101話 風のクッション
以前お名前募集させて頂いた
「ティエラ・ノーチラス」さん。
生徒ではなくて先生で登場させて頂きました。
お待たせいたしました。
ご協力ありがとうございます!
「そうだ。エアリアルが体を浮かせてくれるなら、騎乗中も少し浮かせてもらうと楽かもしれないよ」
にこにこしているポール先生のアドバイスに、レナリアは「どうしてですか?」と聞き返した。
「乗馬服には予防としてお尻と足の内側には革張りをしているんだけど、リッグルに乗るとどうしても足の内側がこすれてしまうからね。最初の内は痛くなる子も多いんだ。エアリアルが協力してくれるなら振動もなくなるし、体重がかからない分、リッグルも早く走れそうだよ」
「確かに……! じゃあさっそく頼んでみます」
「ああ、でも競技中ずっとってなると、大変かな。だったら……風のクッションをお尻に敷いてもらうなんていうのはどうだろう」
(フィル、風のクッションをお願いできる?)
レナリアが喜んで肩に乗っているフィルに頼むと、ご機嫌で羽を輝かせた。
「もちろんだよ。ボクに任せて!」
フィルが羽を震わせると、すぐ鞍の上に弾力のある風のクッションが現れる。
確かにこれなら振動を吸収してくれて、こすれたりもしなさそうだ。
「ボクならずっとレナリアを浮かせておくこともできるから安心してね。ラシェがどのリッグルよりも速く走れるようにするよ」
(待って。ほどほどでいいのよ。目立ちたくないから……)
「えー。ボクが手伝えば風のように速く走れるのに~」
(そこは手を抜いてちょうだい。お願いよ)
「えぇ……。仕方ないなぁ……」
渋々頷いたフィルの隣で、チャムが相変わらずしょんぼりとしている。
「チャムもー、お手伝いしたいのにー」
「仕方ないだろ。適材適所だよ」
「テキザイテキショってなにー? チャムにできるー?」
「そのうち出番がくるよってこと」
「うーん? よく分かんないけど分かったー」
フィルとチャムの掛け合いがあまりにも可愛らしくて、思わずレナリアは笑ってしまう。
そんな楽しい気持ちが伝わったのか、ラシェも機嫌よく「クルゥ」と鳴いた。
「レナリアさん、風のクッションはできたかな?」
そんなレナリアの様子に、どうやらエアリアルに頼めたらしいと判断したポール先生が声をかける。
これが成功すれば、エレメンティアードでかなり有利になる。
風魔法クラスはどの学年でもずっと最下位だったけれど、今年はもしかしたら、とポール先生は希望がわいてくるのを感じた。
「できました」
「具合がどうか、少し歩いてもらいたいな。……マーカス先生、お願いします」
マーカスは軽く頷くと、手綱を持ってラシェを誘導した。
一歩進むたびにレナリアの体が揺れるが、さっきほどではない。これならば綺麗な姿勢を保つこともできそうだ。
「レナリアさん、どう?」
「凄くいいです。振動があまり感じられません」
「それはいいね。じゃあ他の生徒たちにも教えてこよう」
そう言って背中を向けるポール先生だが、マーカスの制止に立ち止まった。
「いやちょっと待て。それでは風魔法クラスがかなり有利になってしまうぞ」
「でも魔法によって他の生徒の妨害をするのは禁止されてるけど、それ以外は問題ないよね」
エレメンティアードは学生がどれだけ正確に魔法を使えるようになったかを競うものだ。
だから自分のための魔法であれば禁止はされていない。
「確かにそうだが……」
「風魔法クラスが勝つかどうかは別として、水魔法クラスは毎年エレメンティアードの基礎学問部門で優勝しているんだから、たまには負けてみるのも刺激になっていいと思うけどなぁ」
ポール先生が肩をすくめると、マーカスは眉間の皺を濃くした。
「競技に負けて喜ぶものなどいない」
「そうかなぁ。悔しさっていうのも、成長の種になると思うけどね。むしろ挫折を知らない人間ほど、行き詰った時にポッキリ折れちゃいそうだよ」
マーカスは何か思い当たることがあるのか、少し考えこむとポール先生を見つめ返した。
「まだ負けるとは決まったわけではあるまい。正々堂々と勝負して勝ってみせよう」
「しまった、かえってやる気を出させちゃったかな。僕は他の生徒たちを見てくるから、マーカス先生はレナリアさんの指導をよろしく」
そう言ってポール先生はマリーの方へと向かっていった。
マリーを指導しているのは木魔法クラスの担任のティエラ・ノーチラスだ。優しく穏やかな先生なので、人見知りのマリーもなんとか委縮せずにリッグルに騎乗しているようだ。
むしろ凛とした表情で前を向く姿は、かなり乗り慣れている様子に見える。
私も、頑張りすぎないように頑張らないと!
レナリアは心の中でそう誓うと、「さあラシェ、行くわよ」と声をかけて姿勢を正した。