45話 魔素を練り上げる
イビルトレントを相手に、どうやって戦えばいいだろう。
騎士団と一緒に戦うのであれば、騎士団にレナリアの体を守ってもらっている間に、大きな魔法を放つ準備をすれば良かった。
だがレナリア一人での攻撃となると、のんびり詠唱している間にイビルトレントが反撃してくるだろう。
トレントのように足元の土を固めても、イビルトレントは固まった根を切り離して、すぐに新しい根を使って動き始める。
ツタも同じで、すぐに新しいツタが生えてくる。
イビルトレントの討伐のためには、再生能力の高さをいかに封じこめるかが大切だ。
一番良いのは火魔法で燃やしつくすことだが、まだ小さなチャムにそれだけの魔素を集めることができるだろうか。
「フィルにも協力してもらいましょう」
「ボク? うん、やるよ」
レナリアに頼りにされるのが嬉しいフィルは、羽をキラキラ光らせながら答える。
「チャムもー」
「もちろん、チャムもよ。というか、あなたに一番がんばってほしいの」
「うん! がんばるー」
チャムも喜んで赤に黄色に激しく色を変える。
「はしゃぎすぎだよ」
「えへへー。チャムがんばるのー」
「ほら。落ち着いて」
ぶんぶん飛び回るチャムはひょいっとフィルに捕まえられてしまった。
炎の形のてっぺんをつかまれた状態になったチャムはご機嫌でブラブラ揺れていて、それをフィルが仕方ないなぁという目で見ている。
「二人とも、炎の魔素をたくさん集めて」
「分かった」
「分かったー」
レナリアの周りに炎の魔素が一気に集まる。
そして二人が集めた魔素を練り上げる。
大きく深呼吸をすると、レナリアは強大な魔法を放つ。
「業火の炎!」
炎の柱がドーンという音と共に、イビルトレントの上に落ちる。
グワァァ、という声を上げて、イビルトレントの体が燃えていく。
そして本体から伝わる激しい炎が、ツタや根を燃やし、黒い炭へと変えていった。
「フィル、土の魔素を!」
「土!? よく分からないけど、了解」
フィルは自分ができる限界まで土の魔素を集める。
「ありがとうフィル。いくわよ、土の檻!」
レナリアの魔法で、イビルトレントを囲むように土の檻が現れた。
これで新しいツタや根を出そうとしても封じこめられる。
それでもイビルトレントは抵抗して土の檻を破ってツタや根を出してきたが、その度に風の刃で切り裂き、炎で燃やし、土の檻を修復した。
やがてイビルトレントの上げていたうめき声が小さくなっていき、そして消えた。
「やったわ……」
肩で息をするレナリアは、立っているのもやっとだ。
さすがにイビルトレントを一人で倒すのは大変だった。
精霊が集めてくれた魔素を魔力に変えるには、一度その魔素を体内に巡らせなくてはならない。
あまりに大量の魔素を扱った場合は、魔力酔いという状態になってしまい、倒れてしまう危険がある。
まさにレナリアがその魔力酔いの状態だった。
「レナリア!」
「だいじょぶー?」
足に力が入らずに座りこんでしまうと、フィルとチャムが慌ててレナリアへと寄ってきた。
「何とか、大丈夫よ」
レナリアはそう言って、イビルトレントを封じこめた土の檻に目を向ける。
茶色かった土の壁は、中から燃やされて、今は黒く変色していた。
高温で燃やされて封じこめられたのだから、いくらイビルトレントでももう生きてはいないだろう。
ホッと息をつくレナリアに、フィルがハッと目を見開く。
「レナリア、魔物がくる」
よりにもよって、魔力酔いで立つのもままならない時に魔物がやってくるなんて、とレナリアは形の良い唇をかむ。
「何がくるか分かる?」
「足が早いから動物系の魔物だよ。……分かった。ファイアーウルフだ」
「ファイアーウルフ!?」
ファイアーウルフはその名の通り、火をまとっている狼だ。
狼系の魔物としてはそれほど強くはないし群れることもないので、レナリアの実力であれば、倒すのにそれほど苦労はしない魔物だ。
ただそれは、レナリアが万全の状態であったなら、だ。
今のように立ち上がることもできない状態で戦って、勝てるかどうか……。
「といっても、やるしかないわね」
レナリアは土の壁を保持するための魔力を解放し、ファイアーウルフの襲撃に備える。
さっき折った桃の枝を支えになんとか立ち上がると、大きく息を吐いた。