124話 魔石から孵る原始の精霊
「守護精霊は人と意思の疎通ができる存在ですけれど、原始の精霊はたとえるならば動物のような存在のようです」
「……魔力のある、言葉の通じない動物。それではまるで、精霊というよりも魔物のようだ」
そう言って何やら考えこむレオナルドに、フィルが腰に手を当てて
このままではまたフィルが怒って大変なことになる、とレナリアは焦ったが、続くレオナルドの言葉で
「だが精霊であれば人は襲わぬか。学園の結界の中でも無事だということは、生徒への被害を気にする必要はないだろう」
「そんなの当然だよ。魔物と違って、精霊は理由がなければわざわざ攻撃なんてしないからね」
フィルは腰に手を当てたまま、うんうんと頷いている。
「ねえフィル、どうして魔物は人を襲うの?」
ふと沸いた疑問を、レナリアはフィルに聞いてみた。
「そりゃ、魔物は大気から魔素を吸収できないからね。他の魔物や人間から吸収するしかないんだよ」
「つまり精霊は草食で、魔物は肉食ってことかしら」
「別にボクたちは草を食べているわけじゃないけど、まあ、そんな感じかもね」
「あ、でもリッグルは? 魔物の一種だけれど、草食よ」
「あのノームみたいに、どこかで原始のエアリアルが交じってるんだと思う。多分、リッグルの元になった魔物の魔石で眠ってたエアリアルが孵って、今のリッグルの姿になったんじゃないかな。レナリアの前世の時にリッグルはいた?」
「そういえば……いないわね」
フィルに言われて記憶を探るが、リッグルに似た生き物はいなかったような気がする。
「でもきっと、似たような魔物がいたと思うよ。大きさとか色は違うかもしれないけど」
レナリアはもう一度考えてみる。
飛ぶだけではなく、陸上も走る鳥の魔物。
「あ……。そういえば、エピオニルスが似ているかもしれないわ」
エピオニルスというのは巨大な鳥の魔物だ。
リッグルよりもはるかに大きく、体高は五メートルにもなる。討伐するには騎士団の要請を必要とするほど強い魔物だった。
「じゃあそれだよ。大きくてたくさんの魔素を必要とする魔物は、今は絶滅しちゃってるからボクも見たことがないけど。きっとそのエピオニルスっていう魔物がリッグルの祖先になるんだね。それほど強い魔物なら魔石に含まれた魔力も多かっただろうから、その魔石の力だけで孵化できたんじゃないかな。……それで精霊の素質がほとんど残ってないんだと思う」
レナリアも、マリウス王子とともにエピオニルスを討伐したことがある。
前世であれほど人々を苦しめた魔物が、原始の精霊が交じったにせよ、千年後には人の役に立っているということに、レナリアは不思議な感慨を覚えた。
「エピオニルスというのはなんだ? 聞いたことがないぞ」
レオナルドに問いかけられて、レナリアはハッと気がついた。
この顔ぶれだとつい気が緩んでそのままフィルに話しかけているが、前世の話は家族しか知らないのだ。
なぜ既に絶滅した魔物を知っているのか、きちんと説明をしなくてはならない。
するとすぐにアーサーが助け舟を出してくれた。
「レナリアはよく我が家の図書室で本を読んでいましたから、僕でも知らないことを知っていますよ」
「ほう」
「エピオニルスというのは……確か魔物だったかな」
フィルとの会話を聞いていたアーサーが、確認を取るようにレナリアに問いかける。
レナリアは「さすがお兄さま。助かります!」と心の中で感謝して答えた。
「はい。千年ほど前に絶滅した魔物です」
「それがどうしたんだ?」
「土属性の魔石から孵ったノームのように、風属性であるエピオニルスの魔石から孵った原始のエアリアルがリッグルの祖先なんじゃないかって、私のエアリアルが言っています」
「つまり、リッグルは原始の精霊だということか?」
驚くレオナルドに、レナリアは慌てて否定した。
「いえ、エピオニルスの魔石の影響を受けているので、精霊ではなくなっているみたいです。ただ大気から魔素を吸収できる精霊の特徴を持っているのだとか」
「大気から魔素を吸収だと? リッグルは草食ではないのか」
「草食というか、人参とかはおやつみたいなものらしいですよ?」
「主食ではないのか」
これほど身近な存在であるリッグルについて初めて知る事実に、レオナルドやセシルだけではなく、アーサーも表情を変えないようにしながら、密かに驚いていた。
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