第81話 奴隷、掃除(死体処理)をする
イーラの酸で溶けているものが大半とはいえ、体の一部が残っている死体は無数にある。
この死体を錬金人形に使われると、それはそれで厄介なことになる。
冒険者の中でも、それなりの力を持った者が多く集まり、あのデブ以外の貴族も紛れ込んでいるかもしれない。
「ウォルス殿、何をしようとしているのですか。まさかとは思いますが、冒険者の死体まで……」
ヴィクトルをフィーエルの下へ行かせ、この場に一人残り、俺を監視するように見ていたリンネが声を荒らげる。
「見てのとおりだ。死体をこの場に残しておくわけにはいかない」
「だからといって、消滅させる必要はないと思うのですが。身元がわかる者は、遺体を船へ運べばいいと思います」
「悪いがそれはできない。死体を利用する奴がいるからな」
「死体を利用?」とリンネは死体へ懐疑的な目を向ける。
「不死者のことくらい聞いたことはあるだろう。いくら殺そうと生き返るバケモノだ」
リンネは一笑に付し、全く相手にする気はないといった態度を見せる。
「あれは噂でしょう。最近ではレイン王国であったようですが、所詮心理戦によるものかと」
魔法に長けている分、そんな魔法が存在しているとは端から信じていないのだろう。
このクラスの魔法師になれば、大抵の魔法については知っている。
当然、死者蘇生などありえないわけで、錬金魔法を説明しても信用するかも不明だ。
それでもセオリニング王国をこちらの陣営に入れるには、このリンネに錬金人形のことを説明し、納得させる必要がある。
このまま錬金人形のことを知らず、内側から侵食されていっては偽アルスの思う壺だ。
何より、そんなことになっては、セレティアがしたことが無駄になってしまう。
「レイン王国の、ブロアーネという者を知っているか」
「名前程度なら存じております」
「そのブロアーネは不死者と呼ばれ、カサンドラとの一戦では戦況を覆すところだったが、実際は不死者ではなかった」
「――でしょうね」とリンネは当然と言いたげな表情で答える。
「そのブロアーネを殺った俺が教えてやるが、不死者と呼ばれる者は、錬金魔法によって死体の一部から作られた、限りなく不死に近い、元の人間そっくりな人形だ」
「錬金魔法なんて聞いたこともありません。それに、人間そっくりであろうと、所詮人形なのでしょう」
「見た目、記憶、そんなものでは見分けはつかないがな。今のところ、魔法を使うことはないが、魔力を大量に得られるようになれば、それもわからない」
「どういうことでしょうか。人形なのに見分けがつかず、記憶まであるというのです?」
「言葉どおりだ。力、技術もそのままで何も違いはない。仮に今、そこの国王陛下も入れかわれば、お前もあの従者の男も見分けることはできない」
「そんなはずはないでしょう。私が陛下と偽物の区別がつかないなんてありえません」
先ほどまで、俺に恐怖を抱いていた人物とは思えないほど、力強く、はっきりと口にする。
だが逆に、この自信が本当に入れ替わった時に、疑うという行為そのものを排除しかねない。
「俺たちはそれを錬金人形と呼んでいるが、それは側にいる者の記憶を読み取り、その人物が取る行動をそのままトレースしてくる。魔力を解放させれば差が出るだろうが、それ以外では外見上区別はつかない」
「なんですかそれは……それでは世界が――」
「まあ話を聞け、対処法がないわけじゃない」
目の前に転がる死体を片っ端から消滅させながら、錬金人形について説明してゆく。
錬金人形には血液がないこと、切断した肉は意思があるように元の肉体に戻ろうとすること、既知の者が近くにいなければ廃人になること、そして、体を構成している錬金魔法は水属性無効魔法、または核となる骨を砕けば銀色の液体金属に変わることを。
「そんなことを、どう信じろと……」
混乱しているリンネを横目に、死体を消滅させる速度を上げてゆく。
「今信じるかはどうでもいい。俺が言ったことが正しいか、カサンドラ王国に事実確認し、それをあの国王陛下にしっかり報告するのがお前の仕事だ」
納得してなそうなリンネと俺の下へ、避難していたネイヤが駆け寄ってくる。
すっかり体力は戻ったようで、顔色もよく、普段のように落ち着いている。
ネイヤはリンネなど気にする様子もなく、俺の前で片膝を突き頭を垂れた。
「ウォルス様、イーラ討伐お見事でした」
「すまなかった。俺が最初から全力でやっていたなら、こんなことにはならなかった……」
自分がどのような表情で、こんなことを口にしたのかわからない。
今さら言ったところで、何も変わらず、ただの贖罪のつもりだったのかもしれない。
こんなことを口にすれば、不信感を抱かれたり、最悪、責任問題にされかねないだろう。
だが、ネイヤはそんな俺に対し、「ウォルス様にも、事情がお有りかと。後悔されているのなら、これから挽回すればよろしいのでは。ただ、一言言わせていただきますと、四大竜を討伐された英雄に対し、批判できる者などこの世に存在しません」と力強く答えた。
「――――そう言ってもらえると助かる。ネイヤはセレティアの下へ行っておいてくれ。俺はまだ、このリンネに話がある」
「承知しました」
後方へ去ってゆくネイヤ。その背を見つめるリンネが、理想的な従者のようですね、と一言漏らす。
「ネイヤは俺の従者じゃないからな。あくまで同じ立場の仲間でしかない」
「そうなのですか。それでも、剣姫ネイヤ・フロマージュといえば、私でさえ一度はその名を聞いたことがある剣士。それをあそこまで従えているのは、強さ以外に何かあるのでしょう」
ネイヤがワンクッション入れてくれたおかげで、リンネの態度が若干軟化したように見える。
穏やかな顔つきになり、先ほどまでの険しい表情ではない。
「錬金人形の話の続きだが、ルモティア王国の千騎将、カサンドラ王国の辺境の町まで侵食しているのは確認している。セオリニング王国にも、もし教会の力が弱っている場所があるなら警戒しておくことだ」
リンネの目が見開かれたところを見ると、これが予想外な答えだったことが窺える。
もしかすると、セオリニング王国で既にそういう地域があるのかもしれない。
「それと、カーリッツ王国には注意しておけ。アルス・ディットランドは俺が追っている邪教と繋がりがある」
「わかりました。陛下へは私から報告いたします」
リンネは一礼し、ヴィクトルがいるフィーエルの下へと歩き出した。
俺はそれを見届け、残りの死体を消滅させる作業へ戻った。