脳内でアニメのCVで台詞を再生して頂けると一層お楽しみ頂けます。
長くなりすぎたので分割です。
前半はパンドラズ・アクターとコキュートス。後半があのヒトたちです。
来週には完成したらいいなぁ、後半。
『……コキュートス。今、時間は大丈夫かい?』
デミウルゴスからの突然の<伝言>に、コキュートスは剣を振るう手を止める。
「デミウルゴスカ。ドウシタ急ニ」
『アインズ様が今、ナザリックの視察を行っていることは知っているだろう?明日以降君の階層にお邪魔することになると思うから、自分の守護する階層に居て欲しいんだが……何か急ぎの任務はあったかい?』
そう訊かれて、コキュートスは首を僅かに捻り……今受け持っている仕事を思い返す。
「……特ニハ、無イナ。全テ配下ニ任セル事ガ可能ダ。アインズ様ガコチラニオ越シニナルノナラ、待機ヲシテオコウ」
『助かるよ。アインズ様はいつもの守護者たちの姿が見たいとお考えだ。だから、君もいつも通りを心掛けて欲しい。では、また後程。アインズ様がそちらへ行く事が決定したら、また連絡を入れるよ』
「アァ」
デミウルゴスの<伝言>が切れた後。コキュートスは自分の配下たちに連絡を入れる。明日以降に視察がある事と、自然体で居るようにと指示があったことを。
(ニグレドニハ、デミウルゴスガ連絡ヲ入レルダロウ……)
そう思い、コキュートスは日課の鍛錬に戻った。
「デミウルゴス。今日はコキュートスの守護する第五階層に行きたいと思っているのだが……何か問題はあるか?」
いつものように支配者ロールで悟がそう訊けば、デミウルゴスは恭しく一礼し答える。
「何も問題はございません。コキュートスに確認致しましたが、現状リザードマンの村はコキュートス自らが行くような案件は無いとの事でしたので」
「そうか。なら、本日はコキュートスの所に行くとしよう。……あの階層は寒いんだったな。パンドラズ・アクターに装備を持って来させてからだから、やはり向かうのは午後からだな。コキュートスにはそのように伝えよ」
悟はそう言うと、食後の紅茶を味わいながら飲み干す。悟は食後の紅茶はレモンティーが気に入ったようで、今朝もレモンティーを飲んでいた。他の柑橘系の紅茶も美味しいと料理長が言っていたため、次は別の物を試そう……などと思いつつ。
「かしこまりました。では、パンドラズ・アクターも呼んでおきましょう。寒冷に対する完全耐性を持つ装備でよろしかったでしょうか?」
「そうだな。今の私のレベルだと、各種耐性ごとに装備を変えないといけないのが面倒だが、仕方ない。この体であの階層に行ったら即死だからな……」
悟は大きく溜息を吐き、遠くを見る。レベル1。人間には種族レベルは無いので、一体何のレベル1なのかは分からなかったが、恐らく元々の職業レベルから推察するに、魔法詠唱者系のレベルなんだろうな……と思いつつ。……見た目は確かに人間で、飲食も出来てはいるが……今の悟が本当に人間なのかは不明のままであるのだが。
(……魔法詠唱者なんて、只でさえ紙装甲なのに……レベル1だろ?間違いなく即死だよ!!デミウルゴスの階層も人間種の俺だと消し炭だしさ、装備品無いと。はー……。本当に不便だよなぁ。飲食が出来るのはすごく嬉しいんだけど。液状食料なんか比べものにならないくらい、ナザリックの食事は美味しいしさ)
ユグドラシルでも、レベル30を超えると複数の耐性持ちの装備を身に着けることが出来るようになる。……裏を返せば、それまでは弱点を突かれて狩られ放題という、中々に初心者に厳しい仕様ではあったのだが。所謂若葉マークが取れるのがレベル30からで、経験値倍増ボーナス等の優遇措置は無くなるが、それでもレベルは他のゲームよりも上げやすい仕様であったため、PKされまくりだった悟もクランに入るまでの間何とか続けられていたのだった。
「以前パンドラズ・アクターが持参した装備では、やはり不安が?」
デミウルゴスが心配そうにそう訊くと、悟は頷く。
「一応指輪も防具もあるが、フルセットで装備しないと完全耐性にならない場合もあるからな。低レベル層の装備品はそういった欠陥もあるから、パンドラズ・アクターに見立てて貰った方が安全だ」
例え人間種だったとしても、レベル100ならHPも多いためその辺はあまり気にしなくても良かったが、現在の最弱状態の悟は念には念を入れるべきだと思っていた。その為、黒歴史と言い切ってしまう彼……パンドラズ・アクターを再び呼ぶことにしたのだ。
「……一応、恐怖に対する耐性も欲しい、と伝えてから呼んでくれ」
「かしこまりました、アインズ様」
コキュートスと同じ階層に居る彼女……アルベドの姉、ニグレドを思い出し、悟はそう付け加えた。
「アインズ様……!日を置かずのお呼びに、この私、感動に耐えません……!!」
いつものように、オーバーリアクションな彼を見て、悟は微妙な気持ちになるのを抑えられなかった。その頬は、ほんの少しだけ赤らんでいる。
(……沈静化が仕事をしてない、って事はやっぱりこの体はアンデッドでは無いんだろうなぁ……。って、現実逃避してもこの変な鼓動は収まらないよ!!昔の俺、何考えてコイツ創ったの!?いや、あの頃はこんな動きするとか想像もしてなかったけどさ!?)
