138話 風魔法クラスの躍進
そして得点が発表されると、会場内がざわめいた。
なんと今年は風魔法クラスが最下位を脱出したのだ。
それが二年生だけの話であれば、偶然だと片付けられただろう。だが続く三年生でも快進撃が続いた。
さすがに学年最高得点を出したわけではないが、それでも万年最下位の風魔法クラスにしては快挙である。
今まで魔法紋を刻むしか能がないと
レナリアの後ろの席でも興奮したようなエルマとエリックの声が聞こえる。
「ねえ見た、さっきの三年生。凄いよね、びゅーって行って、ドーンと魔法打ってた」
「ああ。空中だとやっぱ風魔法は強いよな」
「うん。なんでかは分かんないけど、ラッキーだね」
「俺も早く空中戦やりてぇなぁ」
「その前にまず直線コースで勝たないとだよ」
「だな」
エルマたちは平民ということもあってかなり後ろのほうの席にいるのだが、大きい声で喋っているのでレナリアにもよく聞こえる。
当然それよりも近くにいるローズたちにも聞こえていて、同じAクラスのマリーに嬉しそうに話しかけている。
「ねえマリーさん、私たちもがんばらなくちゃね。学年優勝は無理だとしても、優勝争いには加わりたいわ」
「え……えぇ、そうね……」
だがそれを快く思わないものたちもいた。
「まあ。たまたま良い成績が続いただけだというのにあんなにはしゃいで、みっともないこと」
特別クラスのキャサリン・カルダーウッドがため息まじりに肩越しに後ろを見る。
すると横にいたロウィーナ・メルヴィスが困ったような顔で首を振った。
「でもこんなに風魔法クラスの成績だけが上がるなんて、不思議だわ」
「ええ。……何か理由があるはずだけど……」
キャサリンはそう言って意味ありげにレナリアを見る。
だが見られたレナリアにも、エアリアルに名前をつけたことくらいしか思い当たる節はない。
今まで精霊の姿が見えずに意思の疎通ができなかったのが、名前をつけたことによって少しだけ仲良くなって魔法の精度が上がっただけで、本来の実力が発揮されたにすぎない。
だからこれは、当然の結果なのだとレナリアは胸を張る。
「もっとも、いくら風魔法が強くなったといっても、水魔法には敵わないでしょう」
キャサリンもロウィーナも水属性の魔法を使う。
だからキャサリンの言葉にロウィーナは大きく頷いた。
「ええ。当然だわ」
「そういえばセシルさまの組は、マグダレーナさんとレナリアさんだったかしら」
「それだと勝負は決まったようなものね」
「そうね」
くすくすと笑う声が後ろから聞こえてきて、レナリアはこの二人は相変わらずだわ、と思う。
前回のレナリアの怪我の件でさすがに釘を刺されたらしく、レナリアに直接危害を加えるようなことはしなくなったが、相変わらず遠回しに嫌味を言ってくる。
どうやら二人は王子であるセシルと仲のよいレナリアに嫉妬しているらしいのだが、セシルの耳にも入るこの状況で、よくこんなに堂々と嫌味を言えるものだと、逆に尊敬してしまう。
前世でのレナリアに対する嫌がらせはこんなに正々堂々とはしておらず、もっと陰湿なものが多かった。
だから横でセシルが眉をひそめているのは気づいていたけれど、レナリア自身はあまり気にしていなかった。
それよりも、これから行われる四年生の競技を集中して見たい。
(四年生はそれぞれの属性で協力して戦うのよ。どうやって戦うのかしら)
エレメンティアードの成績は、一年生から三年生までは属性ごとの獲得点数を合算して、どの属性が一番多く得点したかを競う。四年生はチームごとの成績、そして五年生が個人での成績を競う。
四年生のチームは、騎士専攻、魔法専攻、文官専攻を考慮しつつ、すべての属性のバランスを考えて作られる。
三年生までは的にただ属性の魔法を当てれば点が得られたが、四年生になると、特定の属性魔法を当てなければ得点にならなかったり、次の的が魔法でなければ当たらない距離であったり、魔杖を剣に見立てて直接当てたりと、工夫をしなければ得点を重ねられないようになっている。
そこで文官専攻の生徒が、一度だけ公開される模範練習を見て、作戦を立てるのだ。
ちなみに去年はレオナルドとアーサーが組んだチームの圧勝だったという。
さすがに今年はそこまでの得点は出せないだろうが、それでも見ごたえのある戦いになるのは間違いない。
そして四年生と五年生の対戦には解説がつく。
これがまたエレメンティアードの名物となっているのだ。
「さて、いよいよお待ちかね、四年生の競技が始まります。まずはチーム『ひよっこたち』の入場です。ご来場の皆さま、拍手をお願いします」
拡声器から聞こえた解説の声は、ポール先生の声だった。
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