第二話:パーティ結成
俺をパーティに誘ってくれた三人は、
「ちょっと……?」
「あ゛ぁ……?」
「むむ……っ」
敵意を剥き出しにしながら、鋭い視線を飛ばし合う。
「私がこの一年、どうして『無所属のソロ』に拘っていたのか、まさか知らないわけじゃないわよね?」
「俺がこの一年、死に物狂いで鍛えた理由、当然わかってんよな?」
「私がこの一年、必死に魔術の修練を励んだのは何故か、もちろんご存じですよね?」
三人は一触即発の空気を漂わせた。
「あのさ、気持ちは嬉しいんだけど……。俺はみんなとパーティを組めないぞ?」
「ど、どうして!?」
「おいおい、なんでだよ!?」
「まさか、先約が……!?」
ステラたちは食い気味に問い掛けてくる。
「いや、別に先約とかじゃないんだけど……。俺はもう一年近く実戦から離れている。みんなとパーティを組んでも、足を引っ張っちゃうだけだ。というかそもそもの話、冒険者になるかどうかもまだ決めてない」
「あれだけの力があるんだから、アルトは冒険者になるべきよ!」
「あぁ、ステラの言う通りだぜ!」
「まったくもって、同意見です!」
三人は息を荒くしながら、同じことを口にする。
「いや、そう言われてもな……」
俺が苦笑しながら頬を掻いていると、ステラ・レックス・ルーンは、「誰がアルトをパーティに入れるか」という争いを始めてしまった。
その直後、
「――アルト、ギルドの職員をクビになったの?」
少し驚いた様子の母さんが、声を掛けてきた。
「……うん、ごめん。でも大丈夫、明日にはすぐ職業安定所へ――」
「いい機会じゃない。お友達もこう言ってくれていることだし、冒険者になったら?」
「え?」
「ほら。あんた昔から、『最強の冒険者』になりたいって言ってたでしょ? アルトはまだ十五歳、夢を諦めるには早過ぎるわ」
「いや、でも……冒険者は危険な職業だし、何よりも給金が不安定で、福利厚生も――」
「お金だとか福利厚生だとか、あんたはおっさんか!」
彼女は俺の背中をバシンと叩いた後、どこか悲しそうに笑う。
「……私のことを考えてくれるのは、とっても嬉しいんだけどね……。一度っきりの人生なんだから、もっと自分の好きなように、自由に生きたらいいんだよ」
確か卒業式の日にも、同じようなことを言われたっけか……。
「さぁ、男ならシャキッと答えな! お友達と一緒に冒険者になるのか、それとも別の仕事を探すのか――アルトはどっちがいいんだい!?」
母さんはそう言って、真っ直ぐこちらの目を覗き込んだ。
「俺は……冒険者になりたい……」
「なんだって? 声が小さくて聞こえないよ?」
「俺は、冒険者になりたい!」
「あぁ、そうかい! 頑張りな!」
彼女は満面の笑みを浮かべ、背中をバシンと叩いてくれた。
「母さん、ありがとう」
俺が冒険者になる意思を固めた頃、ステラたちの争いは佳境を迎えていた。
「「「最初はぐっちー、じゃんけんぽい!」」」
「「「あいこで、しょ!」」」
「「「あいこで、しょっ!」」」
その結果、
「や、やった……!」
ステラのチョキが
「ぅ、ぐ……っ」
「そん、な……」
レックスとルーンは手を開いたまま、がっくりと膝を突いた。
「アルト、パーティを組みましょう! 私とあなたなら、どこまでも行けるわ!」
「あぁ、よろしく頼む」
「……ほ、ほんとにいいの?」
「もちろんだ。ステラが嫌じゃなければ、一緒にパーティを組もう」
「~~っ。ぃやったー! ありがとう、アルト! これからもよろしくね!」
彼女は瞳の奥を輝かせながら、全身で喜びを表現する。
「ステラちゃん、いろいろと気の回らない息子ですが、よろしくお願いします」
「い、いえ、そんな……! こちらこそ、不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
母さんとステラは、ペコペコと挨拶を交わす。
「……なんか、
「……ですね」
レックスとルーンは、そんな光景をジト目で見つめた。
「ゆ、結納って……ッ」
「ちょっと、何を言っているのよ!?」
俺とステラは顔を赤くしながら、二人をキッと睨み付ける。
「ふふっ。ステラちゃんみたいに可愛い子だったら、おばさんはいつでも大歓迎よ?」
「か、母さん、ステラに失礼だろ!」
「あら、本人は嫌がってなさそうだけど……?」
「え?」
ステラの方に目を向けると、