ユグドラシルではコマンドを口にしなければ動かなかったNPC。だからこそ、設定にドイツ語だとか所謂厨二病患者がやらかす事をほぼ全て盛り込んでしまった訳なのだが……それが、生きて自分の意志で動き喋るところを目の当たりにすると、心の古傷を思いっきり抉られるような気がしてしまう。悟は沸き上がる羞恥を必死に抑えた。
「あー、うん。それはいいからな?この間持って来て貰った装備なのだが……今の私のレベルだと、ほんの少しの装備ミスでも危険だから、一度組み合わせを確認して欲しいのだ。フル装備で完全耐性になるよう、揃え直して貰えないか?今日必要なのは寒冷に対する完全耐性なのだが、他の耐性の組み合わせも欲しいからな」
悟がそう告げると、パンドラズ・アクターは仰々しい一礼をすると、嬉しそうに答える。
「かしこまりました、我が神アインズ様……!」
「……うん、神も止めような?他の者が真似でもしたら困るからな。では、装備を確認してくれ」
アインズ様当番のメイドや警護の八肢刀の暗殺蟲にクローゼットから運ばせた装備を指し示すと、パンドラズ・アクターは腕を派手に動かしながら装備をテキパキと仕分けてゆく。
(……コイツ、仕事は出来るのに何でこう残念なんだろうな……。普段の動きからして派手ってどーいう事だよ!!)
内心でそう突っ込みつつ悟は作業が終わるのを待つ。だが、待つ、と言うほどの時間も掛からず仕分けは終わっていた。
「アインズ様!こちら、右手から寒冷に対する完全耐性、炎熱、毒、麻痺、石化、睡眠、魅了、恐怖に対する耐性の装備セットでございます。そして、こちらは完全耐性ではありませんが、防御力が高い装備セットです。アインズ様の指輪と合わせても耐性は八割程度ですので、今のアインズ様には不要の組み合わせかとは思いますが……」
「……そうか、八割か……」
ゲーム中の八割。それは、ほぼ間違いなく最高でも二割はダメージを受けると言うに等しく。今の悟では即死も同然であった。そっとその装備セットを避け、耐性ごとのセットをメイドたちにクローゼットに戻させる。
「今の私では、精神に関する物も効いてしまうからな……。下手したら廃人だ。だが指輪と合わせても八割か……」
コキュートスにはそういった能力はないため、今回の視察では問題が無い。問題があるとしたら……。
「……シャルティアとアルベドの所に行く際は魅了の完全耐性の装備だな。他は、デミウルゴスたち警護の者で何とかなるだろう」
シャルティアは真祖で、アルベドは女淫魔だ。デフォルトで魅了がセットされていると思って間違いない。今までは彼女たちが意識して悟を魅了しようとしてはいなかったからこそ何とかなったが、本気を出されたら八割の耐性では心許なさすぎる。アルベドの猛攻に耐えられたのは、ひとえに魅了を上回る恐怖感のお陰だったりするのだが……悟は気付いていない。男女交際も未経験の彼には、女淫魔の誘惑は性的興奮を呼び起こすと言うよりは恐怖を感じる物でしか無かったのだ。……アルベドの今までのアプローチは完全に無駄に終わっていたのだが……アルベド本人は全く気付いていないため、今後も通常の手段ではどうにもならないのであった。(先日の媚薬事件のように悟本人の意志を無視して行動を起こさせる何かを使えば別ではあるが)
「はい、アインズ様!彼女たちからもその他の事からも私たちが必ずやアインズ様をお守りすると誓います!」
デミウルゴスは左右に大きく尻尾を揺らしながらそう宣誓する。決意に満ちたその様子に、悟は小さく笑う。
「そうか。ならば安心だな。……パンドラズ・アクター。レベルが30を超えれば、耐性関係の装備は問題無くなるか?」
「はい!単独で完全耐性を備えた装備がございますので、例えばローブで石化を防ぎ、靴で毒を防ぐ……といったような事も可能でございます。ですので、フル装備でしたら問題無いかと。……アインズ様のその指輪は即死への完全耐性の物でございますし、この指輪は時間対策の指輪ですから、レベルが上がりさえすれば、まず安心かと。……ナザリックのヒーラーは優秀でございますし」
パンドラズ・アクターのその言葉に、悟は苦笑する。
「まぁ、確かに死にさえしなければ回復は出来るだろうが……なるべくなら、その様な目に遭わないことが望ましいのだがな」
(だって、絶対に痛いじゃん!!死の支配者だった時とは違って、感覚も人間だった時に戻ってるし!!そんなの体験したくないに決まってるよ!!)
