130話 練習再開
やっとリッグルの練習場の修復が終わり、レナリアたちも練習を始められることになった。
さすがに前回のように練習場を半壊にするわけにはいかない。
レナリアは、魔力を抑えて練習に励むのだが、なかなかこれが大変だった。
「やっぱり軌道がうまくいかないわね」
「威力を弱くしてるから、へろへろだもんね」
ラシェに乗って的を射る練習をしているのだが、的を壊さない程度の風の魔法というと、そよ風のような威力しか出せないのだ。
そうすると、ふわふわと風にあおられ、的まで届かないこともある。
かといって一直線に向かう威力にすると、確実に的を壊してしまう。
実はレナリアが練習場を半壊にしてしまったので、二度と不測の事態が起きないようにと、魔法部隊の練習でも使えるほどの防御の魔法陣を設置している。
さすがにそれを壊してしまったら、レナリアの甚大な魔力がすぐにバレてしまうだろう。
だから程ほどに手を抜かないといけないのだ。
「練習あるのみね」
コースから戻ったレナリアは、ラシェから下りて、むんと拳を握る。
「その意気だよ、レナリアさん」
茶色い瞳を優しく細めて、ポール先生ががんばっているレナリアに声をかけた。
今年の風魔法クラスの生徒たちは、今まで落ちこぼれだと笑われていたのが嘘のように、課題を次々とこなしていく。
ポール先生は他の学年の風魔法クラスも受け持っていて、そこで一年生の授業で得られた経験を生かして授業を行っているのだが、その生徒たちもみるみる成績を上げていっている。
エアリアルに名前をつける。
魔力を自在に扱うためにパンをこねる。
この二つを授業に取り入れただけで、見違えるように魔法の精度が上がった。
一番分かるのは、魔法紋を刻む授業だ。
今までは魔力が足りなくて失敗してしまった魔法紋も、難なく刻めるようになってきている。
そして目に見える成果というのは、生徒たちにやる気をおこさせる。
来るエレメンティアードにおいて、万年最下位という汚名を
きっと今年のエレメンティアードでは、なかなかの成績を残せるのではないだろうか。
その躍進のきっかけになっているのが、一年生のレナリア・シェリダンだ。
画期的なアドバイスをすることが多いのだが、本人はとてもマイペースでおっとりとしている。
リッグル競争においてもその才能を発揮すると思われていたが、少し……というか、かなり運動神経がないらしく、リッグルを乗りこなすのですら大変そうだった。
そして騎乗に意識を向けてしまうせいか、魔法の精度も悪かった。
「ラシェは足が早いからね。魔法を放つ時は、もう少し手前から的を意識するといいよ」
「手前ですか?」
ポール先生のアドバイスに、レナリアは真剣に耳を傾ける。
「うん。普通はあの辺りから魔法を放つんだけど、レナリアさんはもう少し手前から放ってみるといいよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「うん。がんばってね」
レナリアがお礼を言うと、ポール先生は穏やかな笑みを浮かべて他の生徒にもアドバイスをする。
平民で魔法に慣れていないエルマやエリックは、リッグルに騎乗したままでは、なかなか思ったように魔法を発動できないようだった。
それでも風魔法クラス全員ががんばっている。
レナリアもがんばらなければと張りきった。
「あーっ、見つけたー!」
そこへチャムの大きい声が響く。
フィルはレナリアの魔法の補助で一緒にいるため、ノームの捜索はチャムに任せていたのだ。
フィルの予想通り、修復された練習場が解放されてからは、ノームはここを
フィルが「ここ、ここ」と指さすほうを見ると、確かにそこには灰色の小さなウサギがいて、鼻をひくひくさせていた。
後ろ足で立ち上がり、耳をピンと立てて、じっと的のほうを見ている。
レナリアたち以外には見えていないから、誰も注目していない。
捕まえるなら今だ。
「フィル、この魔石を!」
レナリアは制服のポケットに入れたままにしていた魔石をフィルに渡す。
その魔石は、ポール先生に無理を言って譲ってもらった、原始の精霊がずっと眠っていた土の魔石だ。
レナリアが魔力を放った場所には魔素だまりのようなものができて魔石が生まれると聞いたレナリアが、もしかして、とずっと身に着けていたら、魔素の抜けた魔石にレナリアの魔力が蓄えられるようになったのだ。
フィルが土の魔石を原始の精霊の目の前に投げる。
チャムがそれをキャッチして、ウサギの目の前に掲げる。
すると……。
「せいこーう!」
嬉しそうにはしゃぐチャムの持つ魔石には、原始の精霊が入りこんでいた。
もしも「続きが気になる」「面白かった」などと思って頂けましたら、
広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!