127話 侍女と護衛と精霊たちの怒り
クラウスに抱きかかえられて寮に戻るレナリアと合流したフィルとチャムは、当然のことながら激怒した。
報復だ、とすぐにでも飛び出しそうなフィルを、レナリアは一生懸命なだめる。
「でもこのままじゃずっとレナリアが意地悪されるよ!」
「そんなのダメー」
ぷんすか怒るフィルの横で、チャムも頬をふくらませている。
「だけど、大したことはされていないし……」
「お嬢さま、よろしいですか」
こんな傷はすぐに治せるし、子供同士のことだからそれほど問題にしなくてもいいのではないかとフィルたちをなだめていたレナリアだったが、低く感情を抑えたようなアンナの声に、ビクッと体を震わせる。
「え、ええ……」
「こういったことは、最初が肝心です。もう二度とお嬢さまに意地悪などできぬよう、完膚なきまでに叩き潰すのが得策です」
「アンナ……?」
いつも温厚なアンナの豹変に、レナリアはおろおろとする。
だがアンナを止めるはずのクラウスも、止めるどころか煽っていた。
「戦いにおいて、初動は大切です。実力差がある場合は、もう二度と歯向かいたくないと思うほど心を折るのをお勧めしますね。そこまでいってしまえば、恐怖が先に立って復讐されません」
「ちょっと待って二人とも。相手はただの同級生よ。一体なにと戦っているの?」
まるで国でも相手に戦うかのような意気込みだ。
しかも本気なのが分かる。
「優しいレナリアお嬢さまは穏便に済ませたいと思っていらっしゃるのでしょうが、このように怪我までさせられたということは、もうその段階を越えています。たかだか伯爵家の娘が、シェリダン侯爵家を侮るとは、無礼にもほどがございます」
「我々はレナリアお嬢さまがつつがなく学園生活を送ることができるよう、お側についているんです。身に降りかかる火の粉は振り払うようにと、侯爵さまからも命じられていますのでご安心ください」
「全然安心できないわよ……。お父さまもなにを言ってらっしゃるの……」
脱力しているうちに寮の部屋に着いたレナリアは、すぐに膝を治療した。
きらきらと光る金色の粒子が、傷ついた膝を優しく癒す。
「もう降ろしてちょうだい、クラウス」
「ではソファのところまでお運びしますね」
「ここでいいのに」
「そういうわけにはまいりません」
そっとソファに下ろされたレナリアは、すぐに立ち上がって、その場でぴょんと跳ねてみる。
特にどこにも痛みはない。
「ほら、もう治ったわ」
「レナリアー、もう痛くないー?」
「ええ。大丈夫」
「良かったー」
心配そうに近寄ってくるチャムを安心させるように、レナリアはもう一度軽くジャンプする。
するとチャムはホッとしたように胸を押さえた。
「なんかねー、レナリアが痛いと、チャムのここも痛くなったのー」
「心配してくれたのね。ありがとう、チャム」
チャムの頭を撫でたレナリアは、口を結んで膨れたままのフィルの頭も撫でる。
「フィルも私のために怒ってくれてありがとう」
「ボクは絶対あいつらを懲らしめてやるからな」
あくまで報復を諦めようとしないフィルに、レナリアは困ってしまった。
アンジェやロイドの時のように、また彼女たちの髪の毛を燃やしてしまうような事態になってしまっては大変だ。
「しばらくはノームの捜索をやめて、私とずっと一緒にいてくれる? そうすれば次に何かされそうになっても、すぐフィルとチャムに助けてもらえるわ」
「それは……別にいいけど……」
「それでね、もし仕返しをするなら、風で髪の毛をもつれさせて、綺麗にまとまらないようにするのはどうかしら」
「……髪の毛って女の人の命だっけ」
「ええ」
レナリアが何気なく言った一言で、アンジェとロイドの髪の毛は悲惨なことになってしまった。
まとまらないくらいであれば、それほど大したダメージはないだろう。
「じゃあ仕返しはそれで我慢する」
にこっと邪気のない笑顔を浮かべるフィルは、それからの一週間、ロウィーナとキャサリンの髪の毛を鳥の巣のようにぐちゃぐちゃにするのだが、その時のレナリアには、知る
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