「……パンドラズ・アクター。君は私たちの警護が及ばない可能性があるとでも言いたいのかい?」
パンドラズ・アクターの台詞にデミウルゴスは珍しくも刺々しい口調でそう言うとキツく睨み付ける。
「いえ、そんなつもりは。ただ、万が一のことがあっても安心ですよ、と父上に申し上げただけで」
長い指を大仰に振り動かし、そう否定するが……デミウルゴスの眉間に刻まれた皺は戻らない。
「そうですか。なら良いのですが。……アインズ様、では本日はこちらの装備をお召しになるのですね?」
「あぁ、寒冷に対する完全耐性の装備セットにするつもりだ。……パンドラズ・アクター。恐怖に対する耐性の物はどれだ?」
そう悟が小声で問うと、パンドラズ・アクターも心得ているかのように小声で返す。
「こちらの……腕輪になりますね。ただ、先程も申し上げましたとおり……」
「……八割なんだな」
「はい」
「……恐怖状態になった際に即時回復出来るアイテムは?」
「ポーションのように服用する物しかございませんね。デミウルゴス様に渡しておけば回復してくださると思いますが……」
パンドラズ・アクターのその言葉に、悟は一瞬悩んだ。が、今の自分はレベルが1なのだから、多少醜態を見せても仕方が無いのだ、と自分に言い聞かせる。
「分かった。では、それを私に。私からデミウルゴスに渡す」
「かしこまりました。こちらです」
インベントリからアイテムを出し、パンドラズ・アクターは悟にそれを渡す。ポーションよりはかなり小さい、目薬サイズのそれ。
「……目に入れるのか?」
「いえ、こちらも飲み薬ですね。父上には無縁のアイテムですし、覚えていなくても当然かと。気付け薬なので、味がとても個性的らしく少量なのだとか」
ハッキリとマズイとは言わない辺りが、普段は飲食をしない彼らしい。確かに、悟には猫缶の缶ごと食べた味などは理解出来ないし、そもそもそんな物は食べられないので、パンドラズ・アクターとは味覚の共有は難しいのだろう。
「そうか。……仕方ないな、非常事態用なのだから、味は我慢するしかあるまい。だが、これもひょっとしたらンフィーレアに任せれば改良が可能かもしれんな。しかしポーションも未だ不完全だし……」
「父上?」
「あ、あぁ、すまない。ではまた何かあったらお前を呼ぶとしよう。暫くは私のレベルに合わせた装備を宝物殿で探すことを最優先にしてくれ」
悟の悪い癖でもある、自分自身の考えに没頭してしまう所。他の僕なら声など掛けないが、そこはパンドラズ・アクターである。平気で声を掛け、話を進めさせた。彼にとって悟は父親なのだから、他の者のような遠慮等は一切無かった。そういった部分に悟は無意識のうちに癒やされていたりするのだが……全く本人は気付いてもいなかった。
今はもう居ないギルドメンバーたちのように、素を出して話せる相手が存在する。それが、例え自身が創作したNPCだったとしても、パンドラズ・アクターは悟の精神の安定に必要な存在だと言えた。
「かしこまりました。各レベル帯ごとに分類しておきますので、またお呼び下されば即座に持参いたします。では、父上失礼致します」
バサァッ!と大きく軍服の裾を翻して一礼すると、パンドラズ・アクターは部屋から出て行く。本日は珍しく<転移>はしなかったな、と悟が思っていると、扉の外で「<転移>ッ!!」と叫ぶ声が聞こえてきた。
(……一応、少しずつではあるけれども、パンドラズ・アクターも色々考えてくれてるんだな……)
と、悟が妙なところで感心していると、視界の端にゆらゆらと揺れるデミウルゴスの尻尾が見えた。
(!!そうだよ、俺、デミウルゴス待たせてたんじゃん!!早くこれ渡さないと!)
