「黙食」決断と覚悟の発信 福岡から全国へ拡散

 「黙食(もくしょく)」。新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が福岡など10都府県で延長される中、食事中の会話自粛を呼び掛ける2文字が全国に広がっている。福岡市南区のカレー店主三辻忍さん(46)が、自作のポスターを会員制交流サイト(SNS)で紹介したところ、多くの共感を呼んだ。飲食店経営者として苦渋の決断と覚悟の上での発信だった。

 「黙食にご協力ください」「お食事中の会話が飛沫(ひまつ)感染リスクになります」。三辻さんが経営する「マサラキッチン」のテーブルには、客の目線に青いポスターが張られている。福岡県に2度目の緊急事態宣言が出た1月13日、製作を思い立った。

 それまでも、感染防止対策で客席に仕切りを設け、客には飲食時以外のマスク着用を求めた。ただ、食事中に大声で会話する人がいれば、対策が無意味になるのではないかという不安もあった。

 悩んだ末、ひらめいたのが「黙って食べる」を略した黙食。小学生の時の給食時間に教諭が使っていた言葉だった。食事と会話を楽しみたい客が離れていくという迷いもあったが、「来てくれる客や従業員、店を守るため」と、掲示を決断した。

 前職はグラフィックデザイナーで、ポスター製作はお手の物だった。完成後すぐにツイッターで発信。「同じ不安を抱える店に使ってもらえたら」と、ポスターのデータを無料で公開すると、リツイート(転載)が5万件を超えた。三辻さんの元には「会話しながらの食事を悪者にして許せない」などの反発も届いたが、大半は「黙食を推進したい」「みんなで広げよう」といった好意的な反響だった。

 「目立つし、伝わりやすい」などと支持され、張り出す飲食店も相次いだ。京都市はホームページにデータを載せ、市内の店に掲示を促す。市によると、既に約700軒が活用している。

 三辻さんの店は「安心だから」と新規客が増えており、コロナ収束までポスターを掲げるつもりだ。「最後まで徹底しないと、お客さまへの裏切りになる」と覚悟を語りつつ、切に願う。「飲食店にとっておいしい食事と楽しい会話は基本的なサービス。黙食をしなくていい日が早く来てほしい」 (井崎圭)

福岡県の天気予報

【西日本新聞me】を公開しました。 詳しくはこちら