120話 卵型の魔石
「レナリアさんはその魔石にするのかな?」
ポール先生にひょい、と手元を覗きこまれたレナリアは、慌てて魔石を握りこんで隠した。
なにがどうなっているのか分からないが、この魔石から土の精霊ノームが生まれたのだ。後でどの魔石か分からなくなっては困るし、なぜ精霊が生まれたのかも魔石を調べると分かるかもしれない。
「はい。これにします」
レナリアが魔石を選んだのを確認したポール先生は、じっとレナリアを見つめているマリーに気がついた。
きっと魔石選びに興味があるのだろう。
いつもは引っ込み思案なマリーのやる気を微笑ましく思ったポール先生は、迷わずにマリーを指名した。
「じゃあ次はマリーさん」
「わ、私ですか……」
「うん。遠慮しなくていいからね」
「はぃ……」
困惑したようなマリーとすれ違って、レナリアは席へ戻る。
そしてじっくり魔石を観察した。
茶色い魔石はさっきよりも色が薄くなっているが、特に他の魔石との違いは見られない。
卵のような形をしているが、他にも同じような魔石はあった。
これだけが特別だったのだ。
フィルはあのウサギを原始の土の精霊だと言っていた。
原始の精霊とは一体なんだろう。フィルやチャムとは違う存在なのだろうか。
それに土の精霊ノームは石のような形をしていたはずなのに、なぜウサギなのだろう。
そこまで考えたレナリアは、さっき見たノームの可愛らしさを思い出して頬をゆるませる。
ぽわぽわの子ウサギの柔らかそうな毛に、つぶらな黒い瞳。ひくひくと動く濡れた黒い鼻もとても可愛らしかった。
グレーの毛並みが石に似ているといえば似ているが、とても土の精霊とは思えない。
むしろちょっとだけでいいから、その毛皮をもふらせて頂きたい。
そんなことを考えていたレナリアは、今はそれよりも魔石を調べなければ、と我に返った。
レナリアの魔力を吸収した魔石は、今はもうそれほどの魔力があるようには見えない。
むしろ少ないほうだろう。
レナリアが色々考えているうちに、全員が魔石を選んだようだ。
教壇に立つポール先生が、生徒たちの顔を見回した。
「まずは今選んだ魔石に魔法紋を刻んでみようか。小さいから大変かもしれないけど、がんばって。失敗しても、魔石はたくさんあるから気にしなくても大丈夫だよ。ちゃんと刻めたとしても、多分それ一つでは発動しないだろうから、一個ずつ魔石を足していくようにしよう。ペンに使う魔法紋は、このような形で……」
ポール先生の授業を聞いていたレナリアは、手にした魔石を改めて見る。
かなり小さい魔石で、魔法紋を刻むのは大変そうだ。
しかも卵型だから、さらに難易度が上がっている。
でも、これはノームが出てきた魔石だ。
もしこの魔石がノームの家だったりしたら、そこに魔法紋を刻んで、さらにペンにつけてしまってはいけないのではないだろうか。
帰る家のなくなった子ウサギが、きゅうきゅうと鳴いている姿を連想したレナリアは、慌てて首を振ってその妄想を散らす。
違うわ、あれはウサギじゃなくて土の精霊よ。ノームよ。
「レナリアさん、どうしました? 難しそうですか?」
声をかけられたレナリアがハッと顔を上げると、ウサギのことを考えていて上の空のレナリアの様子を心配したポール先生が、いつの間にか机のすぐ横に立っている。
「いえ……。ただその、魔法紋を刻むのは難しそうな形だなと思ったのです」
「ペンに使う魔法紋はそれほど複雑な形ではないけれど……確かにもっと表面が平たくなった魔石のほうが刻みやすいかもしれないね。他の魔石と交換しますか?」
「その必要はありません!」
思わず大きな声で言ってしまって、クラスメートたちが何事かと注目する。
レナリアは恥ずかしくなって顔を赤く染めた。
「あ、いえ……。大きな声を出して申し訳ありません。私はこの魔石が気に入ったので、いずれはこの魔石に魔法紋を刻みたいのですけれど……。その前に他の魔石で練習させて頂いてもよろしいでしょうか」
「そんなに気に入った? 魔石はたくさんあるから、大丈夫だよ」
そう言ってポール先生は教卓の上の魔石から、少し平たくなっている魔石を持ってきてくれる。
「まずはこれで練習してみようか」
「ありがとうございます」
「じゃあがんばって」
ポール先生から新しい魔石を受け取ったレナリアは、卵型の魔石を横にどけて、平たい魔石を手に取る。
確かにこれならば魔法紋を刻みやすそうだ。
そこへ、開いた窓からフィルとチャムが疲れた様子で戻ってきた。だが子ウサギの姿はない。
「もーっ。土の中に逃げられちゃったよ。生まれたばっかりなのに、なんであんなに足が早いんだよ」
ぷんすか怒っているフィルが、卵の魔石をけ飛ばすフリをする。
その横ではチャムも短い足で、えいえいと蹴る真似をした。
「ノーム早かったのー。追いつけなかったー」
(フィルとチャム、お疲れさま。それで……あれは、土の精霊ノームなの? どうしてこの魔石の中にいたの?)
レナリアの疑問に、フィルは「レナリアを補給してから説明するね」と言って、レナリアの肩にぺったりとくっついた。
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