「……デミウルゴス。待たせてすまないな。今の私では精神耐性も皆無だから、万が一の時に備え、こちらのアイテムを渡しておく。恐怖状態を回復させる飲み薬のようだが……どうやら、魅了の回復も兼ねているみたいだ。私の装備を貫通して状態異常になった場合、即時回復して欲しい。……人間種は、魅了はともかく恐怖でも死亡してしまうからな……」
ボソリ、とそう呟かれた悟の言葉に、デミウルゴスの尻尾は硬直した。その顔色は、蒼白になっている。
「きょ、恐怖で、死亡ですか……?人間種はそのように脆弱な存在なのでしょうか……」
「あぁ。人間は、恐怖が過ぎると自らの心臓を止めてしまうことがある。……まぁ、大抵は気絶で自己防衛するのだが。だが、私は今までアンデッドだったこともあり、強い恐怖を受けた際にどうなるのかが不明なのだ。先程パンドラズ・アクターが言っていた通り、一応即死はしないこの指輪を嵌めてはいるが、状態異常は防げないからな。頼んだぞ、デミウルゴス。……あと、万が一恐怖が即死扱いで無かった場合は、心臓マッサージで回復出来ると思うのだが……お前にその知識はあるか?」
どちらかと言うと人を殺める方が多い悪魔にそんな事を訊くのも妙だとは思ったが、デミウルゴスはウルベルトが想像した叡智の結晶のような賢い悪魔だ。ひょっとしたら知っているのではないか……と、そう思い訊ねたのだが。
「申し訳ございません、アインズ様……!私にはそのような知識は乏しく。一時間ほどお時間を頂ければ、古代図書館で知識を蓄えて参ります!!」
思った通り、デミウルゴスには蘇生関係の知識は無いようだった。
「そうか。どちらにせよ、コキュートスの階層に向かうのは午後の予定だったからな、今から古代図書館へ向かって人命救助関連の知識を仕入れてくるが良い。その間、私は自室で書類の整理をすることにしよう」
悟がそう言って微笑むと、デミウルゴスは深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、アインズ様!では、八肢刀の暗殺蟲だけでは戦力的に不安が残りますので、私が居ない間は魔将たちを代わりに警護に当たらせます」
「……そうか。お前に任せよう。では、決済の必要な書類も持って来てくれ。私は先に装備を整えておくとしよう」
悟のその言葉に、壁際に立っていたアインズ様当番のメイドの瞳がギラリ、と輝く。だが、アルベドのそれとは比べものにならないレベルだったため、悟は全く気にしていなかった。
そして、午後。寒冷に対する完全耐性の装備を全身に纏い、指には嵌められるだけの各種耐性の指輪を装備した悟は、鏡に映る自分を見て大きく溜息を吐いた。
(……死の支配者だった時は気にならなかったけど、これ、どう考えても胡散臭い成金じゃん!10本の指全部にこんなデカイ宝石の指輪してるとか無いわー……)
ルビーのように赤い石にギルドの紋章入りの、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンはまぁ仕方ないとして。他の効果ありの指輪たちも、流れ星の指輪以外はルース部分が大きくとても派手なのだ。リアルになると、人間の悟の指と比べてかなり大きく、目立つ。しかも、効果ごとに色も違うものだから、悟の両手の指は信号機どころでは無い鮮やかさであった。各種ルースの大きさとしては、成人男性の指の付け根から第1関節くらいの長さ、と言えばその大きさが想像出来るだろうか?そんな大きさの宝石が填まった指輪が、9個。(前述した流れ星の指輪は石が小さく控えめなのでカウント外である)カラスがいたら真っ先に襲われそうな装備と言えた。
(まぁ、命には代えられないしなぁ。もう、似合う似合わないとかは気にしたら負けだな、うん!!)
と、悟はそう結論づけると、デミウルゴスの待つ前室へ移動した。
「待たせたな、デミウルゴス。では、コキュートスの階層に行くとするか」
「はい、アインズ様」
昨日より若干視認できる八肢刀の暗殺蟲が増えたような気がしたが、悟はその事には突っ込まず警護を伴って第五階層へ向かった。
「……すごいな。本当に、一面の雪景色とは。しかも、吹雪いているが……常にここはこうなのか?」
悟がそうデミウルゴスに訊くと、デミウルゴスは曖昧な笑みを浮かべたまま前方を指し示す。
「アインズ様。コキュートスが来ておりますので、その説明は彼に任せるのが良いかと」
「あぁ、そうだな。吹雪で見えなかった。すまない、コキュートス。せっかく出迎えてくれたというのに……」
