的な物量に押されたレックスは、大きく後ろへ押し流されていく。
これでようやく間合いを取ることができた。
「――王鍵・開錠」
王鍵シグルドを大地に突き立て、『王律』に指を掛けようとした瞬間、
「
血相を変えたレックスが、闇の斬撃をその身に受けながら突っ込んできた。
「っ!?」
俺は仕方なく王鍵を引き抜き、眼前に迫る一撃を防ぐ。
「おいおい、随分と無茶をするな」
「馬鹿野郎、『必殺』を許すわけねぇだろう、がッ!」
彼は凶暴な笑みを浮かべながら、苛烈な攻撃を休みなく繰り出す。
(……参ったな)
召喚士の一番の強みは、多種多様な『召喚』による変幻自在の特殊攻撃。
しかしレックスは、こちらの召喚獣や武器の能力をほとんど全て知っている。
これでは手札を公開したまま、ポーカーをやっているようなものだ。
(さて、どうしたものか……)
この先の『詰め筋』を模索していると、
「うっし、いい感じに温まってきたぜ……! ――天龍憑依・龍王バルトラ!」
レックスの全身から、莫大な魔力が解き放たれた。
「……凄いな。あのバルトラを降ろせるようになったのか」
「おうよ! つっても、『三分間』って制限付きだけどな!」
彼はニッと笑い、三本の指を立てて見せた。
「……それ、バラしたらマズいんじゃないのか?」
「俺はアルトの召喚獣や武器の能力を熟知してんだ。こっちだけ手を伏せたまま、ってわけにはいかねぇだろ? 公平に行こうぜ!」
「そういう馬鹿真面目なところ、昔から本当に変わらないな」
「へへっ。そんじゃまっ、時間もねぇから……行くぜ?」
「あぁ、来い!」
「速い!?」
眼前には天高く剣を振りかぶったレックス。
「龍技・
「――武装召喚・ケルビムの盾!」
大上段からの斬り落としに対し、巨大な盾を召喚。
しかし、
「龍王の一撃、舐めんなよ!」
レックスの斬撃は、ケルビムの盾を叩き割ってきた。
「嘘、だろ……!?」
「ここだ! 龍技・
俺は王鍵と殲剣をもって、なんとか迎撃に努めたのだが……。
「……ッ」
体勢を崩された状態からの切り返しは難しく、左脇腹にもらってしまった。
「あのアルトが手傷を……!?」
「し、信じられません……っ」
ステラとルーンの驚愕に満ちた声が響く。
(幸いにも傷は浅いけど……)
大地を踏み抜く脚力・人間離れした腕力、今のレックスと斬り合うのは、あまり得策じゃなさそうだ。
「まだまだぁああああ!」
怒涛の追撃。
俺はそこへ
「――簡易×増殖召喚・スライム!」
右の踵を打ち鳴らし、召喚術式を大地に刻む。
「ぴゃぁ!」
一匹の青いスライムが飛び出し、
「「ぴゃぁ!」」
それはすぐさま二匹に分裂、
「「「「ぴゃぁああああ!」」」」
瞬く間に数千・数万と増殖していった。
これらは全て、増殖術式によって増やされた偽物。
本体は今、俺の右肩にちょこんと載っている。
「ぐっ、次から次へと……ッ」
無限に増え続けるスライムに呑まれ、レックスの動きが止まった。
(よし、いいぞ)
俺はバックステップを踏み、大きく間合いを取りつつ、近くにあった大岩に身を隠す。
(リンガとオルグの大技で削りを入れて、その間に近接特化の召喚獣を呼び出す……!)
そんな俺の戦略プランは、
「――龍技・
大出力の
「増殖召喚で茶を濁した後は、大きな遮蔽物のところへバックステップ――だよな?」
こちらの動きを読んだレックスは、既に俺の目と鼻の先『必殺の間合い』に踏み入っていた。
「やるね」
「へっ。アルトの行動パターンは、学院時代にみっちり研究したからな!」
「俺の勝ちだ!
莫大な魔力の込められた剣が、容赦なく振り下ろされる。
(やっぱりレックスは強い)
圧倒的な膂力・冷静な判断力・鋭い洞察力、どこを取っても隙がない。
だけど一つだけ、忘れていることがある。
「――俺だって、レックスのことはよく知っているんだぞ?」
一年間の冒険者生活を経て、さらに強くなった彼ならば、きっと俺の思考と動きを先読みし、この間合まで詰めてくるだろう。
そこまで読んだ俺は、右目に召喚しておいた、
「瞳術・無限縛鎖」
「しまっ……!?」
レックスはすぐに両目を閉じたが――遅い。
「あー……くそ、やられた……っ」
瞳術・無限縛鎖によって、精神の檻に囚われたレックスは、そのままバタリと倒れ伏す。
「レックス、戦闘不能!」
「よって勝者は――アルトさんです!」
ステラとルーンが高らかに勝敗を宣言。
「ふー……疲れた」
こうして俺は、『万優の龍騎士』レックス=ガードナーに勝利したのだった。
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