33話 ナイフに魔力を通します
エアリアルの名前が決まりましたので32話に追加しております。
よろしくお願いします。
マリーがエアリアルの名前を言う箇所を32話からこちらに移動しました。
最後に聞かれたマリーは小さな声で「クルールです」と答える。
「うん、マリーさんのエアリアルも良い名前だ。古代語で『色』かぁ。学園で、色んな色の花を咲かせられるといいね」
「……は、はいぃ……」
蚊の鳴くような声で頷いたマリーは、真っ赤になってうつむいた。
「みんな、とても良い名前をつけたね。……ああ、エアリアルたちも喜んでいるみたいだ」
ポール先生の前髪が、応えるようにふわりと風をはらむ。
「ポポちゃんも喜んでいるみたいですわね」
ローズがふふと笑うと、ポール先生は目を細めて前髪の先を見る。優し気に、愛おしそうに。
「うん。そうみたいだ」
ポール先生は、目に見えないエアリアルに指先を近づける。
そしてもう一度微笑んだ。
平凡な顔立ちだが、その笑顔は魅力的だ。
「じゃあみんな、自分のエアリアルに力を貸してもらえるようにお願いしよう。それからナイフに魔力を通してごらん」
「はい!」
元気よく返事をしたのは、赤毛にそばかすがチャーミングなエルマだ。
エルマの家は商家で、魔石を主に取り扱っている。だから魔石に魔法紋を刻めるエアリアルの守護を受けて魔法学園に入学することができ、大喜びだった。
確かに魔法学園では、目に見えないエアリアルの守護を持つものは馬鹿にされている。
だがどの精霊の守護も得られない普通の平民にとって、魔法が使えるというだけでも凄いことなのだ。
それにポール先生が、エアリアルの守護を誇りなさいと言ってくれたのも、エルマのやる気を高めていた。
エルマは絶対に将来は偉大な風魔法使いになって、いつか国宝級の魔法紋を刻むのだと心に誓っている。
「ミア。私に力を貸して」
エルマははっきりとした声で、自分のエアリアルに声をかける。
少し照れくさいが、いつか返事が返ってくるかもしれないと思うと、心の奥に小さな希望の光がともるようだった。
「ゼファー、頼むぜ」
浅黒い肌に茶色い髪と黒い目を持つエリックの家は漁師だ。船乗りはエアリアルの加護を喜ぶから、こちらも真面目に取り組んでいる。
「ロゼ、よろしくね」
「……フォルス、頼む」
ローズとランスも、エアリアルの名前を呼んで、ナイフに魔力をこめた。
マリーは安定して魔力を流せるように、ポール先生のアドバイスを受けている。
「フィル、力を貸して」
「もーっ! いつ呼んでくれるのかと思ったじゃないかー! 遅いよー!」
レナリアがフィルを呼んだ途端に、待ちかねていたフィルがぽんと空中から現れた。
腰に手を当てて怒っているが、薔薇色の頬はかえって愛らしい。
レナリアはふふっと笑って、可愛らしい頬を指でつついた。
「ごめんなさい、フィル。でも主役は最後に現れるものよ」
「……ボクが主役?」
「ええ。このナイフに魔力を通すの。でも――」
「分かった! 任せて!」
「フィル!?」
私の魔力を増幅するんじゃなくて減衰させて、と言い切る前に、フィルは張りきってレナリアの願いをかなえた。
……増幅する方向で。
「うわぁ、なんだ?」
「また暴走!?」
レナリアの持つナイフがあり得ないほど光を放つ。
放ちすぎて、ナイフのはずなのに、長剣のような長さで光っている。
「フィル、抑えて!」
レナリアが叫ぶと、フィルは魔力の増幅を止めた。
ホッと息をついて肩の力を抜く。
「なんだよぅ。せっかくボクががんばったのに」
「がんばりすぎだわ……」
ため息をつきながら周りを見ると、クラスメイトたちは唖然としてレナリアを見ている。
マリーなど、今にも倒れそうなほど顔色が悪い。
「レナリアさん、今のは一体……」
目を見張るポール先生に、レナリアは目を逸らす。
明るく大きな窓には蔦がからみつき、腰くらいの高さの棚の上に置かれた様々な種類の瓶に影を落としている。
透明なフラスコや小さな風車は、実験のためのものだろうか。
……ちょっと現実逃避をしてみた。
「えぇと……。ちょっとフィルが張りきりすぎたみたいです」
「ちょっと、ですか?」
「ええ。ほんの少しです」
ここで誤魔化しきるには、強く言い張るしかないと、レナリアはポール先生と向き直った。優し気な茶色の瞳を、じっと見つめる。
先に折れたのはポール先生だった。
「……分かったよ。そういうことにしておこう。何やら事情があるようだしね。……みんなも、今の現象は偶然です。それでいいかな?」
レナリアに注目していた生徒たちは、納得がいかない様子のものもいたがポール先生に重ねて言われて、渋々と頷いた。
「マリーさんとレナリアさんは、もうナイフに魔力をこめられるようだから、こっちに来てください」
教卓の前に呼ばれた二人は、ポール先生から親指ほどの小さな青い魔石を渡される。
「これは水の魔石だよ。日常生活で一番多く使われるのが、水と火の魔石だけど特に水は重要だね」
ポール先生は、黒板に二つの魔法紋を描いた。
「さて、これが魔法紋だけど、見たことはあるかな?」
ポール先生が教室を見回す。
するとエルマがそろそろ手を上げた。
エルマの家では魔法紋が刻まれた魔石を多く取り扱っているから、よく知っている。
「エルマさん、どうぞ」
「右が水を出す魔法紋で、左が水を止める魔法紋です」
「うん。よくできました。じゃあみんな、こっちの右の魔法紋を良く見て覚えてね。後で全員これを刻んでもらうから。じゃあレナリアさんとマリーさんは、魔力を流したナイフでこの右の魔法紋を石に刻んで。はい、始め」
パンと手を叩くポール先生に、レナリアは気を引き締める。
魔法紋を刻む時は、もう少し手を抜かないといけないわ。
だって頭角を現して目立ちたくないもの。
もう既に風魔法の教室では目立ってしまっている自覚が、まったくないレナリアであった。
レナリアのナイフがライトセーバーに!?
マリー、エルマ、エリックのエアリアルの名前募集にご協力頂き、ありがとうございました!
マリーは「クルール」(聖石さま)
エルマは「ミア」(史和実さま)
エリックは「ゼファー」(純菜さま)
のお名前を使わせて頂きます。
ありがとうございました。
またお名前募集をする機会があると思いますので、よろしくお願いします。