131話 手を抜かないでがんばります
「やっぱりレナリアの魔力に惹かれてきたね。それで、こいつどうするの? 捨ててきていい?」
「待って、捨てないで」
チャムから魔石を受け取ったフィルが、遠くに放り投げるような仕草をする。
それを見たレナリアは慌ててそれを止めた。
「でもさ、今は魔石の魔力を
「そういえば、捕まえた後のことは考えていなかったわ……」
レナリアは呆然としてフィルを見る。
フィルは呆れたように、大きなため息をついた。
「じゃあさ、首輪つけとく?」
「首輪?」
太古の精霊に、そんなものをつけて良いのだろうか。
レナリアはそう思ったが、フィルは「大丈夫だよ」とあっさりとしている。
「本物のウサギじゃないし、ストレスも感じないんじゃないかな」
「ウサギに首輪はいけないのね。知らなかったわ……。というか、精霊に首輪はいいの?」
「ボクだったら絶対に拒否するけど、こいつは原始の精霊だから、そこまで考えなくてもいいと思う」
「だったらいいのだけど……」
レナリアはフィルから土の魔石を受け取った。
その中には、小さな小さなウサギがいて、なにやら口をもごもごと動かしている。
……レナリアの魔力を食べているのだろうか。
とても可愛い。
「首輪に魔石がついてれば、それで居場所が分かるからね。あ、そうだ。その魔石に魔法紋を刻むといいんじゃないかな。なんだっけ、この間、授業でちょこっと話に出てた、迷子の子を探すやつ」
「迷子の魔法紋のことかしら」
「そう、それそれ」
貴族の家の子供が迷子になった時にすぐ見つけられるように、位置を教えてくれる魔法紋がある。
対になっている魔道具を使えばその子供がどこにいるか分かるので、迷子防止の魔法紋と呼ばれている。
だがそもそも、高位貴族の子女には必ず護衛がついているので、実際は迷子を捜すというよりも、誘拐された時に役立つ魔法紋になる。
大抵はブレスレットに迷子の魔法紋を刻んだ魔石をつけていることが多い。
「いい考えね。至急、用意するわ」
少し高価だが、アンナに頼めばすぐに用意してくれるだろう。
レナリアは少し肩の荷が軽くなるのを感じた。
「あ、ほら、またレナリアの順番がきたよ」
「ほんとね。教えてくれてありがとう」
レナリアは頭を下げるラシェに騎乗し、杖を構える。
最近ようやく、片手で手綱を持つのに慣れてきたのだが、やはりまだ体勢は安定していない。
魔法でお尻に風のクッションを敷いて衝撃を少なくしているせいだろうかとレナリアは考えていたが、他のクラスメイトたちも風のクッションを実践するようになったのを見て、ただ単にレナリアが下手なだけだというのが分かった。
「少し手前で魔法を放つ……」
これでもラシェはスピードを抑えてくれているようなのだが、レナリアにとっては十分早い。
レナリアはポール先生の指示通りに、少し手前で魔法を撃つことを意識した。
杖の先から、ふわふわ~っとしたそよ風が飛んでいく。
そして見事に的に当たった。
「やったわ、フィル、チャム!」
レナリアは寄り添ってくれている精霊たちに、興奮気味に声をかける。
「喜ぶのはまだ早いよ。ほら次!」
「レナリア、がんばれー!」
フィルのアドバイスとチャムの応援を受けて、レナリアはすぐ次の的を見る。
思ったよりも近い。
慌てて放った魔法は、あさっての方向に飛んでいった。
「あああ……」
残念そうな声を上げるレナリアに、フィルは前方を指す。
「落ちこんでる場合じゃないよ。もう次の的がそこまで……」
「あー。通りすぎちゃったー」
残念そうなチャムの声に、レナリアは肩を落とす。
まだまだ練習が必要になりそうだ。
「リッグル競技に関しては、私、手を抜かないでがんばるわ」
「ボクも応援するよ!」
「チャムもー。レナリアがんばれー」
精霊たちの応援を受けたレナリアは、魔法学園に入ってから初めて真剣に課題に取り組むことになった。
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