申し訳なさそうに悟がそう言うと、コキュートスはその巨体を大きく揺らす。……尻尾も、激しく揺れていた。どうやら、デミウルゴスもコキュートスも、感情が尻尾に表れるようだ。
「アインズ様ガ謝ル必要ハゴザイマセン!今ノアインズ様ノレベルヲ失念シテイタ私ガ悪イノデスカラ。デハ、ゴ案内致シマス」
コキュートスはそう言うと悟に一礼し、先導する。
「先程ノオ話デスガ……コチラノ吹雪ハ、基本的ニランダムデゴザイマス。タダ、外敵ガ侵入シタ場合ハ、今ヨリモ激シイブリザードニナルヨウ、武人建御雷様ガ設定サレテイマス」
「そうだったのか。確かに幾ら耐性のある装備でも、風は防げないものな……。進軍が遅くなるのはこちらにとっては利になる。流石は建御雷さんだな」
感心したようにそう言う悟の言葉に、コキュートスの尻尾が嬉しげに揺れていた。
「アインズ様、では今のアインズ様も進むのに難があるのでは……?」
心配そうにデミウルゴスにそう問われるが、悟は笑顔で答える。
「いや、問題無い。前方はコキュートスが守護してくれているし、後方も左右もお前たち警護が居るだろう?おかげで私には風は殆ど来ないからな、とても歩き易いぞ」
(パンドラズ・アクターが用意してくれたこの靴も、こんなに雪が積もってるのに普通に歩けるしなー。今までだったらそんなの気にしたこと無かったけど、確かにこれは現地人が欲しがる訳だよ。人間種にとっては垂涎の激レアアイテムだろうしなぁ、コレ)
「アインズ様ガイラシタノハ出口側デシタガ、入口側ハ各種罠ガゴザイマス。マタ、罠ニハマッタ敵ヲ雪女郎ナドノ寒冷ニ対スル完全耐性ガアル者タチガ攻撃スル事ニナッテオリマス」
歩いているうちに吹雪は止み、レベルが1の悟でも周囲が見えるようになって来た。すると、氷造りの家が建ち並んでいるのが目に入った。密集しているのでは無く一定の間隔を空けて建っているのが、何らかの意図があるように思える。
「コキュートス。あれはお前の配下の住まいだと思うのだが……何故、あの様に距離を取って建てている?建御雷さんは何か話していたか?」
「ハイ。以前、大規模侵攻ガ遭ッタ際ニ、焼キ討チサレタタメ……被害ヲ最小限ニ抑エルヨウ、距離ヲ取ッテオリマス。入口側ニ異変ガアッタ際モ連絡出来ルヨウ、私タチニ被害ガ出タ場合ニモ自動デ通信ガ行エマス」
コキュートスのその説明に、悟は目を見開く。……嘗て遭った、大規模侵攻。あの時は確か、デミウルゴスまでもが殺され。最終的に、八階層まで敵に蹂躙された。結局は返り討ちに出来たものの、皆思い入れのあるNPCを殺された事に激しく憤っていたのを思い出す。
(……あの時の配信動画を後で見て、皆自分のNPCを殺ったプレイヤーをPKしに行ってたんだよなぁ……。武人建御雷さんは弐式炎雷さんと組んで、自分は正面突破して油断を誘って弐式さんが背後から……)
結局、八階層のあの仕組みを見て、あの人数でも無理ならナザリックは落とせない、と判断したのか大手のギルドは軒並みナザリックへの敵対行為を控えた。その後の報復PKもそれを後押ししたらしいが、実際はどうなのか悟には分からない。
「そうだったのか……。お前たちに何かなど遭って欲しくはないが、備えは必要だからな。コキュートスは日々鍛錬をしているし、正面からお前を倒せる者などはそうは居ないだろうが」
柔らかく微笑みながらそう言うと、コキュートスは嬉しそうに息を吐く。普段よりも量の多いそれに、コキュートスの顔の周りの空気は一斉に真っ白に染まった。
「オ褒メイタダキ光栄デス。今後モヨリ精進シタイト思ッテオリマス!」
「……無理だけはするなよ?私はな、配下たちにもきちんと休養を取らせたいのだ。各種族で耐久度などは違うだろうが、それを超えるような真似だけはして欲しくない。だから、お前たち、強者である守護者達にも休養を取るようにと命じている。……それは、理解しているな?」
放っておくとすぐにオーバーワークしそうな守護者達だからこそ、悟は敢えてそう釘を刺す。すると、一瞬コキュートスの尻尾がその動きを止めた。
「……コキュートス?」
悟がそう名を呼ぶと、突然コキュートスはその場で土下座をした。それはもう、お手本のように見事な土下座であった。
「申シ訳ゴザイマセン、アインズ様……!私ノ趣味ハ鍛錬デスノデ、休養日デアッテモ欠カサズ行ッテオリマスガ……ソレハ、アインズ様ノ御意志ニ反シテイルノデハト……!」
突然のその行動に、悟は戸惑う。だが、コキュートスの言うことには少し考えさせられる。
「コキュートス。面を上げよ」
「ハッ!」
