書留鞄




書留鞄(Kakitome-Kaban)
昭和40年ごろに郵便局員が使用した、手紙を入れる小さな鞄です




【 長谷川が製作した書留鞄 】

黒のスエード生地で製作しました
レトロな雰囲気と、郵便鞄としての機能的な設計が魅力的な1点です




ストームコートに合わせて首から掛けてみると、こんな雰囲気に




ベルトを長く伸ばして横に掛けると、こんな風に収まります



小さいながらも収納力は抜群です
文庫本や財布にスマホ、マスクなどが容易に入っていきます




本体につくインポケットには大きなマチが設けられ、アウトポケットにもゆるみが設計されています
小ぶりな見た目以上にものが入るので、驚かれるかもしれません



本体のサイズは下記の通りです
タテ:17.8cm
ヨコ:12.9cm
奥行:5cm
素材によって出来上がり寸法が多少前後するでしょう



2月15日(月)まで、無料で型紙を配布します
こちらよりダウンロードしてご利用ください

(ちなみに14日(日)までこちらの型紙も販売しています)


ダウンロード形式は「A4サイズのPDFファイル」です
ご自宅のプリンターまたはコンビニのコピー機で印刷してご使用ください


革で製作する方に向けた「革用の型紙」 と 布で製作する方に向けた「布用の型紙」の2種類がダウンロードできます


【 昭和51年発売 てがみをください 】

古い絵本のなかに書留鞄が登場していました
郵便受けに住み着いたカエルが、手紙を待ち続ける絵本です
ラストシーンで登場する配達員のおじいちゃんが、腰に茶色の書留鞄をぶら下げています



実際に、書留鞄を使用している昭和36年の映像が残っています
57秒あたりで配達員が腰にぶら下げており、1分44秒では「かきとめかばん」とナレーションが入ります
なぜ、こんな物騒なタイトルなのかは動画をみていただくと理由が解ります



また、amanaimagesには昭和46年の郵便配達員の写真が綺麗に残っており、腰に書留鞄を確認することができます
こちらです



ここからは当時の実物を見ながら、より深く構造を探っていきます



【 昭和40年ごろの書留鞄 】

堅牢な見た目なのに、小ぶりな可愛らしいサイズ感
そして「日本の郵便鞄」であることに惹かれました

アメリカやフランスの古い郵便鞄は、ビンテージ好きのなかでは根強い人気があるアイテムなのです
「メールバック ビンテージ」や「ポストマンバック ビンテージ」で検索してみてください
きっと「見たことある!」と思うかもしれません

海外のメールバックを知っているからこそ、この日本の小さなメールバックに惹かれたのかもしれません



手紙をたくさん入れるため抜群の収納力があります
偶然にも手紙に合わせた縦長のシルエットのため、スマホがピッタリ入るのです


シンプルな設計ながらも、随所にひと手間が加えられ機能的に仕上げられています

その職人技を2点紹介します


1・【 絞りの入ったアウトポケット 】


アウトポケットには「絞り」の技法が用いられ、立体整形がされています

絞りとは、革を水で充分に濡らし専用の木型などにはめ込み乾燥させることで、縫わずに立体を付ける技法です

【 側面からみた絞り 】

横からみると、ポケットが立体的に浮き出ているのがわかります

丈夫な厚い革を使用しているので、縫いによる立体造形が困難だったのでしょう
かといって薄い革で立体をつくっても、今度は書留鞄としての耐久性が足りません
そこで、絞りを用いたのだと推測できます



【 絞りのアレンジ 】

この絞りは、革だからこそ使える技法なので布には使えません
私が製作した型紙は、普通の布でも作れるようにアレンジしています
この絞りの立体感は「極小のダーツ と ゆとり」を設けることで再現しています



【 極小ダーツ縫製直後の写真 】

緩やかなカーブを描くように立体感が生まれます
書留鞄の絞りが、経年変化により丸みを帯びた雰囲気になったのを意識して、設計しました



続いては

2・【 本体を囲うベルト 】

不思議なことに、この書留鞄はベルトが、本体をぐるっと囲うように留められているのです

通常は、ベルトを縫い込んでいるものが主流です
ベルトが千切れた際に交換するため、取り外し可能な金具を付けている場合もありますが、このように鞄本体を囲うように付いているのは珍しい仕様です



【 端部分と底面部分のアップ 】

Twitterでは「底面にかかる重さを支えるために全体を囲っているのではないか?」「型崩れの防止になるのでは?」など興味深い意見をいただきました

恐らく、重量の支えや型崩れ防止といった役割を担っているのでしょう



【 ベルトを通す切込み 】

ただ単純に切込みを入れるだけの処理なので、千切れはしないか少々不安です
特に両端は力のかかる部分なので、私が製作した鞄には補強を入れました



【 ビンテージテープを通してみる 】

しかし、このベルトで囲う仕様のおかげで、書留鞄にアレンジを加えることが可能です

例えば、革ベルトではなくビンテージテープを入れてみると鞄全体を通るので印象が大きく変化します




テープに変えれば長さも自由に調整できます



【 組紐を通したアレンジ 】

創業360年の老舗「道明」の高麗組を通してみました
書留鞄は和服にも相性が良いと思うので、組紐を合わせてみるのも面白いのではないでしょうか
組紐の美しい柄がより一層引き立ちます




