125話 ノーム捕獲作戦
「原始の精霊というのは、他にも存在しているのかな?」
ふと思いついたようなセシルの疑問に、フィルが答える。
「大気の魔力が昔ほど濃くはないから、いないと思う。大気に
レナリアがフィルの言葉をそのまま伝えると、セシルはテーブルの上で手を組んだ。
「ということは、今、学園のどこかにいるノームが、唯一存在する原始の精霊ということになるね」
レナリアがフィルに確認を取ると、フィルは「そうなるね」とあっさり頷いた。
「でもそんなに力が強くないし、そのうち消えちゃうと思うよ」
「消えちゃうって、どうして?」
「あのノームにとっては大気の中の魔素が少なすぎるから、すぐ弱っちゃうんじゃないかな」
「でもそれじゃ、可哀想よ」
「元々、孵るはずじゃなかったわけだし……」
どうやらフィルは、レナリアの魔力を吸収して孵ったノームが気に入らないようだった。
精霊というのは、自分の契約者を独占しようとする傾向がある。
それほど気に入ったからこそ、わざわざ契約をしたのだから当然だ。
フィルがチャムを子分といえども認めたのは、本当に例外中の例外なのだ。
「しかしこのままノームが消えてしまうのは惜しいね」
レナリアとフィルの会話を聞いていたアーサーが口をはさむ。
アーサーはレナリアとの血のつながりが濃いので、フィルの姿を見て、声を聞くことができる。
アーサーは、レオナルドたちにレナリアたちの話を説明しながら、会話に入った。
「そういえば今朝、校舎の中庭に穴がいくつも開いているからと立ち入り禁止になったけれど……逃げだしたノームの仕業だろうか」
「そうじゃない?」
アーサーの問いに、フィルはあっさり頷いた。
「捕まえることは可能かな?」
「捕まえてどうするのさ。アーサーたちには見えないと思うよ」
「さすがに中庭が穴だらけになるのを見過ごすわけにはいかないからね」
「そうなの?」
「レナリアも中庭を通るのが好きだろう?」
突然アーサーに話を振られたレナリアは、一度目を瞬いてから、にっこりと笑った。
「ええ、もちろんですわ、お兄さま。特にあのウサギの刈りこみが好きです」
中庭に植えられている木の多くは、見通しが良いようにレナリアの腰くらいまでの高さに刈りこんであるが、何本かは背の高さくらいの大きさで色々な形に刈りこまれ、生徒たちの目を楽しませている。
この食堂にくる時に中庭を通り抜けるのが楽しみだったのだが、今日は立ち入り禁止になってしまっていて残念だった。
「立ち入り禁止になってしまって、中庭を歩けなくなるのは寂しいだろう?」
「そうね、寂しいわ」
レナリアはウサギの刈りこみも子熊の刈りこみも大好きだった。
たまに植え替えられて違う動物になっているのを見るのも楽しい。
「それに中庭を歩いていてレナリアが穴につまづいて怪我をしたら大変じゃないか。フィルもそう思わないかい?」
「……ボクが気をつけてるから平気だもん」
つーんとそっぽを向くフィルだが、心配そうにレナリアの顔をちらちらと見ている。
「レナリアは少しのんびりなところがあるからね。フィルとのお喋りに夢中になってしまうかもしれないよ」
アーサーは、子供に諭すように柔らかい声音でフィルに語りかける。
お喋りに夢中になって注意散漫になっているのはフィルのことなのだが、決してそうは聞こえない。
アーサーの見事な会話術に、純粋な性格のフィルが敵うはずもなかった。
「だったら危険はなくしておいたほうがいいと思わないかい?」
「それは……そうかも……」
「早くノームを捕まえて、安心してレナリアが中庭を散策できるようにしてあげてほしい。これはフィルにしか頼めないことなんだ」
「ボクだけ……? そっか……なら仕方ないかな」
少しだけ機嫌を直したフィルは、まんざらでもなさそうに羽をパタパタとしている。
レナリアは見事なアーサーの誘導に、心の中で拍手喝采をした。
「そういえば……ノームの姿はウサギだったわ」
「ウサギ? 小石のような姿ではなく?」
「魔石がホーンラビットのものだったから、その影響じゃないかってフィルが言っていたの。凄く可愛かった!」
子ウサギの姿を思い出して、思わず力説してしまったレナリアの頭を、アーサーが軽くなでる。
「可愛いのはレナリアのほうだけれどね」
「やっぱりこれ以上精霊をレナリアのそばに近づけさせるのは反対かも……。だって精霊ならみんなレナリアを好きになるに決まってるもん」
ぶつぶつと文句を言っているフィルの頬を、レナリアは人差し指でツンとつつく。
「ノームはそんなに私のことを好きにならないと思うわよ」
「なんでそう言い切れるのさ」
「だって、あの子すぐに逃げちゃったじゃない」
確かにそう言われてみればそうだ。
あのノームはレナリアには目もくれず、窓の外に飛び出してしまった。
「だったらいいかな」
「ええ。一緒に探してね、フィル。私も頼りにしているわ」
アーサーとレナリアに頼られてまんざらでもないフィルは、機嫌を直して羽を揺らした。
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