113話 精霊たちの特徴
特別クラスのクラスメートたちの話を聞いていたレナリアは、内心で冷や汗をかいていた。
遠くの会話はフィルが拾って伝えてくれているのだが、とりあえずリッグルの練習場を壊したのが自分だとバレていなくてホッとする。
もちろんマーカスは知っているが、説明をする時に意味ありげにレナリアを見る素振りもないので、そこで注目されることもなかった。
ただ隣に座るセシルだけは、一瞬視線をレナリアに向けたが、何事もなかったかのように再び教壇へ向き直っていた。
(あまり詮索されなくて良かったわ……)
レナリアが左肩に乗るフィルに話しかけると、フィルは頭の後ろで手を組んで「そうだね」と頷いた。
(アジュールさんたちにも、突然のことで分からなくて、って説明をしたら分かってくれたみたいだし……)
基礎学問を学ぶ特別クラスの中ではそれぞれの属性で固まって話すことが多いが、風魔法クラスに所属するのはレナリアだけなので、最近は木属性のグループの人たちが気にかけて話してくれることが多い。
特にアジュール・ライトニアとフレーゲル・ガンシュは、レナリアと同じ風魔法クラスに所属するランス・エイリンクの幼なじみということで、何かとレナリアを気にかけてくれている。
代々優秀な魔法騎士を輩出する家に生まれながら、魔力の劣るエアリアルの守護しか得られなかったランスは、入学当初はかなり荒れていた。
父のようにサラマンダーの加護を得て華々しく活躍するのを夢見ていたのに、エアリアルの加護では魔法紋を刻む職人になるしか道がなく、絶望しかなかった。
それなのに同じ立場のはずのレナリアはエアリアルの守護を喜んでいて、それが許せなかったランスは、レナリアにきつく当たった。
その話を聞いたアジュールたちが幼馴染を心配してレナリアに代わりに謝ったのが、親しくなるきっかけだった。
今では自分のエアリアルとも仲良くなってきたランスの態度は軟化して、レナリアが風魔法クラスでランスに突っかかられることはなくなったが、アジュールたちは変わらずにレナリアに声をかけてくれる。
「ちぇーっ。レナリアにはボクたちだけがいればいいのになー」
最近、アジュールたちと仲良くするレナリアがおもしろくないのか、フィルが口をとがらせる。
(学園は同年代の子たちが学びながら交流する場所なのよ。そんなわけにはいかないわ)
今のところグループで課題をこなそうなどという授業はないが、これから先もないとは限らない。
「チャムもいるよー」
ペンを持つレナリアの右手を、チャムがつん、とつつく。
レナリアはふふっと微笑んで左手でチャムの頭をなでる。
(そうね。フィルとチャムがいてくれるから、一人でも寂しくはないけれど……。フィルたちは精霊同士で仲良くすることはあるの?)
「精霊によるかなぁ。ボクたちエアリアルは風の精霊だから一人で自由気ままに暮らしてることが多いけど、ウンディーネとかサラマンダーは群れることが多いかも」
(だからチャムはこんなに人懐っこいのかしら)
「どうだろう。普通のサラマンダーはいくらレナリアの魔力が魅力的だからっていっても、生まれてすぐに契約しろって追いかけてこないだろうから、サラマンダーとしては変わってるんじゃないかと思うけど」
「チャム、ふつーだもーん。レナリアが好きなだけだもーん」
チャムはそう言って、レナリアの指にすりすりと頭をこすりつける。
(ドリュアスとノームは?)
「ドリュアスはお気に入りの木を見つけて、そこで暮らすことが多いよ。ノームは大体、土の中に潜ってる」
(精霊によって、全然性格が違うのね)
レナリアはフィルの説明に感心する。
ちょうど授業では、マーカスが魔法の属性とその特徴について説明していた。
特別クラスに所属するのは上位貴族だから、学園に入る前に既に学んでいるような基礎的な内容だが、この魔物にはこの属性の魔法攻撃が効く、というように、生徒たちに興味を持たせる授業になっている。
レナリアは興味深く授業を受けながら、そういえばシャインの説明をフィルから聞いていないのを思い出した。
「シャインのことなんて、どうでもいいじゃないか」
だがレナリアの質問に、フィルはちょっとふくれてそっぽを向いてしまう。
フィルにとっては、未だにシャインはライバルのような存在らしい。
(それはそうなんだけど、せっかくだから知りたいわ)
フィルは肩から飛び立ってレナリアの顔の真正面にくると、じっとレナリアの目を見つめる。
そしてそこに純粋な興味しかないのを見てとって「まあ、いいけど」と呟く。
「シャインはちょっと変わっててさ、力のある精霊を頂点にして、そいつの言うことに皆が従うって感じ」
(それって王様と臣下のような関係?)
「うん。そうかも」
レナリアは、アンジェの守護精霊のシャインを思い出す。
かなり高位だと言っていたから、もしかしたらシャインの中の王様だったのだろうか。
だがフィルはそれを否定した。
「もっと力の強いシャインがいるよ。そういえば最近見ないけど、どうしてるんだろう」
首を傾げたフィルは、そう言って教室の窓の向こうを見る。
教室の窓ガラスは、外からの光を反射してキラキラと輝いていた。
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