109話 リッグル競争の練習を始めます
翌日から、レナリアは風魔法クラスのクラスメートたちとリッグルの騎乗訓練に励むことになった。
まだ騎乗する時にはフィルの助けが必要だが、牧場をぐるっと一周するくらいはできるようになってきた。
「じゃあそろそろ、魔法を的に当てる練習を始めようか」
風魔法クラスの生徒たちが全員リッグルに慣れてきたのを見て、ポール先生は次の段階へと進めることにした。
エレメンティアードでの一年生のリッグル競争は、直線を走って、両脇にある的に魔法を当てるのだが、距離や、的の中心部分に当たっているかどうかで、その得点が変わる。
一番高得点になるのは、遠く、的の小さいものだ。
さすがに一年生の的は動かないようになっているが、高学年のものになると動く。
その上、水属性や木属性の魔石に魔法紋を刻んで動かしているので、その動きは複雑だ。
しかも水の中に隠されていたり木の枝に隠されていたりと、見つけにくくなっているので、ある種、生徒と教師の知恵比べのようにもなっている。
ここ数年で一番得点を取るのが難しいと言われているのは、実はポール先生が監修した的だ。
風魔法を使って空中を自在に動く的にはポール先生が魔法紋を刻んだ魔石がついているのだが、その動きは複雑で、なかなか魔法を撃ちこむことができない。
今年のエレメンティアードの個人戦で優勝を争うだろうと言われているレオナルド王子とレナリアの兄アーサーも、去年は空中の的に当てることができなかったので、今年こそはと息巻いている。
だがレナリアたち一年生が挑むのは、大きくて動かない的だ。
中心部に当てるのは難しいかもしれないが、当てるだけならばそれほど難しくはない。
このクラスで一番成績が良いのはレナリアだ。
だからまずはレナリアが最初に的に当てる練習を始めることになった。
「じゃあまずはレナリアさんからやってみようか」
「ええっ。私ですか」
「うん。最初だからね、失敗しても気にしないで、全力でやってごらん」
ポール先生に指名されたレナリアは焦った。
全力で魔法を放ったら、すべて高得点になってしまう。
それはまずい。
もちろん手加減をするつもりだが、どのくらい手を抜けばいいのか分からない。
リッグルに騎乗するのに慣れてきたし、魔法を的に当てるだけならば、きっと簡単に的の中央に当ててしまえるだろう。
だがそれでは絶対に目立ってしまう。
レナリアは、ほどほどに手を抜くようにして目立たちたくなかった。
(フィル……どうすればいいかしら……)
風魔法クラスの最初の授業で魔道具のロウソクの火を消した時も、これくらいなら良いだろうと思って手を抜いたはずが、ポール先生に絶賛されてしまった。
今回はそんな失敗をしたくない。
「うーん。自信がないから他の人を先にしてくださいって言うとか。ほら、あのランスなんて凄くやりたがってるよ」
レナリアが視線を向けると、確かにランスはリッグルの手綱を持ってそわそわしている。
ここはやはり、やりたい人に先にお手本を見せていただこう。
「ポール先生、私はまだリッグルの騎乗に慣れていないので……。一番上手に乗れている、ランスくんに最初にやってもらっても良いですか?」
レナリアの言葉にポール先生はランスを見た。
ランスは最初にやりたいというのをアピールするためか、急いで姿勢を正す。
「ランスくん、やってみるかい?」
「はい」
ランスは自信満々でコースのスタート位置に向かう。
途中、レナリアの横を通る時は、なんだか誇らしげにしていた。
「じゃあランスくん、用意はいいかな」
「はい!」
「では、いくよ。位置について。……3、2、1、スタート!」
ポール先生の合図で、ランスを乗せたリッグルが走り出す。
元々、王子であるセシルが乗るのを想定していたリッグルなので、さすがに足が早い。
ランスはすぐに最初の的の前まで走ると、
「風よ!」
赤樫の木は固いことから、戦いに向いていると言われている。
学生の間は木剣として鍛錬に使えるように、剣の形に加工したものを使う生徒もいるほどだ。
だがランスが手にしているのは普通の大きさの杖だ。
その杖の先から、風がびゅうと吹いた。
だが的には当たらない。
「ちっ」
ランスは舌打ちをすると、すぐに次の的を見る。
「風よ」
的に近づいたところで、杖を構えて魔法を打つ。
今度は、的が少し揺れた。
「当たった! よし、次は真ん中に当ててやる」
次の的は反対側だ。
だが態勢を変えたことで魔法のタイミングがずれてしまって、次の的にはかすることもなかった。
ランスは悔しそうな顔をしたが、すぐに気を取り直す。
「次こそ真ん中だ! フォルス、お前の力を見せてやれ!」
ランスが自分のエアリアルに頼む。
すると、的の真ん中にランスの風魔法が当たった。
「やった!」
的の真ん中に命中すると、的全体が赤く輝く。
すると練習場が一斉にどよめいた。
「ランスすげぇ!」
エリックが興奮して叫ぶ。
「わあっ、やるじゃない!」
エルマも赤く輝く的を指してはしゃいだ。
その様子を見て、ポール先生も嬉しそうに微笑む。
赤い輝きが、ランスの心の中を照らすように、強く光っていた。
しばらく感想欄を閉じさせて頂きます。
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