悟の声に顔を上げたコキュートスに、悟はほんの少しだけ困ったような顔で問い掛ける。
「お前は、普段の鍛錬は何時間ほど行っている?」
「ハイ、空キ時間ハ全テデゴザイマス。時間ハ日ニヨッテ異ナリマスガ、最低デモ8時間ハ」
コキュートスのその回答に、悟は絶句する。8時間。それは一日の三分の一に当たる時間で、更に言うならばホワイト企業の労働時間と同じである。それと同じ時間を最低として毎日鍛錬を行っている、と。コキュートスはそう言った。だが。
(……あれ??時間計算、おかしくない??俺、皆にちゃんと夜は休むように、って言ったよね!?交代勤務の概念もちゃんと守護者たちには連絡済みの筈なんだけど……。日中の勤務時間が今の所8時間で、夜の休憩が8時間。確かに個人の時間は8時間はあるし、守護者達は飲食不要の指輪をしてるから不可能では無いんだろうけど……)
通勤時間が無く、飲食をしないのであれば確かに可能ではある。だが、それは悟が望んでいたホワイト企業の環境とは違うような気がした。
「……お前たちの種族に当てはまるかどうかは知らないが、人間種は筋肉を鍛える際、きちんと休みを取っているそうだ。そうすることにより、鍛錬で鍛えた筋肉がより太く強くなるのだと。もし、その理屈が我々にも当てはまるのであれば……闇雲に時間だけを増やし鍛錬をするのは逆効果かもしれないぞ?なぁ、コキュートス」
「アインズ様ノ、仰ル通リカト。コノ世界デハ未ダ強者トハ相対スルコトガ叶ッテオリマセンノデ、己ノ力量ガ衰エテイナイカト少々不安ヲ感ジテオリマシタ」
悟の言葉に、コキュートスは項垂れてしまう。その様子に、悟はほんの少し心の痛みを感じるが、それでもこのままだとナザリックの僕の社畜精神は治らないためせめて多少なりとも改善出来るように、とアドバイスをすることにした。
「コキュートス、お前とデミウルゴスは仲が良いと聞いたが……休みが合うときに二人で会ったりしないのか?」
流石に、見た目年齢が成人男性の彼等に遊ばないのか、とは言い辛く。微妙な訊き方になってしまったが、当の二人は特に気にした様子も無かった。
「そうですね……。時々、二人でバーに行ったりはしております」
「ハイ。ユックリト話ヲシタリシテオリマス」
その答えに、悟はホッとする。創造主同士の仲の良さで言えば、デミウルゴスはコキュートスよりもシャルティアと仲が良さそうなものであったが、意外とこの二人は相性が良いらしい。武を得意とする者と、知を得意とする者と、真逆の存在だからかもしれないな、などと悟は思っていた。
「そうか、ならば良かった。それと……デミウルゴスの趣味は物作りだったと記憶しているのだが、コキュートスも仕事と直結する趣味以外も持ってみるのも戦略の幅が広がって良いかもしれないぞ?」
コキュートスの仕事は主にナザリックの防衛で、武力によるものが主だ。そして、趣味は鍛錬。……正直、社畜が過ぎて死にかけていたヘロヘロを知っている悟としては、ある意味社畜であるコキュートスにはもう少し仕事以外にも目を向けて欲しいという思いがあった。
「確カニ、ソレハリザードマン達ノ村ヘノ侵攻デ思イ知リマシタ。武力ダケデハ、アインズ様ノ御命令ヲ遂行スルコトモ叶ワナイノダト。後程、デミウルゴスニ相談シテ色々探シテミヨウト思イマス」
「そうだね、君が興味を持てるような物を二人で探してみようか。君の望む、戦力を強化出来るような……それでいて、アインズ様が仰っている休養を蔑ろにしない趣味をね」
そう言うデミウルゴスの表情は、とても穏やかで優しい物で。悟は、ふと、嘗ての仲間を思い出した。嘗ての仲間たちも、二人のように仲が良くて。ギルド内は、柔らかく良い雰囲気に満ちていた。……一部、どうしても相性が合わない者たち(たっち・みーとウルベルト、ぷにっと萌えとタブラ・スマラグディナなど)は居たが、それでも、悟の前では皆優しい空気を纏っていた。不意に彼等を思い出し、ほんの僅か鼻にツンとした痛みを感じてしまって、悟は慌てて思考を切り替える。
(あれ!?俺、人間になったからって、涙もろすぎない?こんな所で泣いたら、NPCたちを心配させちゃうよ……!た、楽しいことを考えよう!昨日のアウラの配下、モフモフで毛並み最高だったなぁ……)
零れそうになった涙を、そうやって抑え。悟は二人に声を掛ける。
「そうだ。昨日の視察でも思ったのだが、この階層は空間を歪めて広くしていたりするか?もししていたとすると、今の私では隅々まで視察することは難しいと思うのだが。……体力的なものもあるしな」
