123話 報告・連絡・相談を大切に
結局レナリアは十個ほどの魔石を割って、それ以上、魔法紋を刻むのを諦めた。
次からは自分で魔石を用意しようと決心する。
小さな魔石に魔法紋を刻むのは、クラスメートの中ではあまり魔力の多くないエルマたちのほうが成功していて、レナリア以外にも、魔力の多いマリーやランスが失敗していた。
ノームが眠っていた魔石は、フィルがこっそりレナリアの制服のポケットに隠した。
学校の備品を持ち出すのはいけないことだが、さすがにこの魔石をそのままにしておくことはできない。
フィルはもう普通の魔石と同じになっているから大丈夫だと言っているが、もしも、ということがある。
特に問題がなければ、その時にはこっそり戻せばいい。
それよりも問題なのは、逃げ出したノームだ。
授業が終わってからもフィルとチャムに探してもらったけれど、どこにいるのか分からず、見つからなかった。
だが翌朝、校舎に面した中庭に小さな穴がいくつか開いていたらしく、足を引っかけて転んだら危ないということで中庭の通行が禁止された。
原因は不明ということだったが、レナリアたちには分かる。
土の精霊ノームの仕業だ。
レナリアはすぐに兄のアーサーに相談しようと連絡を取った。
すぐに返事がきて、食堂の二階へ案内される。
王族専用のその部屋には、当然のようにレオナルドとセシルも同席していた。
レナリアはそこに案内されると分かった時点でレオナルドがいるのはなんとなく予想していたが、セシルまでいるのは意外だった。
なぜかは分からないが、アーサーが同席を許可したのだろう。
「レナリア!」
部屋に入るとすぐに駆け寄ってきたアーサーに抱きしめられる。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、レナリアはアワアワとうろたえた。
「お兄さま、あの、ちょっとこれは……」
「顔をよく見せてごらん。……うん。変わらずに可愛らしいね。まったく……、同じ学園にいるのに中々会えないのがこんなに辛いとは思わなかったよ。今までも学園と家とで離れていて平気だったから、大丈夫だと思っていたんだけれどね」
「お兄さま、大げさです」
確かにアーサーはレナリアを大事にしてくれているが、少し会わなかっただけでこれとは、かなり言いすぎなのではないだろうか。
レナリアは苦笑するが、アーサーは真剣な顔で首を振る。
「いや。お前と縁を繋ぎたいと思っているものはこの学園には大勢いるのだから、気をつけなくてはいけないよ」
そう言われても、レナリアにはピンとこない。
風魔法クラスではともかく、特別クラスでは落ちこぼれ扱いをされていて、特に何もない。
最近ようやく木属性のアジュールたちとは仲良くなってきたが、何かを頼まれるということは一度もなく、普通の友達として接している。
それは同じ特別クラスに在籍しているセシルもよく知っていることだと思い、レナリアは同意を求めるようにセシルに顔を向けた。
レナリアと目があったセシルはにこりと笑い、アーサーに説明をする。
「クラスメートたちにはアーサーがどれほどレナリアさんを溺愛しているかちゃんと説明しているから、大丈夫だよ」
どこが大丈夫なのかレナリアにはさっぱり分からなかったが、アーサーは納得したらしくそのまま自分の隣の席にレナリアを案内した。
「それで、今日はどうしたのかな?」
席に着いたレナリアは、土属性の魔石から偶然原始の精霊が生まれたことを説明した。
「そんなものが存在するのか」
話を聞いたアーサーは、難しそうな顔をして眉間を指で揉んでいる。
その正面のレオナルドは、むしろ面白がっているようだった。
「ぜひ見たい。私も見られるのか?」
「私のエアリアル……フィルによると、見ることができる人は限られているみたいです」
片眉を上げたレオナルドは、自分のウンディーネを呼び出すと同じ質問をした。
そして答えを聞くと、つまらなそうに鼻を鳴らす。
「つまらん。私の魔力では見られないらしい」
これでも魔力は多い方なのだがな、と小さく呟きながら、レオナルドはじっとレナリアを見た。
「つまりレナリアは私よりも魔力が多いということか」
「それは多分、守護精霊が特別だということでしょう。なにやら規格外のエアリアルのようですから」
アーサーの説明に、自分のことを言われたのかと、フィルがレナリアの頭の上からひょっこりと顔を出す。
その横にはチャムもいるが、残念ながら誰にも見えていない。
唯一チャムを見ることができるレナリアも、頭の上にいるのではチャムの姿は見えない。
「そういえば、シャインも従えているのだったか」
アーサーは微笑んだまま答えない。
だがレオナルドはそれを肯定と取った。
「だからー、チャムはシャインじゃなくてサラマンダーなのにー」
レナリアの頭の上でチャムが文句を言っているが、その声はレオナルドには聞こえなかった。
「なるほど。だからレナリアだけが原始の精霊を見られるということか。守護精霊の違いでは、いかんともしがたいから諦めるしかあるまい」
納得したレオナルドは用意された紅茶を口に含む。
「それで、原始の精霊というのはどんなものだ?」
レオナルドの問いに、レナリアは口を開いた。
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