▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
【web版(裏)】奴隷転生 ~その奴隷、最強の元王子につき~ 作者:カラユミ

カーリッツ王国編

16/144

第16話 奴隷、配下が剣姫だと知る

 職員はこちらに気がつくと一礼し、俺よりもまず、ネイヤの下へ行く。


「これはネイヤ・フロマージュさん、アルギスの竜は見つかりましたか?」


 ギルドからすれば、今はアルギスの竜のほうが重要なのは理解できた。

 あれを放っておけば、被害が尋常ではなくなるため、狩ったのかどうか確認するのは最重要案件だといえる。


「はい、依頼のアルギスの竜の(つが)いは狩りました。もう被害は出ないでしょう」


「流石、剣姫といったところですか」と職員は胸を撫で下ろす。だが、ネイヤは話を終えていなかった。


「勘違いしてもらっては困ります。確かにオスは私たちが狩りましたが、メスはこのウォルス様が狩ったので」とネイヤは俺の背中を押した。


 それを見た職員は驚いた顔で、「剣姫がご冗談を言うとは、これは珍しい」と真剣に受け取らない。

 俺とネイヤが知り合いになったのはわかったようで、ただじゃれ合っていると見なしているようだ。


「冗談ではありません。それと、ユーレシア王国のセレティア殿下の臣下になるので、手続きをしてもらいたいのですが」


「…………またまた、ご冗談を……」


 刹那、テーブルを叩きつける音がギルド中に響き渡った。

 その音の出処を見ると、ベネトナシュがテーブルに拳をめりこませていた。


「ネイヤ様は暇ではないのだ。さっさと手続きを始めてもらおうか」


「わ、わかりましたっ!」


 職員は慌ててカウンターに戻ると、書類を漁りだした。そして、「別室でやるのが本来の流れなのですが、人数が多くて入らないので、ここでよろしいですか? その場合、仮面を取っていただき、確認する必要があるのですが……」とギルド内を見回した。


 ギルド内には何人もの冒険者がいて、そいつらはまだネイヤたちから視線を外さない。というか、職員の声を聞いて増えたのは間違いない。ネイヤが剣姫と呼ばれ、名の知れた冒険者というのはわかったが、いい加減しつこいのが気になってくる。


「ベネトナシュ、あいつらはどうしてネイヤをずっと見てくるんだ? 上位冒険者だとしても、異常だと思うんだが」と俺は小声で尋ねた。


「それは、我々が一度も素顔を見せたことがないからだと思います」とベネトナシュは言って、仮面と兜を脱ぎ去った。


 そこには褐色肌の、厳しい表情をこちらに向ける女がいた。

 後ろの者も次々に脱いでくと、クルンクルンの髪がお嬢様っぽい者や、ショートカットで男っぽい雰囲気の者など、さまざまな空気を纏う者が顔をこちらに向けてきた。

 全員タイプは違うが、それでも顔は整っており、周囲の冒険者からどよめきが聞こえてきた。


「意外だな」と俺は言葉をこぼした。


「何が意外なのですか? 失礼ですよ」


 わかっているのなら、質問で返すのはやめてもらいたい。

 俺はベネトナシュとは合わないかもしれない、と考えつつ、視線をネイヤへと向けた。


「手続きできるのなら、私はどこでも構いません」とネイヤも脱ぎ去った。


 ネイヤの顔は青髪で半分隠れてはいるが、セレティアを成人にさせたような美女なのは疑いようがない。それは職員も同様のようで、息を呑んだあと、手に持っていた書類を床にばら撒いていた。


「こんな美人だとは思っていなかったんだろ」と俺はネイヤに言った。


「美人だなんて、大袈裟すぎます」


 ネイヤは謙遜するように言うと、頬を赤らめた。


「ネイヤ様、ウォルス様も思ってなかったんですよ」とベネトナシュは告げ口するように言う。


「語弊があるな。俺は顔に興味がなかっただけだ」


「そうですよ、ベネトナシュ。ウォルス様ほどの力になれば、他人の容姿などというものより、その中にある本質に目がゆくのです。そうですよね、ウォルス様?」


 ネイヤは全く疑っていない目を俺に向けてくる。それとは逆に、ベネトナシュは猜疑心に染まった目を向けてくる。


「基本はそうだが、ネイヤほどの美人なら俺も驚くことはある」


「また美人だなんて……」とネイヤは消え入りそうな声で呟く。


「もういいかしら? さっさと手続きをしたいのだけれど」


 セレティアは俺に背を向け職員に声をかけるが、こちらに向けて言葉を発しているように感じられてならない。今までに感じたことがないトゲトゲしさだ。


「は、はい、大丈夫です。今すぐ手続きに入りますので」


 職員もそれを感じたのか、最初の頃の強気な態度は見る影もなく、ただ言われるがままセレティアの指示に従っている。

 何が癪に障ったのか不明だが、女を不機嫌にさせると恐ろしいのは、昔も今も変わらないようだ。


 手続きが始まると、職員はセレティアとネイヤたちに質問し、何の書類かわからないものに次々とサインを求め、全員が素直にそれに従ってゆく。それゆえ滞りなく進み、ギルド間での認証通達、国籍移動、その他諸々の問題が処理されてゆく。

 俺ができることといえば、昔はここまで手続きは細かくなかったはずだ、などと当時を懐かしむことくらいしかない。


「――――では、以上で終わりとなります。これ以後、ネイヤ・フロマージュさんと以下六人の方の籍は、ユーレシア王国軍の下に置かれますので、くれぐれもお気をつけください」と職員は言って書類を纏める。


 軍の下に置かれるということは、今まであった些細ないざこざでさえも、全てユーレシア王国の名が先にくるということだ。最悪の場合、国同士の問題にまで発展する。あとは、ギルドからの依頼に関して、直接声がかかるということはなくなる。

 ギルドが声をかけるのなら、国に依頼する、という正式な形でしか声をかけることはできなくなり、それを受けるかどうかも個人の判断は一切関与しない。


「そういうわけで、これからの行動についての判断は全て、このセレティアが行い、責任を持つことになる」と俺はセレティアの肩に手を置いた。


「何か嫌な言い方よね」


 セレティアは露骨に嫌な顔を見せ、俺の手を払いのける。

 だが、次の瞬間、何かを思いついたように「そうだわ」と声を弾ませ皆に笑顔を向けた。


「わたしは承認だけするから、判断はウォルスに任せるわ。これでウォルスと責任は半々になるし」


「…………断る」


「拒否は許さないから」とセレティアが俺に笑顔を向ける。


 笑顔が怖いと思ったのは初めてかもしれない。

 笑ってはいるが、言葉には奴隷に対する命令が力強く含まれていて、抵抗することができなかった。

 セレティアはそれだけ言うと、ベネトナシュに邪教の件を託し、別行動を取らせることになった。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。
書籍一巻発売中!
講談社マガポケにてコミカライズ連載中です!
i000000


cont_access.php?citi_cont_id=325416815&s

感想は受け付けておりません。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。