122話 天然の魔石
怒っているフィルとチャムをなだめたレナリアは、とりあえず逃げてしまったノームはまた探すことにして、目の前の課題に取り掛かることにした。
基本的にノームは大人しい精霊なので、それほど問題も起こさないだろうというフィルの説明に安心したのもある。
「それにレナリアの魔力を吸収して孵化したから、そのうちお腹が減ればレナリアのところへ来ると思うよ」
(私……食料扱いなのかしら)
なんだか少し複雑な気分でフィルに言うと、フィルは「そんなことないよ」と即座に否定する。
「極上のデザートだよ!」
主食よりはマシかもしれないが、デザート扱いもどうなのかとレナリアは思った。
だが精霊は大気中の魔素を吸収すれば生きていけるという話を、以前フィルから聞いていたので、納得する。
それよりもそろそろ課題の魔法紋を刻まなければと、指にじゃれついているチャムを机の隅にどかして、魔石を手に取る。
「さて。気合を入れてがんばりましょう!」
レナリアがナイフを片手に宣言すると、フィルがのんびりと「気合を入れ過ぎないようにね~」と声をかけた。
(確かにそうね。なるべく手を抜くのをがんばらなくちゃ)
レナリアはそっとナイフに魔力を流した。
するとそれだけでパリンと魔石が割れてしまった。
レナリアが思わずフィルを見ると、やっぱりね、という顔をしている。
(フィル……。もしかして私にこの魔石を刻むのは……無理?)
悲壮な表情で聞くレナリアに、フィルはあっさり頷いた。
「うん。レナリアの魔力が強すぎる」
(前にお願いした時みたいに、フィルかチャムに助けてもらうことはできないかしら?)
「土属性の魔石だからなぁ。サラマンダーのほうがまだ相性がいいけど、チャムにそんな細かい調整ができるかな」
「チャムできるもーん!」
自分の出番だとばかりに張りきるチャムは、勢いよく胸を張る。
「この間の魔石でも手伝ったもーん。チャムがんばったー」
確かに授業で水の魔石から水を出す魔法紋を刻む時に、わざと失敗しようと思ってチャムに火の魔力をこめてもらったら、なんと成功してお湯が出たし、霧の聖女の魔道具を作る時も、チャムに火魔法の調整をしてもらった。
(そうね。チャムにお願いするわ。もう一つ魔石をもらってくるから、ちょっと待っててね)
レナリアが席を立ち上がろうとすると、フィルが「ここにあるじゃん」と、ノームが眠っていた魔石を指す。
(さすがにそれは使えないわ……)
レナリアが眉尻を下げると、フィルは可愛らしく首を傾げる。
「どうして? もうここには何もいないし、ノームだって戻ってこないよ」
(そうね。でも一応、お兄様には報告をしておこうと思って)
野生のノームが学園のどこかに逃走しているのだ。
もしも万が一何か事件が起こってから「実は……」と報告すると、きっと大目玉をくらうに違いない。
きっと何も起こらないとは思うが、報告・連絡・相談は大切だ。
「ふうん。だったらボクも選んであげる」
周りを見回すと、魔法紋を刻むのが小さな魔石ということで、他の生徒たちも失敗が続いているようだ。
だからレナリアは安心して新しい魔石を選びにいくことにした。
「そうだなぁ。この中ではこれが一番いいかも」
フィルの選んだ魔石は、色はそれほど濃くはないが、自然にできた魔石ということだった。
(ありがとう、フィル。これでがんばってみるわ)
「うん。他にも天然の魔石はあるから、失敗しても大丈夫だよ」
(……そんなに何度も失敗したくないわ。魔石だってもったいないし……)
「でもこれくらいの大きさなら、すぐ取れるでしょ?」
(自然にできる魔石はなかなか見つからないわ)
シェリダン領は天然の魔石が採れやすいと言われているが、それでも数は少なく貴重だ。
「そうかなー。初めて会った時にレナリアが森を吹っ飛ばしたでしょ。あそこ魔素だまりができてたよ」
(……えっ?)
確かにどれくらい魔法が使えるのかと試してみた時に、森をなぎ倒した記憶がある。
「それにこの間、同じくらいの魔法を練習場で使ったでしょ。あそこもそのうち魔素だまりができるよ。土属性と木属性の魔石ができるの、楽しみだね!」
「チャムもー、楽しみー」
(えええーっ!)
ニコニコと笑うフィルと楽しそうに踊るチャムとは反対に、レナリアの顔はあまりの衝撃に真っ青になった。
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