何せ、昨日の第六階層は闘技場に森、畑に牧場、と広大な面積を誇っていた。アウラの使役する獣たちが居なかったら、全てを見回ることなど不可能だった筈だ。そう思い訊ねると、コキュートスは大きく胸を張り誇らしげに答える。
「ハイ!コノ階層モ第六階層ト同等ノ広サヲ誇リマスが……本日ハ雪狼ノ引ク
コキュートスのその言葉に、悟は思わずデミウルゴスの方を見遣るが、デミウルゴスは小さく微笑んで頭を左右に振る。今回のコレも、デミウルゴスは何も手配していないようだ。
(へー!コキュートス、戦うこと以外にも色々と考えるようになったんだなぁ。リザードマンの村での失敗は、そんなにコキュートスを成長させたのか。……自分で考えて行動する。それがちゃんと出来てるなんて、子供の成長を目の当たりにしたみたいで嬉しいな)
「そうか、では雪車に案内してくれ。雪狼には私が触っても問題無いか?」
また新しいモフモフに触れると思うと、悟の心は浮き立つ。……何せ、アインズだった頃に最も身近だったモフモフはハムスケで。見た目のモフ感とは裏腹に、予想以上に固かった毛並みにガッカリしたのだ。それが、昨日は癒やされて。連日モフモフ出来るかと思うと、悟は思わずスキップでもしていまいそうなくらいに浮かれていた。
「勿論デゴザイマス。雪狼ハ主ニハ絶対服従スル、従順ナ獣デス。マタ寒冷地故、通常ノ獣ヨリ毛ノ量モ多ク、暖カサハ折リ紙付キデス。ソノ毛並ミ故ニ絶滅寸前トナッテオリマシタガ、武人建御雷様ガ保護サレ、コノ階層デ増ヤシテオリマス。戦闘能力ハナザリックノ者トシテハ低メデハアリマスガ、ハムスケ程度ノ力ハゴザイマスノデ、コノ世界ノ一般的ナ人間種デハ倒セナイデショウ。先日ノ侵入者……ワーカー程度デハ彼等ヲ倒ス事ハ不可能デス」
「ほぅ。建御雷さんはそんな事までしていたのか。そんなに美しい毛並みなら、触るのが楽しみだ」
(流石に俺もそこまでは設定覚えて無かったなぁ。後でアンサイクロペディアを読み返してみるか。リアルで言う所のユキヒョウみたいな物なのかなぁ……)
悟がそんな事を考えていると、コキュートスは器用に指笛を吹いた。あの口元で良くこんな音を出せる物だ、と悟は妙なところで感心していた。すると、遠方に小さな影が見えたかと思うと、あっという間にそれらの姿が悟にも視認できる距離にやって来る。
「うわぁ……!本当に真っ白だ。ふわモコで可愛いなぁ……」
思わず漏れた、素の声。そう言わずにはいられないほど、雪狼はモフモフふわふわで素晴らしい毛並みをしていた。毛量が多いせいか、通常の狼よりもやや丸く見えるフォルムも愛らしい。顔立ちもとても可愛らしく、黒目がちのその瞳はまるで愛玩犬のようだった。リアルでのサモエドに似た姿なのだが、悟は犬種に詳しくないためそこまでは気付けなかった。
「アインズ様。ドウゾオ触リ下サイ。コノ者タチモソレヲ望ンデオリマス」
コキュートスの言葉に改めて雪狼を見ると、その尻尾は派手にブンブンと左右に揺らされていた。走ってきたせいでまだ荒い息ではあるが、舌を出して嬉しそうにこちらを見上げている姿は、あまりにも愛らしくて。現地人の殆どを瞬殺出来る実力があるようには全く見えなかった。
(……尻尾がある種族って、尻尾で感情表現するんだな。ハムスケもそうだったっけ?デミウルゴスとコキュートスはそうだ、って今日改めて知ったけど)
「そうか。では、触るぞ?」
そう声を掛けて雪狼に近付くと、八肢刀の暗殺蟲とデミウルゴスが移動したのが分かる。だが、もう悟はそれくらいの事では動揺しない。
「お前は本当に可愛いな。毛並みも最高だ……」
極上の毛皮として乱獲された獣。それも理解出来るほどの触り心地に、悟はうっとりとそう呟く。すると、雪車を引いていた他の雪狼たちも悟に撫でて欲しそうな目でじっと悟を見つめていた。
「コキュートス。他の雪狼にも触っても問題無いか?コイツがリーダーなんだよな?」
最初に触れた雪狼の頭から手を離さず撫でまくりながら悟がそう言えば、コキュートスは即座に頷く。
「勿論デゴザイマス。オ好キナダケ御堪能下サイ」
その言葉に手を離し、他の雪狼の所に行こうとした、その瞬間。
「きゅーん……?」
もう、撫でてくれないの?そう言わんばかりの声で切なげに鳴かれて。更には腹まで見せられて。悟は、リーダーの雪狼の全身を思わずモフりまくっていた。
(無理!!こんなの可愛すぎて、離れられないってば……!!どうしてこう、動物って素直で可愛いんだろうなぁ……。姿が変わっても、召喚されたシモベも俺がナザリックの主だって理解してるみたいだし……どんな原理なんだろう?)
