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【web版(裏)】奴隷転生 ~その奴隷、最強の元王子につき~ 作者:カラユミ

神樹の森編

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第77話 皆、勝利を意識する1/2

 その様子を見つめていたヴィクトルたちは、セレティアの横に移動するとリンネがセレティアに向かって笑顔を向け、ボーグのみがウォルスのあとを追うために飛び出した。


「どうしてわたしたちの隣なのよ」とセレティアは棘のある口調で言う。


「余はこれが一番効率的だと判断したまでだ。イーラ相手に、バラバラに散らばっているところを攻撃されれば、ひとたまりもあるまい」


 セレティアが何かを言おうとしたところに、リンネは間髪入れず「私が扱う属性は、火、風、光です」と畳み掛けた。


「私は風、水、地の三属性です」


 フィーエルが淡々とそれに応じる。

 それを見たセレティアも、負けじと答える。


「わたしは火、水、風、地の四属性だから」


「承知しました。では、火属性は私が担当いたします」


「私は風属性を」


 魔法は属性の相性が悪いものを近くで放つと、相殺されて威力が弱まる。反対に、相性がいいものを意図を持って放つと威力も増すため、魔法師が共闘する場合、最初に確認するのは属性の相性である。

 そのため、腕のいい魔法師は威力を増すため、積極的にそれらを活用する。


 魔法が使えるだけで、魔法師ではないセレティアはそのことについていけず、ただただ不満な顔を二人へ向けるだけだ。


「わたしは防御専門だから、任せたわよっ」


 リンネが詠唱を開始し、それを読み取ったフィーエルも風属性魔法を操る。

 二人の頭上には一等級魔法、局地型巨大炎槍魔法と、それを補助、威力を増大させる風の渦が姿を現した。


 全てを焼き尽くす灼熱の炎は、地上のセレティアたちの皮膚まで焦がすような熱を放ち、その切っ先をイーラへと向ける。


「この一発で終わるんじゃないの?」


 セレティアが発した言葉は、世辞でもなんでもない、心から出た言葉でしかない。

 だが、その言葉にフィーエルは渋い表情を返した。


「そこまで弱い相手ならいいのですが」


 並の魔物なら一撃で消し飛ぶような威力となっている魔法ではあるが、それが四大竜にどれほど効果があるのかはわからない。

 歴代の魔法師も、この程度はしていたはずだと、フィーエルは灼熱の魔法を前にしても油断することはなかった。




 フィーエルたちが魔法を練っていたその間に、イーラの足下まで近づいたウォルスとネイヤ。

 ネイヤは間近に見る、そのあまりに巨大な体に怯み、手足が冷たくなってゆくのを感じていた。


「ネイヤ、そこまで緊張する必要はない。もうすぐ後ろからドデカイのが一発くるぞ」


「後ろからですか……?」


 振り向いた先には、こちらに向かってくるボーグの姿、さらにその後方からは、赤く燃えたぎる巨大な槍が、一直線にこちらに向かって飛翔してくるのが見えた。

 それは一瞬にしてイーラまで届き、翼で防いだイーラの翼を軽々と突き破ると、胸元に突き刺さった。

 絶叫を上げるイーラだが、致命傷には遠く及ばず、焼け焦げた傷口も徐々に回復してゆくのがウォルスの目に映る。


「どうなっている……急速な自己治癒能力なんて知らないぞ」


「私も調べた中に、そんなことは一度も書かれてありませんでした……」


「これは厄介そうだな」


 ウォルスは試しにと、後ろ足の足首に思い切り剣を叩きつけた。

 恐ろしく硬い皮膚ではあったが、ウォルスの全力の一撃で、半分ほどが切断される。

 傷口から血液は噴き出すが、切断したはずの傷は切ったそばから、繋がり治癒してゆく。


「だから無傷だったわけか。あれだけの冒険者がいて、ここまで無傷だったのはおかしいとは思ったが」


 ウォルスの知識にない二つの能力。

 全てを溶かす酸攻撃と、通常攻撃を瞬時に治す自己治癒能力。

 全員がこの能力を知らないことが、この二〇〇年の進化なのか、転生で何かが狂ったのかは判別のしようがない。


「それでも、傷によっては回復速度に違いはあるようだな」


「そうですね、魔法で焼かれた傷の回復速度は、明らかに遅いようです」


 ネイヤは既に治りかけている足首から、まだ半分ほどしか治っていない、胸に空いた傷口へと視線を変えて呟いた。


「傷口が触れ合うものは、回復が早いとみて間違いないだろう」


 ウォルスは確かめるように、今度は剣身に無属性削剥(さくはく)魔法を付与して斬りつける。

 黒いオーラが付与された剣は実際は斬るのではなく、そこに存在する物体を空間ごと削るため、傷口が接触することもなく、予想どおり傷口はすぐには塞がらない。

 それと同時に、イーラの足が宙に浮き、ウォルスとネイヤの頭上に振り下ろされる。

 いくら傷が塞がるからと、痛みがないわけではないのだ。


 二人が左右に分かれて回避する瞬間、ウォルスはネイヤの剣にも魔法を付与して飛び退いた。


「ネイヤッ、その剣にも魔法を付与した。決して触れるんじゃないぞ」


 反応はなく、聞こえたかどうかわからないまま、強制的に個々で対処することになったウォルス。 魔法を付与した剣はいくら全力で振ろうとも、その魔法範囲以上の肉を削ぎ落とすことはなく、ダメージを蓄積させるには剣の威力よりも連続攻撃しか方法はない。


 巨躯ながら尋常ではない速度で攻撃してくるイーラの一撃をかわし、ウォルスはその前足に攻撃を加える。

 その間も周りに目をやり、ネイヤとボーグの様子を確認することは怠らない。


「でぇぇええええやあああッ!!」


 剣身に火属性を付与し、尾を攻撃しているボーグの姿が視界に入る。

 削剥魔法ほどではないが、傷の治癒速度は間違いなく落ち、イーラへ有効打を与える。

 その最中も、後方からハイペースで炎槍が届き、イーラを貫いた。

 魔力枯渇のことなど考えない、短期決戦を意識した魔法攻撃、近接攻撃による確実な有効打は、皆に勝利という二文字を意識させた。

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