105話 セシルへの頼み事
後書きにお知らせがありますのでご覧ください。
活動報告にもSSをUPしました(*´꒳`*)
霧の聖女の魔道具を完成させるために、レナリアは思い切ってセシルに実験の付き合いを頼んでみることにした。
断られるかもしれないと思っていたが、セシルは二つ返事で引き受けてくれて、午後の授業が始まる前に食堂の二階にある王族専用の食堂で実験をすることになった。
大きな窓からは柔らかい日差しが差しこんでいて、部屋の中はとても明るい。
いつもは白いテーブルクロスがかかり、料理やお菓子が載っているテーブルには、レナリアが持ちこんだ魔石がいくつも置いてあり、キラキラと光を反射して輝いていた。
「えー。お菓子がなーい」
レナリアと一緒に部屋に入ってきたチャムは、部屋の隅から隅までを飛び回り、お菓子がないか探していた。
テーブルの上に魔石しかないのを見て、がっくりとうなだれる。
「チャムの……お菓子ぃ……」
(先に魔法紋を刻むから、お菓子は後よ。テーブルが汚れてしまうもの)
「そうだよ、チャム。後ですっごくおいしいお菓子が出てくるんだから、少しだけ我慢しなよ」
レナリアの肩から飛んできたフィルはそう言って、テーブルにべったりとうつ伏せたチャムのしっぽを持った。
ぶらーんぶらーんと揺れるチャムの目は涙目だ。
「チャム、お菓子を食べないと元気が出なくて力を貸せないー」
(……もう、仕方がないわね……)
そう言ってレナリアは制服のポケットから紙包みを取り出した。
中からは綺麗な色の金平糖が出てくる。
とたんにチャムのしっぽがピーンと伸びた。
フィルにしっぽを捕まれたまま体を揺らし、その反動でフィルから離れる。
そのままジャンプして金平糖の前に降り立った。
「なにこれー。初めて見るー、おいしそー」
チャムはさっそくピンク色の金平糖を口に入れる。
「あまーいー」
幸せそうなチャムに呆れながら、フィルも金平糖を取って、ぽーんと空に投げてから口でキャッチする。
「ん。結構いけるね」
(もう、フィルったらお行儀が悪いわよ)
レナリアが呆れていると、階下から人がくる気配がした。
約束通り、セシルが来てくれたのだ。
「すまない、少し遅れた」
「いいえ。お忙しいところ、ありがとうございます」
レナリアが丁寧にお辞儀をすると、セシルは「普通にしてくれないか」と困ったように言った。
「でも……」
「前にも言ったけれど、私はレナリアとは、その、普通の学生同士として仲良くしたいと思っているのだ」
少し照れたように言うセシルに、レナリアもつられて照れてしまう。
そんな二人を、それぞれの護衛たちが微笑ましく見守っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「では私は、この魔法紋が正常に発動するかを確認すればいいのかな?」
「はい。セシルさまに使って頂くので、使うかたに合わせた仕様にしたいと私のエアリアルが言っています」
「いいよ、分かった」
セシルはレナリアの手元にいるフィルに目を向けてから、にっこりと微笑んだ。
実際はレナリアが実験をすると魔法の威力が大きくなりすぎてしまうからなのだが、さすがに本当のことは言えない。
なぜこの実験に忙しいセシルが付き合ってくれるのかは分からないが、リッグル牧場でレナリアを助けてくれたことといい、これからは特別クラスのクラスメートとして仲良くしたいと思ってくれているのかもしれない。
レオナルド王子と兄のアーサーも仲が良いし、よきよき、と心の中で呟いた。
「なるほど、そうやって魔法紋を刻むんだね」
興味深そうにセシルが見つめる中、レナリアは風の魔石に威力を落とした水の出る魔法紋を削っていく。
風の魔石からの抵抗がほんの少しだけあったが、スムーズに魔法紋を刻むことがきでた。
問題はここからだ。
魔石は風の属性で、そこには既に水の魔法紋を刻んである。そこにさらに火の魔法紋を刻むのだ。
「セシルさま、この魔石から水を出してもらえますか?」
水と火の魔法紋は、ぴったり同じ威力にしなければ、反発してしまってうまく霧が発生しない。
この魔石を使って霧を出すのはセシルだ。
セシルはウンディーネの加護を持っているから、魔法紋の強さを同じにしてしまうと、水魔法のほうが強くなってしまう可能性がある。
それで一度セシルに魔法を発動してもらって、威力を見てみたかったのだ。
「ウンディーネに力は借りなくていいのかな」
「一度、両方の魔力で試してもらってもいいですか?」
「構わない」
そう言ってセシルは魔石を握る。
「水よ」
風の魔石は無色透明だ。そこに刻まれた水の魔法紋から、じわりと水がにじんでくる。
やがてぽたぽたと水がしたたり落ちて来るが、霧が発生するためには、もっと水量が必要だろう。
「では次はウンディーネに力を借りるよ」
「お願いします」
ある程度水が溜まったところで、セシルはウンディーネの力を借りて水魔法を使った。
「ロディア、水を」
セシルの髪の毛の間から、紫がかった水滴が現れる。
守護精霊であるウンディーネだ。
「ロディア……古語で、せせらぎという意味ですね」
レナリアが古風で素敵な名前だと感心すると、セシルはわずかにタンザナイトの目を見開いた。
「よく知っているね」
王家には古語で書かれた儀式用の祭句があるので、古語を学ぶ必要がある。
だが一般的な言葉ではないので詳しく知っているのは、古語を専門に研究しているものくらいだ。
前世のレナリアは聖女として古語の勉強をさせられていたので、ついうっかり口に出してしまったのだ。
「え、ええ。我が家には古い書物がありますので……」
「そうなんだ、レナリアは努力家なんだね」
努力ではなく前世の記憶なので少しずるいような気がして、レナリアはそっと目を逸らす。
セシルがウンディーネのロディアに頼んで出した水は、さっきよりも勢いがある。
これならば霧を発生させられるだけの水になるだろう。
「セシルさま、ありがとうございます。では、この魔力量に合わせて火の魔法紋を刻みますね」
セシルにそう言った後、レナリアは心の中でチャムに協力を頼んだ。
(チャム、お願いね)
「うん、分かったー。チャムがんばるー!」
いつも応援ありがとうございます。
コミカライズですが
12月より開始予定です。
(ちょっと延びました)
詳細はまた後日お知らせいたします。
そして双葉社Mノベルスf様より11月15日に2巻が発売されます!
イラストは、すがはら竜先生です。
書き下ろしは2編
「マリー・ウィルキンソンは視た!」
「教皇ユリウス」
すがはら先生の描く教皇ユリウスの美麗さをぜひご覧くださいませ(*´꒳`*)
書影は下記をご覧ください。