「喜劇 人類館」~笑って哭いて、沖縄の深淵を覗き見る
2月16日、インターネットで無料公開
阿部 藹 沖縄国際人権法研究会事務局/琉球大学客員研究員
繰り返す歴史から抜け出すために

「陳列される女」を演じる棚原奏さん(筆者撮影)
「陳列される女」を演じるのは20代、30代の棚原奏さんと上門(うえじょう)みきさんだ。二人とも当初はこの戯曲を演じることに戸惑いがあったという。上門さんはウチナーグチの場面について、当初は言葉の意味が20%位しかわからず不安だったが、かつて同じ役を演じた劇団員が練習に来て指導してくれたことでなんとか演じられるようになった。一方で、棚原さんは脚本の中での女性の描かれ方にも違和感があったという。
「人類館事件についても、人類館というお芝居についても今回演じることになって初めて知りました。脚本を読むと、女性が物みたいにしか書かれていなくて、最初苦しくて。演じていても、違和感というか、モヤモヤする気持ちがあります。でもそれはその時代には現実にあったこと。演じながら私が感じる違和感やモヤモヤする気持ちを絶対に忘れないでおこうと思っています」
今回の公演を企画したあかねさんも、脚本での差別的な女性の描かれ方には違和感があったという。しかし、だからこそ再び上演する意味があると考えている。
「この芝居は『歴史は繰り返す』と言うメッセージを最後に出すんですが、小さい頃はこのメッセージが恐ろしかった。でも今は、歴史が繰り返すなら誰かがどこかで変えられるかもしれない、と希望を感じるようになりました。この狂った世界を若い人に見てほしい、そして一緒に考えるきっかけになってほしいと思っています」
コロナ禍は私たちの社会に様々な差別が存在すること、そして人々の恐怖心や苛立ちによって思ってもいなかったような差別が簡単に顕在化することを知らしめた。しかし、それは新しい出来事ではない。ハンセン病患者に対して苛烈な差別があったように、被爆者に対する差別があったように、差別は歴史の中で繰り返されている。
繰り返す歴史をどこかで、誰かが変える−それは簡単なことではないが、確かに希望である。45年前に書かれたこの戯曲では、「陳列された男」が「陳列された女」に対して「女はユンター(おしゃべり)だからね」と繰り返し軽蔑を示す。それと同じ女性蔑視発言が、つい先週、元総理大臣で東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の口から出た。しかし、歴史の中で女性たちが声を上げ、女性蔑視発言は許されないという意識が社会の中に浸透してきている。歴史を忘れずに見つめることが、繰り返す歴史から抜け出す一歩なのだ。