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【web版(裏)】奴隷転生 ~その奴隷、最強の元王子につき~ 作者:カラユミ

カーリッツ王国編

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第17話 奴隷、魔法を試す

 ベネトナシュたちと別れたその夜、宿を探して歩いていると、ネイヤがそわそわと落ち着かないでいるのがわかった。それはセレティアも気づいたようで、それをネイヤから訊きだそうとしていた。


 ベネトナシュたちと別れて寂しいんだろうし、わざわざ聞き出す必要なんてないだろう、と思ったが、俺はあえてそのままにして様子を見ることにした。


「ネイヤ、隠し事はなしよ。仮面を取って歩くのが落ち着かないの?」


「いえ、そんなことはありません……」


 今までいくら他人に顔を見せてなかったとはいえ、そんなことで挙動不審になるなんてことはないだろう、と俺はセレティアを小馬鹿にしたかったが、ぐっと耐えた。


「じゃあ何をそんなに心配しているの?」


「……宿泊は、その、それぞれ個室にしていただけるのかと」


「そんなわけないじゃない」


 セレティアの返答を聞いたネイヤが、顔を真赤にして俺を見つめてきた。

 そんなつまらないことで、さっきからそわそわしていたのか、と俺は反射的にネイヤを冷めた目で見つめ返してしまった。


「あの、私は同性としか寝たことがないのですが……」とネイヤは俺の目を見て告白してきた。俺は咄嗟に、「誰もそんなことは聞いていない」と返す。


 ネイヤは俺の返事を頭の中で反芻したのか、しばらくするとさらに顔を赤くして詰め寄ってきた。


「違いますよ、そういう意味で言ったわけではないのです」


 必死さが逆に怪しくなる時もあるが、この場合は本当なのだろう。

 だが、俺はそんなことに興味はない。


「そういう意味も何も、俺は何も言っていないぞ」と俺はこれ以上付き合ってられないと、セレティアへ顔を向けた。


「大丈夫よネイヤ、わたしもウォルスが初めてだったけど、怖くはないわよ」とセレティアは何も理解していないようで、笑顔でそれを言った。


「セレティア様の初めてを……」


 ネイヤもわかっていない……これを見過ごしては、俺の評価に関わる。

 どうして世間知らずな奴しか俺の周りにはいないんだ、とため息が漏れた。


「ネイヤ、セレティアが言ってるのはそういう意味じゃないからな。護衛と金を浮かせるために、同室に泊まっていたというだけだ。今日からは、その役目はネイヤに任せる。俺は外で仮眠しながら警護することにするから」


「そこまでする必要は……何とか我慢しますから」


 実は男嫌いなんじゃないかと疑いたくなったが、「我慢は体によくないからな。それに、もうセレティアが王女だと周りにも相当知られた分、今まで以上に警戒したほうがいいから」とそれらしい理由をつけて、逆に労ってやった。


 ネイヤはホッとした様子で頭を下げる。しかし、それを見ていたセレティアは、「わたしとは違って、ネイヤにはやけに優しいのね」と不満を漏らした。


「俺は女には優しいんだぞ」


「どういうことかしら? わたしは違うと言いたいの?」


 セレティアが少しムッとした表情で、俺を睨みつける。

 睨みつける顔も美しく、何人もの男を虜にするだけのものは持っているが、如何せん幼い。だが、それを口に出してしまえば、また俺があらぬ誤解を受けることになる。


「俺は主を性別で見るつもりはない。嫌ならこの血契呪(けっけいじゅ)を解呪してくれ」と俺は胸にある印を左手で押さえた。


 万一、これで解呪でもしてくれれば願ったり叶ったりだが、そんな甘くはないだろう。だが、何かしら譲歩を引き出せるかもしれない。


「残念だけど知らないわよ、解呪の仕方なんて。わたしが生まれる前に決まってたことだから」とセレティアは真相をあっけなく白状した。


「知らないだと……」


「ええ、お父さまも知る必要はない、とおっしゃっていたから」


 知っているのは、あの馬鹿な王だけということか……それだけでもわかったのは、大きな収穫だった、ということにしておこう。セレティアに何かを期待するだけ無駄ということだ。


「わかった。もうセレティアに期待はしない。さっさと宿に泊まるといい。俺は周りを警護する」と俺は言って、二人を近くの宿へと押し込んだ。


 宿の裏から二人が入った部屋をしばらく監視し、明かりが消えたところで、俺は本来の目的のためにその場を離れた。




       ◆  ◇  ◆


 ミッドリバーの周囲は豊かな森に囲まれ、その湖の水を求めて動物、魔物ともに集まってくる。冒険者による狩りも活発で、魔物の死骸には事欠かない。

 死者蘇生魔法の実験は、完全に肉体が消滅してしまったものには使えない。かと言って死後数時間のものでは、肉体から魂が完全に分離していなくて意味がない。

 ということで俺が求める死骸、死んでから数日経過した死骸を、数時間かけてかなりの数を集めることができた――――全部ゴブリンだが。


「醜いな……そして、損壊が凄まじい。まあ、ある意味望ましいが」


 ゴブリンは冒険者の間でも嫌われていて、殺される時は、親の仇かと思うほどに酷い傷を負わされる。

 死者蘇生魔法が成功すれば、間違いなく人間の俺に襲いかかってくるだろう。


 死骸を並べ、一度に改良を加えた死者蘇生魔法をかける。

 俺の肉体はもう魔力に負けることはない、が、アルスだった時の魔力には遠く及ばない。今は大気中の魔素を変換して使うため、大規模魔法は以前より発動に時間がかかった。


 ――――ビクビクビクッ。


 しばらくすると死骸に血が戻り、傷口はみるみる塞がってゆく。

 死骸にゴブリンの頭が戻ると指が動き始め、現世にしがみつこうと地面に爪を立て始めた。


「ア゛ッ……ヴヴ、エ゛、ヴエ……」


 腹の奥から、声とも言えぬ不快な音を出すゴブリンの瞳は焦点が合わず、口からは血を含んだ赤い泡を吐き続けている。それはどの個体も同じで、死後の時間による差異は見られない。


 ただ生き返らせるのなら可能だが、それは理性も自我もなければ、もはや生物と呼べるかも怪しい存在だ。アルス時代の魔法に改良を加えて使ってみたが、やはり過程を少し弄ったところで、根本的な部分は解決する糸口さえ見えてこない。


「以前より多少動きが大きくなった程度か……」


 この時代にはアルスという、過去の亡霊が生きていることになっている。俺並の魔法師が俺の体を蘇らせ、俺とは違う自我を植え付けていることも考えてみたが、やはりありえないことだ、と再認識することはできた。

 俺が生きているというのは、その名を利用するためでしかない。

 今のところ、これは疑いようがないだろう。


 そうこうしているうちに、地面を這うように動くゴブリンたちは、四方八方に散らばってゆく。自我がない動く死骸は湖に入っても止まることはなく、木にぶつかれば、そのまま登ろうとさえする始末だ。

 多少行動時間が長くなろうと、朝までには再び冷たくなる、と俺は哀れなゴブリンたちに束の間の現世を堪能させるため、そのまま放置して宿へと戻ることにした。

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