チャムはフィルほど疲れてはいないらしく、レナリアの指にまとわりついて遊んでいる。
そしてぎゅーっと指にしがみついて、頭をすりすりとこすりつける。
フィルもチャムも、レナリアにしばらくはくっついていたいようだった。
窓から逃げたノームはどうなったのか、色々尋ねたいことはあったけれど、レナリアはじっとフィルたちが回復するのを待っていた。
やがてむくりとフィルが体を起こす。
そしてパタパタと飛んで、レナリアの顔の前に行った。
「ちょっと復活したから説明するね」
(ええ。お願い)
「何から説明したらいいかな。……まずね、そこにある魔石には精霊が眠ってた」
(そんなことがあるのね)
レナリアは茶色い魔石を見る。
他の魔石との違いはないようだが、何か特別な魔石なのだろうか。
「ボクたち精霊はさ、契約者を持っていない時はこことは違う……なんていうか、狭間のようなところにいるんだけど、元々はこっちの世界で生まれるんだ。レナリアも見たでしょ?」
フィルの言葉にレナリアは頷く。
オリエンテーリングで行った森の中の泉にある女神像から、色とりどりの小さな光に見える精霊たちが生まれた光景は、まるで夢のように幻想的で美しかった。
「普段はこっちよりも魔素が多いから狭間にいるんだけど、人間と契約するとこっちの魔素を集めやすくなるし、契約者の魔力ももらえるから、精霊たちは守護精霊として人間と契約するんだ」
(たくさん魔素を集めるのは、精霊にとってもいいことなの?)
「そうだね。力が強くなるよ」
(力を強くするとどうなるの?)
何か目的でもあるのだろうかと考えて、レナリアは質問してみた。
「力を強くするのに理由が必要?」
(たとえば……精霊の王様になるとか……)
「精霊にそんなのないよ。ただボクがレナリアと契約した時みたいに、他の精霊に競り勝つには力が必要だからね。もっともっと強くならなくちゃ、って思ってるよ」
フィルの言うことは、レナリアにはよく分からない。
だが精霊は人とは違うのだ。人間の常識に当てはめてはいけない。
「それでね、原始の精霊っていうのは、まだこの世界に魔素がたくさんあった時に自然に生まれた精霊で、それほど力を持ってないし、あんまり意思の疎通もできない。だから、人間と契約することもできないし、狭間にくることもできなくて、ゆっくり消えていっちゃったんだよ」
(フィルたちとは、少し違う精霊ってこと?)
「うーん。同じといえば同じなんだけど、人間と動物くらいの違いはあるかなぁ」
それはかなり違う。
話を聞いていてもレナリアには原始の精霊がどんなものか、やはり分からなかった。
要するに、精霊としての力はそれほど強くなく、意思の疎通もあまりできないということだ。
「それでさっき逃げたノームは、消える前に魔素を補給しようと思って、魔石の中に入ったんだと思う」
(そんなことができるのね)
感心するレナリアに、フィルは「同じ属性の魔石だったからじゃないかな」と答えた。
(フィルも魔石の中に入れるの?)
「あれは原始の精霊じゃないと無理だよ。それに魔素を補給できるけど、魔石の影響も受けちゃうからね」
フィルの説明によると、原始の精霊というのは力は弱くても純粋な魔力の塊のようなものらしい。
自然にできた魔石の中に入るならともかく、あのノームが入ったのはホーンラビットの魔石で、それでその影響を受けてウサギの姿になってしまったのだろうということだ。
(じゃあもしゴーレムの魔石の中に入っていたら……)
「小さいゴーレムになってたかも」
レナリアは小さいゴーレムが必死に走って逃げる姿を想像する。
……それはそれで可愛いかもしれない。
ただし、フィルとチャムにすぐに捕まっていた可能性が高い。ウサギの姿だから逃げられてしまったのだ。
(あの子の姿は他の人にも見えるのかしら?)
「レナリアくらい魔力があれば見えるだろうけど、他の人はどうかなぁ」
つまりチャムのように、レナリアだけにしか見えないということだろう。
チャムもウサギもとても可愛らしいから、他の人にも見えればいいのにと、レナリアはちょっと残念に思う。
特にレナリアの侍女のアンナはもふもふした生き物が大好きだから、見たら大喜びするに違いない。
「ただこの魔石はそんなに大きくないから、それほど魔素がなくて、それでずっと眠ったままだったんだけど、レナリアの魔力を吸収して孵っちゃったんだと思う」
フィルは卵の魔石のところまで行くと、それをじっくりと見た。
「さすがにレナリアの魔力は残ってないね。くっそー。もっと早く気づいてれば、孵化を阻止できたのに!」
悔しがるフィルに、レナリアは孵化とはどういう意味かと尋ねた。
「原始の精霊が、ちょっと格上の精霊になったってことだよ。ボクたちよりは下だけど。それでも、ボクに無断でレナリアの魔力を吸収したのが許せない!」
「許せなーい!」
羽をジジジと鳴らして怒るフィルに同調するチャムも、小さな手を振り上げて怒っていた。
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