「い、いつでも大歓迎ということはつまり……『親公認』!? いやでも、私とアルトはまだ未成年だし……結婚とか、男女の、そ、そういうことは、もっと大人になってからの方が……~~ッ」
彼女は両手で頬を押さえながら、目をグルグルと回していた。
どうやら、混乱の極致にあるみたいだ。
「おーい、ステラ……? さっきのは母さんの悪い冗談だから、真に受けないでくれ」
「冗、談……? あっ……そ、そうよね! 知ってた! ちゃんと理解しているから大丈夫! うん、大丈、夫……っ」
「……?」
何故かがっくりと肩を落とす彼女をよそに、レックスがパンパンと手を打ち鳴らす。
「さぁてそれじゃ、アルトの誕生日とアルト・ステラの新パーティ結成を祝して――乾杯!」
レックスが音頭を取り、俺の誕生日パーティが始まったのだった。
■
楽しかったパーティも終わり、時刻は二十三時。
俺とレックスは、ステラとルーンを家まで送り届けることにした。
ワイバーンなどの飛行能力を持つ召喚獣を呼び出せば、一瞬で飛んで帰ることもできるのだけれど……。
「こうして四人が集まったの、一年ぶりだぜ? まだまだ話し足りねぇって!」
レックスがそう言い、ステラとルーンもそれに同意したため、歩いて帰ることになったのだ。
俺たちは無人の草原を進みながら、いろいろな雑談に花を咲かせ――しばらくしたところで、レックスがとある提案を口にする。
「なぁアルト、久しぶりに摸擬戦をやらないか?」
「え、えー……っ」
一年間、冒険者ギルドで書類と向き合っていた俺。
一年間、みっちりと修業を積んだレックス。
とてもじゃないが、まともな勝負になるとは思えない。
「アルトとレックスの摸擬戦……なんだか学院時代を思い出すわね!」
「アルトさんの召喚魔法、一年ぶりに見てみたいです」
ステラとルーンは、ノリノリでそう言った。
なんだかもう、断れる空気じゃない。
「はぁ……わかったよ。その代わり、お手柔らかに頼むぞ?」
俺が承諾すると、レックスは好戦的な笑みを浮かべつつ、適度に間合いを取った。
「0勝186敗――なぁ、この数字がなんだかわかるか?」
「もしかして……俺とレックスの対戦成績、か?」
「おぅよ。冒険者学院での三年間、お前にだけは一度も勝てなかった。その雪辱、今ここで晴らさせてもらうぜ!」
レックスの纏う空気が変わった。
さっきまでの軽薄な態度は立ち消え、今はまるで抜き身の刃のようだ。
「一年のブランクがあるとこ悪ぃが……全力で行くぞ?」
彼は呼吸を整え、背中に差した一振りを引き抜く。
「やっちゃえ、アルトー!」
「アルトさん、頑張ってください!」
ステラとルーンが声援を送ってくれる中、レックスは懐から銀のコインを取り出す。
「アルト。開始の合図は、いつものでいいな?」
「あぁ」
「うし、決まりだ」
俺が頷くと同時、彼はコインを親指に載せ、上方へピンと弾く。
それは高速で回転しながら、互いの中間地点を舞い――大地に落ちた。
「
レックスの全身を膨大な水の魔力が覆う。
天龍憑依――天上に住む龍をその身に降ろし、絶大な力を借り受けるという、ガードナー家の秘術。
「うぉらあああああ゛あ゛あ゛あ゛……!」
雄々しい叫び声をあげながら、凄まじい速度で迫るレックス。
それに対して俺は、『龍』と『鬼』の
「――雷龍リンガ。炎鬼オルグ」
次の瞬間、俺とレックスを
「詠唱破棄の二重召喚か……っ」
レックスはたまらずバックステップを踏み、大きく距離を取った。
「リンガ、オルグ、久しぶり」
「ほぅ、アルトの小僧か」
雷龍リンガは、
「アルト、
炎鬼オルグは、
逆巻く
体表を
「いきなりで悪いんだけど、二人の力を貸してくれてないか?」
「無論だ」
「ヨカロウ」
轟雷が鳴り響き、凄まじい熱波が吹き荒れる。
「高位精霊に上級悪魔、か。相変わらず、召喚の規模が違ぇな……っ」
レックスが息を呑む中、俺は軽い挨拶を放つ。
「リンガ、
「承知した」
「任セロ」
リンガは大きく口を開き、莫大な雷を充填。
オルグは両腕を広げ、灼熱の炎を展開。
「おいおい、いきなりか……!?」
超高密度の雷と108の大炎塊が、レックスに向かって殺到。
刹那、耳をつんざく轟音が鳴り響く。
強烈な衝撃波が無人の草原を吹き抜け、辺り一帯が焦土と化した。
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