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前世聖女は手を抜きたい よきよき【コミカライズ開始】 作者:彩戸ゆめ

エレメンティアード

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137話 二年生の競技

 エレメンティアードの競技は、まず二年生から始まる。そして三年生、四年生と続いてから、一年生の競技の後に五年生の個人戦が始まるのだ。


 もちろん一番の見どころは五年生の戦いなのだが、学園に入学したての一年生が一生懸命がんばる姿もまた、保護者たちの心をなごませていた。


 競技場は南側に観覧席を設け、その下を生徒たちの席にしている。


 全体に魔法を吸収する障壁が張られているが、王族も観覧するため、観客席側は特に強力なものになっている。


 だから魔法が観客のほうへ向かってきても障壁に吸収されて消えるので、安心して競技を見ることができる。


 生徒たちは、右から一年生、二年生、という順番で座っていた。手前に特別クラスの生徒、次にAクラスで一番後ろがBクラスと、ほぼ入学式の時と同じ席順になっている。


 レナリアたち一年生はちょうどスタート地点に近い場所だ。


 エレメンティアードは精霊たちの力を借りて戦う競技だ。


 生徒たちが守護精霊から与えられた魔法を使って競い合う様子は、洗礼前の小さな子供たちの心を捉える。


 だがそれによって特定の魔法に惹かれた子供は、自分の守護精霊が憧れていた属性ではないことを知ると、その精霊を疎む傾向がある。


 その結果、守護精霊との関係を築けず、自分の能力を最大限に発揮できないものが増えた。


 そこで現在では、洗礼前の子供はエレメンティアードの観戦を禁止されているのだ。


 だからレナリアは、初めて見るエレメンティアードにわくわくしていた。


 そんなレナリアの後ろで、水魔法クラスのパスカル・ドーリーが隣に座るステファン・ジョーンズに話しかけていた。


「やはり今年も三年生までは水魔法クラスが圧勝だろうな」

「いや、三年生の火魔法クラスはなかなかのものだと聞いている。昨年も接戦だっただろう」

「そうか。……じゃあ一、二年が水魔法クラスで、三年が火魔法クラスというところか」


 パスカルとステファンが話していると、火魔法クラスのバーナード・トマソンが口をはさんだ。


「いや、火属性だって負けてないよ。最近はかなり調子がいいんだ」

「そういえば、Aクラスは火属性が多いんだっけ」


 思い出したように言うステファンに、バーナードはAクラスのほうを見る。


「今年はうちのクラスの人数が多いからAクラスに行ったけど、本来なら特別クラスに入るべきだった生徒が何人かいるよ」


 そこでバーナードはちらりとレナリアを見た。


 きっと風属性で大した魔力も持っていないレナリアが特別クラスにいるのは分不相応だと思っているのだろう。


「まあ、どっちみち最下位は風魔法クラスだろうけど」

「違いない」


 バーナードの言葉にステファンも同意して笑う。横にいるパスカルだけでなく、他の属性の生徒たちも同意して笑った。


「ふふーん。今のうちに笑ってるといいさ」


 レナリアの肩に乗って後ろを向いているフィルの姿は、セシル以外には見えていない。


 というか、セシルにもフィルの姿はたんぽぽの綿毛のように見えているから、前を見ているのか後ろを見ているのかは分かっていないだろう。


「今年の風魔法クラスにはレナリアがいるんだからな。絶対負けるもんか」

「そーそー。レナリアつよーい」


 セシルにはフィルの言葉は聞こえないしチャムの姿も見えない。でもエアリアルが何やら闘志を秘めているのは伝わったらしい。


 ふ、と唇の端をほころばせて、レナリアを見た。


「私は今年のエレメンティアードは、なかなか見ごたえがあると思うんだけれど」


 そう言ってフィルを見る。


 フィルは、分かってるじゃないかと尊大な態度で腕を組んで羽をパタパタと動かした。

 ……セシルには綿毛がぴょこぴょこ跳ねているようにしか見えていないが。


「ええ。がんばりますわ」


 ぐっと小さく手を握るレナリアに、セシルは「そうだね」と優しく微笑んだ。


「私も負けないようにしなければ」


 そんな会話を交わしているうちに、いよいよ二年生の競技が始まった。


 三年生までの競技は、違う属性の三人一組で走り、的に当たった属性で誰が得点を得たか集計される。


 やはり水属性の生徒たちの得点が高い。


(すごい迫力だわ……)


 二年生ともなればさすがにリッグルには乗りなれてくるのか、目の前を走り抜けるスピードはかなりのものだ。


 レナリアは、こんなスピードで走れるだろうかとちょっと不安に思った。


「今からがんばれば大丈夫だよ」


(そうだといいけど……)


 生徒たちが順番に走っていくのを見ていたレナリアは、同じ風属性の生徒たちの中で、得点の高いものと低いものがいるのに気がついた。


 そして風属性の生徒が高得点を出すたびに、信じられないという声が上がる。


(フィル、何か知ってる?)


 レナリアも疑問に思ってフィルに尋ねた。


「ああ、それはね。ボクたちみたいに名前をちゃんとつけたかどうかの違いだよ」


(ポール先生が他の学年でも精霊に名前をつけるように勧めているらしいものね)


 レナリアはフィルの説明に納得した。


 ポール先生は一年生の風魔法クラスの生徒たちがかなりの成果を上げていることから、他の学年でも一年生と同じ授業をしているらしいのだ。


 もちろん食堂で、魔力操作の授業の一環としてパンもこねたらしい。


 その指導に心から従っているかどうかが、この得点の差になっているらしい。


 でもそれでこの得点が取れているならば、一年生の競技では、もしかしたら優勝も狙えるのではないだろうか。


 レナリアは高得点を取って喜ぶ風属性の生徒の姿を見て、もしかしたら二年生も最下位は免れるかもしれないと、そんな期待を持った。





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『前世聖女は手を抜きたい よきよき』
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