18話 マリーは見た
「見ましたか、皆さん。まだ風魔法を習っていない上に杖もないというのに、これほど狭い範囲に風を起こして火を消すなんて、そうそうできませんよ。魔力の多さもさることながら、繊細で的確な魔力操作が素晴らしい。ああ、大丈夫ですよ。君たちもできるようになりますから安心してください」
ポール先生は感心したように消えたロウソクを見ている。
他の皆もロウソクに注目していたが、マリー・ウィルキンソンだけはロウソクの向こうの壁を見ていた。
あんな魔法、あるの?!
マリーには、魔力の強さが色のように見える。
弱い魔力は青で、強い魔力は赤で、中くらいの魔力は黄色だ。
そしてレナリアの魔法は、今までに見た事がないほど赤かった。
よく見ると、壁には小さな穴が開いている。
誰も気がついてはいないが、レナリアの魔法で開いた穴だろう。
教室の壁には小さな傷を自然と修復する木材を使っているのか、マリーが見ているうちに壁の穴はどんどんふさがっていく。
誰かに、この事を言った方がいいのかしら。
でも……。
あまり人と話すのが得意ではないマリーに、それを説明できるほどの勇気はない。
マリーが言うタイミングを失っている内に、壁の穴はすっかり修復されてしまった。
今から言っても信じてもらえない、わよね……。
それにしても、こんなに凄い魔法を使う人がいるなんて、やっぱり高位貴族の方は違うのね。
感心しながらも、マリーはレナリアには絶対に逆らわないようにしようと心に誓った。
「ロウソクの火を消したくらいで大げさだな」
「ではランス君もやってみますか?」
「それくらい、誰でもできるだろ」
ランスが前に出ると、ポール先生は再びロウソクに火をつけると生徒たちを下がらせ、持ち手にシトリンをはめこんだ杖を構える。
「皆はこの壁にぴったりくっついててね。絶対に僕よりも前に出ないように。じゃあランス君、いいよ」
ランスは馬鹿にしたようにロウソクを見つめ、手をかざす。
ランスの家は名門の伯爵家で、魔力が多い事から騎士団の魔法部隊のエリートとして働いている者が多い。
だからランスはどんな守護精霊の加護を受けても対応できるように、小さな頃から魔法学を勉強していた。
守護精霊がエアリアルだという事で家族に失望されてしまったが、それでも学園に入るまで独学で練習してきた。
ロウソクの火を消すくらいなら、目をつぶってもできる。
「風よ吹け!」
レナリアの起こした風よりも少し大きな風が吹いてロウソクへ向かう。
だがロウソクの火は揺れるだけで消えない。
「消えませんねぇ」
のんびりと言うポール先生に、ランスはムッとして言い返す。
「ちょっと手加減しすぎただけだ。次は消す。……風よ吹け!」
かなり大きな風が吹いたが、ロウソクの火は消えない。
「くそっ。風よ吹け!」
悪態をつきながら魔法を放つ。
ランスにとって最大限の魔力を使って起こした風は、それでもロウソクの火を消せない。
「なんで消えないんだよっ」
ポール先生は悔しがるランスの肩を軽く叩くと、火のついたままのロウソクを指さした。
「実はこのロウソクは特別製でね。ちょうどこの炎の大きさに風を当てないと消えないようになってるんだ」
「そんなの聞いてないぞっ」
「うん。言ってないからね。ランス君は中々魔法のセンスがあるから、きちんと学べばすぐにできるようになるよ。皆も、まずはこのロウソクを消せるようになるのを目指そうか」
そう言ってポール先生は杖を一振りしてロウソクを消す。
「慣れてくれば、こんな風にすぐ消せるよ」
それを見た生徒たちから感嘆の声が上がる。
「このロウソクはね、実は教会で使われている魔道具なんだ。風魔法の使い手が魔法を使わないと消えないようになっているから、灯りを消す事のない教会にはもってこいなんだよ」
なるほど、これは一種のデモンストレーションなのだとレナリアは思った。
こうしておけば、独学で魔法を学ぶよりもきちんと先生から学んだ方が身につくという事が分かる。
「そして魔道具という事はこの中にそれを制御する魔石が入っているわけなんだけど」
そう言ってポール先生はロウソクを二つに折った。その中から、コロンと小さな赤い魔石が出てくる。
「ほら。よく見ると魔石に模様が描いてあるだろう? この魔法紋で、ロウソクの火を消さないようにしてるんだよ。そしてね、魔石に魔法紋を刻めるのは風魔法使いだけなんだ」
驚く生徒たちに、ポールは優しい目を向ける。
「だから君たちは、守護精霊がエアリアルである事を、心から誇っていいんだよ」