ひたすらリーダーをモフりまくり。リーダーが満足してから他の雪狼も同等にモフりまくって、その柔らかな腹も堪能し。それからようやく移動になった。悟にモフられまくって上機嫌の雪狼は、かなりの速度で移動していたが……雪車自体が魔法の道具らしく、特に風の抵抗を受けること無くスムーズに第五階層を進むことが出来た。
「雪女郎たちの集落は、本当に出口付近に固まっているのだな。普段は彼女たちはどのように勤めているんだ?」
「ハイ。彼女タチハ交代制で入口付近ヲ巡回シ、敵襲ノ際ハ皆ガ一斉ニ襲イ掛カル手筈デス。ソウシテ敵ヲ間引キ、中程デ波状攻撃、最後ニ私ガトドメヲ刺シマス。……前回ハ及ビマセンデシタガ、次ハ必ズヤコノ階層デ止メテミセマショウ!」
息も荒くコキュートスはそう言い放つ。
「流石にもうあの規模は無いとは思いたいが……今は仲間たちも留守だからな。お前たちが頼りだ。頼んだぞ」
「勿論デス」
悟の言葉に、コキュートスだけでなくデミウルゴスや八肢刀の暗殺蟲も同じく答える。ユグドラシル時代を覚えている彼らにとっても、侵入者に八階層まで到達されたことは相当屈辱的であったであろう事は察せられる。八肢刀の暗殺蟲はともかく、コキュートスとデミウルゴスは一度殺されているのでよりその言葉には感情が篭もっていた。
あえて"留守"という言い方で仲間の不在を表現する悟の心中は、NPCたちには伝わらない。だが、ナザリックの主である悟がそう言ったことで、いつかは創造主が帰還するかもしれない……とNPCたちが希望を抱くのには充分だった。それは、残酷すぎる希望ではあったが……悟自身がまだ諦めていないのだから、仕方が無いことだと言えた。
「アインズ様。ニューロニストとニグレド、どちらの方に先に向かいますか?」
雪車である程度進んだ際に、デミウルゴスにそう尋ねられる。
「あぁ、ニューロニストもこの階層に住んでいたのだったか。彼女(?)の職務上常に彼処に詰めている印象が強いが……今日は戻っているのか?」
「その筈です。コキュートスには事前に伝えてありましたし、伝達漏れは無いかと。……コキュートス?」
突然、尻尾の揺らめきを止めた友に、デミウルゴスは声を掛ける。すると。
「……スマナイ。直属ノ配下デアル雪女郎ニハ伝達シタガ、ニグレドトニューロニストニハ声ヲ掛ケテイナイ……」
コキュートスはそう答え、その場に跪いた。
「申シ訳アリマセン、アインズ様!セッカク御足労イタダイタノニ、コノヨウナ……!!」
放っておくと切腹でもしかねない勢いのコキュートスに悟は面食らうが、すぐに声を掛け宥める。
「気にするな、今回は特に火急の用があるわけでも無い。今後気をつければ良いだけだ。ニグレドは基本的にあそこから動かないだろうし、ニューロニストは……。デミウルゴス、彼女の予定はどうなっている?」
脳味噌喰いの性別などパッと見解らないが、あの口調だから多分女性だろうと思い悟はそうデミウルゴスに尋ねた。
「はい。本日は彼女の手を煩わせるような者は送り込んでいないので多分在宅かと。念の為<伝言>で確認します。ここからですと、ニューロニストの住まいへもニグレドの住まいへもほぼ同じくらいの時間で到着が可能です」
デミウルゴスのその言葉に、コキュートスは雪車を止める。徐々に速度を落とし停車する雪車は、思ったよりも悟へはダメージを与えなかった。風除けをしてくれていた警護の者たちのお陰だろう。
「ニューロニストかい?すまないね、急に。アインズ様が守護者たちの階層を巡られているのは知っているだろう?今日が第五階層の日でね、アインズ様が君の家へ行きたいと仰っているんだが……今在宅かい?」
……微妙に誤解を招きそうな、でも嘘では無いデミウルゴスの発言に、悟はほんの少し微妙な気持ちになる。
(うーん……。ニューロニストの家に行きたい訳じゃ無くて、仕事ぶりを見に来たというか……元気かなー?くらいの気持ちでいたんだけど。何かアルベドとかシャルティアが聞いてたら揉めそうな気がする内容だよな、今のデミウルゴスの発言……)
「……そうか。わかった、じゃあ待機しててくれるかい?……アインズ様。丁度在宅しているとの事でした。いかがいたしましょう?」
そう訊かれて、悟は迷わず答える。
「先にニューロニスト、次にニグレドの住まいへ向かおう。最後に入口側の雪女郎たちの様子を見て終了だな」
正直、ホラー好きのタブラ・スマラグディナと悟の趣味は合わない。感情が抑制もされず、顔に色々出てしまう今の悟としては出来ればニグレドの住まいに向かうのは避けたかったが……階層を巡る際に彼女だけ声を掛けない等出来る筈も無い。皆、仲間たちの遺した可愛い子供なのだから。
(……耐性の装備してても、怖い物は怖いんだけどな……。性格は滅茶苦茶優しいって知ってるけど、あの登場パターンだけはマジで何とかして欲しかったよ、タブラさん!!せめて、味方が行く時はあのギミック解除するような設定にして欲しかった……!!)
内心そう思いつつも、悟はコキュートスに指示をする。
「ではコキュートス。雪車をニューロニストの家へ向かわせてくれ」
(あ。そう言えばニューロニストもタブラさんと同じ脳味噌喰いだな……。随分と体型が違うけど、あれって男女の違いなのかなぁ。ニューロニストって制作者タブラさんじゃないし、実際どうなのか分からないけど。……一応女性?っぽいし、ニューロニストに直接訊くのも失礼だろうしなぁ……)
と、悟はそんな事を考えながら雪車に乗っていた。