アレンジの方法は無限大
金属チェーンや、シルクテープを通してみても違った表情を見せてくれるはずです



番外編・【 ちょっとバランスの悪いペン挿し 】

「居心地が悪そうだなあ」と思わず苦笑してしまう位置にペン挿しがあります
これは各自の判断で省いても良いでしょう

なぜか側面のベルトに思いっきりぶつかる位置にあります
ペン挿しのサイズも狭くて浅いので、エンピツや細身のペンしか挿せません



【 製作したペン挿し 】

迷ったんですが、一応ちゃんとつくりました
販売する型紙にも設置しています

あると何だか愛着が湧きますね
ヴィンテージらしい可愛らしさがあります




ここからは「書留鞄の製作にチャレンジするぞ!」という方にむけて、製作に関するポイントを紹介していきます



まずは、「素材」「型紙」「付属品」を決めましょう

私が製作した書留鞄の素材は「東レのウルトラスエードER」です
別名「人工スエード」と呼ばれます

本物のスエード同等の見た目、肌触りを実現しつつ高機能な素材です
浅草の佐々木商事で購入しました
※本物のスエードより値段が張ります



そして、私が使用した型紙は「革用」です
「布用」の型紙を使用した縫い方はJFOAの学長が動画で紹介しています

【 マチを繋げて1パーツにする 】

まず、印刷した型紙のなかで「マチ」というパーツが「右側・底面・左側」と3点あります
それらを繋げましょう
端に「A・B」のアルファベットが書かれているので、それに合わせて繋げてください



そしたら「縫い代付け」です
簡単なので安心してください

【 革用の縫い代 】

革用の縫い代は基本的に「無し」で大丈夫です
私は無しで縫いました



【 布用の縫い代 】

布用の縫い代は基本的に「1cm」です
ペン挿しのみ、小さいパーツなので5mmにしています


ベルトの型紙は、つくらなくても大丈夫です
本体が完成したあとに、鏡の前で合わせてみながらお好みの長さを決めてください
「お好みの長さ + 本体を囲う長さ」で直線裁ちしたほうが、型紙を置いて切るより綺麗に仕上がるでしょう

「とりあえず長めに切っておいて、あとで調整する」のが失敗の少ない方法です



以上で型紙の準備は終了です
続いては「付属品」に移ります



付属品はすべて浅草の「MK PULS」で購入しました
お近くの方は、ぜひ足を運んでみることオススメします
実物をみると印象が変わります
とても丁寧に接客していただきました


【 書留鞄の顔 錠前 】

錠前の品番は「LA-1」を使用



【 補強にかかせない 角金 】

角金の品番は「W-1-A」を使用



【 ベルトに使用する バックル 】

バックルの品番は「BA-103-15」を使用


これらの付属品が、書留鞄のデザインを構成するうえで重要だと考えたので、独自にヴィンテージ加工を施しました

【 ヴィンテージ加工した付属品 】

元はすべてニッケルでした
「ヤスリがけ、火で炙る、銀黒の塗布」の3手順で加工しています
自己責任で挑戦してください



それでは錠前を取り付けていきましょう

私は初めて錠前を取り付けました
想像していたよりも、はるかに簡単でした



型紙には「錠前の位置」が描かれています
お使いになる錠前に合わせて微調整をしてください



錠前の足を押し付けて、跡をつけて白い鉛筆で印をしました



裏面には、補強用に1枚スエードを重ねました
お使いになる生地に合わせて検討してください
※補強用の型紙はデータに含まれません



切込みを少しだけ入れて、足を差し込んでいきます




裏面の「受け」に通して足を折り曲げ完成です


続いては、ベルト通しのスリット部分です


型紙の位置を目打ちで写して、白鉛筆で印をつけました



その後、カッターなどで切込みを入れて完成です
ただし両端部分は最も力が掛かる部分ですので、錠前同様に裏にスエードを当ててミシンステッチを施しました
これで耐久性が大幅にアップします



続いては、錠前の上部分

ここもスエードを二重にしています
ある程度の厚みがないと、錠前金具が取り付けられないので、使用する金具と素材で決定しましょう



あらかじめ開けておいた穴に足を通します




そしてネジを締めて完成です

こちらも初めてでしたが、簡単に取り付けることができました



【 角金の取り付け 】

初めて角金を取り付けました
こちらは錠前と違って、大苦戦
上手く取り付けるのに4,5回やり直しました・・・

取り付ける際は、キズが付かないようにペンチにスエードの端切れを噛ませると良いようです
私はヴィンテージ風に製作したので直接いきました




最後に実物を分解して、気付いた2点を紹介して終わります


【 美しい角金と角の処理 】

当時の角金には、穴が開いており釘が打たれていました
さらには、あらかじめ鞄の角を切り落としてから角金を付けています



【 漉き仕上げ 】

「漉き」も「絞り」同様に革ならではの技法です
写真は分解したポケットの裏面です
真ん中だけ黒く、外側は白くなっているのが解ります

これは、縫われる外側の革だけを薄く削いで縫いやすくしているのです



さらに解ったことは、本体で端を包みながら縫製をしている点です
本体にも漉きが入り、ポケット端を包んでいました
この縫製方法のメリットは「コバ処理」をせずに仕上げられる点だと思います

洋服ではまず見ることのない技法なので、大変興味深いものでした



鞄をつくるのは、ほぼ初めてでしたが写真を撮りながら縫製して、2時間弱で完成しました
小さな鞄ですので「手縫い」でも充分つくれると思います

皆さんも書留鞄をつくってみませんか