117話 2021元旦SS チャムの初夢
明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします!
【追記】
すがはら竜先生が、このSSのイラストを描いてくださいましたー!
ぜひぜひご覧くださいませ~(*´꒳`*)
https://twitter.com/ryu_sugahara/status/1344943620307107841
サラマンダーのチャムは食いしん坊だ。
精霊は魔素を吸収して生きているので、本来は人間界の食べ物を食べる習慣がない。
だがチャムは生まれてすぐ後にレナリアの守護精霊――ではなく、守護精霊見習いになったので、その行動のお手本はちゃんと契約を交わしてレナリアの守護精霊になっている、エアリアルのフィルだ。
他の精霊のことはよく知らないチャムだが、フィルのことは尊敬している。
なんといっても、守護精霊がフィルでなければ、チャムがレナリアのそばにいることはできなかったからだ。
精霊は守護を与える人間が他の精霊と仲良くするのを許さない。
チャムが生まれた時、レナリアのキラキラしている魔力に惹かれたのは、実はチャムだけではない。
一緒に生まれた他のサラマンダーもウンディーネも、シャインすらレナリアのそばに行こうとしていた。
レナリアのそばにはフィルがいて、みんなはその力の大きさに怯えて行けなかったけれど、チャムはがんばった。
がんばってがんばって、レナリアの後を追いかけた。
そして、なんとか守護精霊見習いになることに成功したのだ。
フィルも最初は嫌そうだったが、レナリアの懇願に負けて、チャムを子分として受け入れてくれた。
きっと他の精霊だったら、最後まで嫌がってレナリアのそばにはいられなかったに違いない。
もしかしたら、消滅させられていたかもしれない。
でもフィルは色々と文句を言いつつもチャムの面倒を見てくれている。
だからチャムは、レナリアの次にフィルが好きだ。
レナリアがよく「フィルはチャムのお兄さんね」と言っているので、きっとフィルはチャムのお兄ちゃんなのだ。
レナリアも兄のアーサーが大好きなので、チャムがフィルを大好きなのも、フィルがチャムのお兄ちゃんなのだから当然なのだと思っている。
しかもチャムは、レナリアから名前をもらって進化することができた。
レナリアの魔力は、大気にある魔素よりも、もっともっと純粋な魔力の塊で、チャムはどんどんそれを吸収している。
もしかしたらそのうち、フィルのような大精霊になれるかもしれない。
そして新しい年を迎えたその夜。
チャムは夢を見ていた。
大精霊に進化したチャムは、とても綺麗なサラマンダーになって、レナリアの作ったお菓子を食べている。
レナリアが心をこめて作ったお菓子は、甘いだけではなく、魔力もたっぷり含まれていて、チャムはいくらでも食べれる。
お腹がふくれると眠くなってしまうことがあるが、大精霊になったチャムはどんなに食べても眠くならない。
つまり食べ放題だ。
「おいしーい。チャムしあわせー」
大きな口をあーんと開けて、チャムの体よりも大きいクッキーをほおばる。
噛むとサクッと音がして、口の中にバターの香りが広がる。
舌先からレナリアの優しい魔力を感じて、チャムはしっぽをパタパタと揺らした。
幸せにひたるチャムの目の前には、山盛りのクッキーと、クリームをたっぷり塗った白いケーキ。そして大好きなマカロンがある。
「全部チャムのー!」
わーい、と歓喜の声を上げながら、お菓子に突撃する。
手も顔も、クリームでベタベタだ。
だがチャムの顔は満開の笑顔になっている。
他にも綺麗な色のキャンディーやゼリー、お花のババロアにクリームブリュレ、フィナンシェやマドレーヌなど、たくさんのお菓子が次々とチャムの目の前に現れる。
しかもいくら食べても満腹にならないのだ。
チャムは、今日はなんていい日なんだろうと、幸せにひたりながらお菓子を食べ続けた。
「むにゃ……おいしーい……むにゃ……もぐもぐ……」
朝になっても起きないチャムの様子を見たレナリアは、チャムがベッドにしている籠の中をのぞいてクスリと笑った。
チャムは口をもぐもぐさせながら、しっぽを揺らしている。
きっととても楽しい夢を見ているのだろう。
「素敵な夢を見ているようだから、もう少し寝かせてあげましょうか」
「きっと、食べ物の夢だよ」
呆れたように言うフィルも、顔は笑っている。
「さあ、アンナが食事を用意してくれているわ。先に頂きましょう」
「昨日もご馳走だったけど、今日は何かなぁ」
「何かしらね。楽しみだわ」
連れだって寝室を出ていくレナリアとフィルの背中で「むにゃむにゃ……はぁ、しあわせー……むにゃ」という、チャムの寝言が聞こえた。
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