139話 ポール先生の解説
「チーム名を『ひよっこたち』にしていますが、なかなか将来有望な生徒たちのチームです。メンバーは魔法科で水属性のアレックス・ウルフくんと騎士科で火属性のヒューバート・マロニーくん、それから……」
ポール先生はいつものおっとりとした雰囲気からは考えられないほど、歯切れのよい解説をしていた。
ちょっと意外な特技に、レナリアは思わず聞き入ってしまう。
その様子を見たセシルが、レナリアに話しかけた。
「この解説はね、元々は教師たちの持ち回りでやっていたものらしいよ」
「そうなんですか?」
レナリアが振り返ると、セシルは頷いた。
ロイヤルブルーの髪が日の光に当たって、いつもより明るく夏空のように鮮やかな青色になっている。
その隣には王族としか契約しない、セシルの髪色と同じ色の、しずくの形をしたウンディーネが寄り添っている。
まだ少し幼さが残るものの、もう少し成長すれば誰もが見とれるほどの美貌になるだろうと思わせる端正な顔は、レナリアを見て優し気に微笑みを浮かべていた。
「うん。だけどポール先生が一番上手だから、いつのまにかポール先生が任されるようになったんだって」
「セシルさま、よくご存じでしたね」
「兄上に、今のうちからよく聞いておけば、四年生になった時に役に立つと教えてもらったんだ。一番、論理的な解説をしてくれるらしいよ」
あの優しい、どこかぽやぽやしている雰囲気のポール先生から論理的だという評価が出てくるとは思わなくて、レナリアは少し驚いた。
ちなみにレナリアも、他人からの評価ではおっとりしていてぽやぽやしていると思われている。
だが自分ではしっかりしていると思っているので、第三者から見ると二人とも同じ評価だとはまったく分かっていない。
「論理的というのでしたら、マーカス先生のほうが適任みたいですけど」
レナリアの印象からすれば、そちらのほうがイメージしやすい。
「ああ、うん。そうなんだけどね。マーカス先生だと論理的過ぎて、生徒たちがやる気をなくしてしまうみたいで……」
言葉をにごすセシルに、レナリアは、もしかしたらマーカス先生は色々と言いすぎて、生徒たちが委縮してしまうのかもしれないと思った。
ポール先生と違ってマーカス先生は、先生というよりは研究者に近いような気がする。
授業中に、たまに、無言で机を人差し指で叩きながら宙を睨んでいることがあった。
最初は何か怒っているのかとびくびくしていたが、どうやら何かを思いついて、頭の中で色々と考えている時の癖らしいと分かってホッとしたものだ。
そうね、確かに向いていないわ……。
レナリアは納得して、再び競技場に目を向ける。
ポール先生に紹介されたチーム『ひよっこたち』がスタートラインについていた。
「それにしても、どうして『ひよっこたち』なんだろうね。他の名前はなかったのかな」
苦笑するセシルに、レナリアも同意する。
チームの名前はリーダーが決めるのだが、もっと良い名前があったのではないかと思う。
実は後から聞いたところによると、彼らが一年生の時のエレメンティアードが、最初で最後のマーカスの解説の時で、さんざん「尻に卵の殻をつけたひよっこ」とか「頭に殻がついたひよっこ」とか、とにかくほぼ全員がひよっこ扱いされたので、その意趣返しにつけた名前だったらしい。
「さて、スタートです。最初に右手の通常の的を攻撃して得点を取りにきましたね。そこですぐに上昇して、火魔法特性の的にアレックスくんの水魔法を放つ。なかなか良い作戦です。もう、ひよっこなどとは言えませんね。若鳥くらいの成長でしょうか。あっと、ここでヒューバートくんが、杖で物理有効の的に攻撃を仕掛けました。さらに上昇して、魔法攻撃で的を落とす。無駄のない攻撃の順番は、文官専攻科のティモシー・ガレッジくんの立てた作戦でしょうか。さすがですね。しかし、地上の的への攻撃がはずれてしまった。惜しい。ですがリーダーのアレックスくんの指示で挽回しました。素晴らしいチームワークです」
目まぐるしく動く生徒たちの状況を、的確に説明していくポール先生の解説は、確かに分かりやすかった。
大きく翼を広げるオレンジ色のリッグルたちが空に舞って魔法が飛び交う。
めまぐるしく変わる状況を、ポール先生が丁寧に解説していく。
それを聞いていたレナリアも、いつの間にか夢中になって競技場を見ていた。
「すばらしい成績です。皆さま、健闘したチーム『ひよっこたち』に温かい拍手をお願いいたします。……さて次はチーム『大空の覇者』の登場です。チーム『ひよっこたち』の得点を上回ることができるのか、見守ってください。それではスタートです」
次のチームもなかなかがんばっていたが、チーム『ひよっこたち』ほどの点数は取れない。
それでもがんばった彼らに、会場からは大きな拍手が送られた。
それからもいくつもチームが登場して得点を競ったが、やはり最初の『ひよっこたち』のチームが、一番得点が多かった。
「それでは次の競技の前にしばらく休憩をはさみます。生徒たちはよく水分を補給しておいてください。休憩の後は、一年生の競技。そしてその後に五年生の個人競技が行われます。ご観覧の皆さまも、しばしご休憩ください」
手が痛くなるほど拍手していたレナリアも、ほっと息をつく。
その横ではフィルがあきれたようにレナリアの赤くなった手を見ていた。
「レナリア、手を叩きすぎ。真っ赤になってるじゃないか」
(でも、凄い迫力だったわ)
「あれくらいでー?」
(ええ。それに風魔法クラスの先輩もたくさん活躍していたと思わない?)
「ああ。名前をつけてもらったやつは、張り切ってたみたいだね」
(ポール先生がアドバイスしたのかしら)
「そうじゃないかな。でもこれでエアリアルと契約できる人間が一番優秀なんだって証明できるね」
(魔力が高くないと、エアリアルとは契約できないんだものね)
「うん。今までは契約者との絆が持てなかったから、エアリアルも実力を発揮できなかったみたいだけど、これからは違うよ。エアリアルの天下だ」
(ふふっ。そうなるといいわね)
「そうするのー!」
張り切っているフィルを微笑ましく見ていたレナリアは、不意に後ろの観覧席がざわめいたのに気がついた。
隣の席に座るセシルが、タンザナイトの目を大きく見開いている。
どうしたのだろうと見上げると、貴賓席に誰かが到着したようだ。
「お祖母さま……」
セシルの呟きに、その人が王太后であることを、レナリアは知った。
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