152話 家族との再会
「おめでとう、やはりレナリアが一位だったね」
「私が一位……?」
ポール先生の発表に、会場中の視線が一斉にレナリアに集まる。
「やったね、レナリアが一番!」
「すっごーい。レナリアがいちばーん!」
「きゅっ」
レナリアの周りではフィルとチャムとラヴィが喜びの舞を踊っている。
「え、ちょっと待って。……えぇ?」
とてつもなく目立っている。
目立たないように地味に過ごしていたというのに、とてもとても目立っている。
注目を集めるレナリアはどうしていいか分からずに観客席に背を向けた。
ちょうど、競技場内に五年生が入場するところだ。
「どうしたの? 喜ばないの?」
不思議そうなフィルに、レナリアは困ったように眉尻を下げる。
(一番になったのは嬉しいんだけど、こんなに注目されるとは思わなくて……)
フィルは少し考えるように腕を組むと、いいことを思いついたというようにニコっと笑う。
「分かった。じゃあ他が注目されるようにしてあげる。王太后の髪の毛を燃やしてくればいいかな」
(絶対だめー!)
放っておくと本当にやりかねないので、レナリアは必死に止める。
(あ、ほら、フィル。お兄様が出ていらしたわ)
背中に集まる視線を感じながら、レナリアはスタート地点に向かう生徒たちの先頭にいるアーサーに手を振る。
一瞬苦笑したアーサーは、しっかりとレナリアに手を振った。
そして隣を歩くレオナルドに何やら声をかける。
頷いたレオナルドが、手に持った杖を高く掲げた。
アーサーも同じように杖を掲げる。
後ろに続く生徒たちはその様子をとまどって見ていたが、アーサーたちに声をかけられて、同じように杖を掲げた。
「なんと生徒たちが杖を掲げながら入場しています。このような入場は初めてですが、なかなか壮観ですね。さて、いよいよ最後の競技となります。五年生の個人戦は今年も見ごたえのある戦いとなるでしょう。保護者の皆様、どうぞ盛大な応援をよろしくお願いします」
エレメンティアード最大の見どころである個人戦の始まりに、観客たちの目は自然にアーサーたちへと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大波乱のエレメンティアードはこうして終わった。
突然のアクシデントはあったものの、風魔法クラスの躍進や、レオナルドとアーサーの一騎打ちなど、例年以上の盛り上がりを見せた。
競技がすべて終わった後、やっと家族と再会したレナリアは、久しぶりに会う母の胸へ飛びこむ。
「お母さま!」
黒髪にタンザナイトの目を持つエリザベスは、アーサーやレナリアのような大きな子供がいるとは思えないほど若々しくて美しい。
その横で家族の再会を微笑ましく見ているクリスフォード・シェリダンも、若い頃よりも成熟さを増した男の色気を醸し出していて、シェリダン一家がいる場所は、そこだけ切り取って永遠に眺めていたくなるほど、美しかった。
「父上、母上。お久しぶりです。お変わりはありませんか?」
「ああ。アーサーも個人優勝おめでとう。まさか引き分けなどという結果になるとは思わなかったが、素晴らしい成績だったね」
どちらが勝つかと注目を浴びたレオナルドとアーサーの一騎打ちであったが、二人の間でなかなか決着がつかず、ついには二人だけで延長戦を行ったのだが、さすがに三度目の延長戦で引き分けとすることになったのだ。
個人戦での引き分けは、エレメンティアード始まって以来のことだった。
「本当に凄い激戦でしたね。もうハラハラしてしまって、持っていたハンカチがくしゃくしゃになってしまったのよ」
レナリアを抱きしめたままのエリザベスが、花がほころんだかのように微笑む。
「レナリアも怪我がなくて良かったわね。それにレナリアも一位だなんて、素晴らしいわ」
「あの、セシル殿下がかばってくださったのです」
「まあ、では後でお礼を言わなくては」
エリザベスは王室からは距離を取ってはいるが、兄の国王とはたまに手紙のやり取りをしているくらいには仲が良い。
それに王宮にいた頃には何度も王太后の悪意から庇ってくれた。
だからレナリアが従兄弟であるセシルと仲良くするのを、別に止めようとは思っていない。
むしろアーサーがレオナルドと仲良くなったのを知った時のように、クリスフォードのほうが良い顔をしないに違いないと思っている。
だが学園では色々な出会いがある。
その出会いの中で成長してほしいとエリザベスは思っていた。
「さあ、久しぶりにみんなでお食事に行こうか。レストランを予約してあるんだ」
「お父さま、ありがとうございます」
喜ぶレナリアの頭をなでると、クリスフォードは「では行こうか」と皆をうながす。
そうして、シェリダン一家は学園都市にあるレストランで、久しぶりの家族だんらんを過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「叔父上、どうなさったのですか。とても機嫌が良さそうに見えます」
「そう見えるかい?」
エレメンティアードの会場を後に、聖女の像がある泉に向かうユリウスの足取りが軽いように見えて、ロイドは不思議そうに尋ねる。
泉に向かうのはユリウスとロイドだけだ。
本当はユリウス一人で行きたかったのだが、道案内としてロイドがついてきた。
「ええ。とても」
「そう……。ちょっとね、新しい発見をしたものだから」
「新しい発見、ですか?」
オウム返しで聞くロイドに、ユリウスは首にかけたロザリオを握る。
ロザリオにはユリウスの瞳と同じアメジストの石と銀の鎖がついていて、よく見るときれいに磨かれてはいるが、年代物であるのが分かる。
「ねえロイド。奇跡とは、待つのではなく、起こすものだと思わないかい?」
仮面の奥でくぐもったような笑い声が聞こえる。
ロイドは、
そんな二人を待ちわびるかのように、ゆるく腕を広げた聖女の像が二人を出迎えた。
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