日本における新型コロナウイルス・メインプロテアーゼ(3CLpro)変異株の消長と新薬開発への手がかり
発表論文の内容
9月までの慶應義塾大学病院の臨床データ・ウィルスゲノムデータ・生化学実験データを統合し、以下の結論を得た。
- 昨年の第2波で初夏から秋口にメインプロテアーゼ酵素(3CLPro)に変異(Pro108S変異)のある株、 B.1.1.284が急速に増えた。メインプロテアーゼ酵素は、連なって作られる長いタンパクを、部品として切り出して働かせる分子のスイッチである。
- この変異株のウィルスに罹患した患者は重症化(酸素投与を要する)する割合が、非変異株に感染した患者に比べて1/4程度であった。つまり軽症となる可能性が高かった。
- この変異株のメインプロテアーゼ酵素の働き(基質結合能)は半減していた。
- Pro108Ser mutant of SARS-CoV-2 3CLpro reduces the enzymatic activity and ameliorates COVID-19 severity in Japan (medRxiv 2021/02/02)
コメント
- 9月以降の慶應の多施設共同研究として公開しているデータおよび国立感染症研究所等が公共データベースに公開している日本由来データの解析では、この変異株B.1.1.284は夏から秋の第2波では増えたが、第3波では消退傾向にある。
今は、このメインプロテアーゼ変異がなく酵素の働きの高い株( B.1.1.214)が日本の株の主流を占めている。
→「今は気を抜くべき時ではない」
- メインプロテアーゼ酵素阻害剤は、同じ酵素を持つコロナウィルスの一種である「ネコ感染性腹膜炎ウイルス」に感染した猫の特効薬である。
本研究のデータは、メインプロテアーゼ酵素の抑制薬が、ヒトでも効果が期待できる事をさししめす。
参照
- 日本における新型コロナウイルス・メインプロテアーゼ(3CLpro)変異株の消長と新薬開発への手がかり
- Pro108Ser mutant of SARS-CoV-2 3CLpro reduces the enzymatic activity and ameliorates COVID-19 severity in Japan (medRxiv 2021/02/02)
ウイルス全ゲノムシーケンシングを用いた院内感染拡大防止支援システムの基礎研究
新型コロナウイルス感染症は、その感染力と死亡率の高さから公衆衛生上極めて重要な疾病と認識されています。医療崩壊の危機が迫る中で、新型コロナウイルスゲノム配列情報を利用した新しい診断法と感染予防体制の構築が喫緊事です。
慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センターは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援により、「ウイルス全ゲノムシーケンシングを用いた院内感染拡大防止支援システムの基礎研究」を推進しています。
協力医療機関より患者様の検査残余検体及び臨床情報を収集するウイルスゲノムネットワークを構築、さらにウイルス全ゲノム解析プロトコルの最適化を図り、種々の検査残余検体から抽出したウイルスRNAの全ゲノム配列を高精度で解析することに成功しました。解析により得られた新規ゲノム配列情報は、積極的に国際データベースに登録・公開し、全世界の公衆衛生研究発展に寄与します。
解析した新型コロナイルスのゲノム配列情報は感染ルートを正確に把握するための判断の一助となります。感染の伝搬の有無や経路を科学的に決定するシステムを構築・活用することで、本感染症による院内感染の拡大回避・医療体制の早期回復、及び医療従事者の負担の軽減が期待されます。また、ゲノム配列情報から得られたウイルス変異に臨床情報を突合することで、新型コロナウイルスの病原性や感染性などのメカニズムを解明し、本感染症の診断、治療、感染対策への貢献を目指します。
関東圏における新型コロナウィルス変異分子系統樹情報(慶應義塾大学分析分)
関東圏において、新型コロナウィルス(SARS-Cov-2)がどのように変異してきたのかを2つの方法で図示しています。
研究成果
- Identification of SARS-CoV-2 Clade 20C in Japan (November, 2020) (2021/01/12)
The whole genome sequence of the starin has been deposited to the GISAID database (hCoV-19/Japan/Donner96/2020) on January 12, 2021.
Identification of B.1.346 lineage of SARS-CoV-2 in Japan: Genomic evidence of re-entry of Clade 20C (2021/02/01 medRxiv) - Severity of COVID-19 is inversely correlated with increased number counts of non-synonymous mutations in Tokyo (2020/11/24 medRxiv)
- Clinical utility of SARS-CoV-2 whole genome sequencing indeciphering source of infection (2020/10/04 The Journal of Hospital Infection )
関連情報
- 新聞記事:2021/02/09 読売新聞
コロナ第2波、重症化しにくい「変異」ウイルスの可能性…現在の第3波とは別タイプ - TV報道番組: 2021/01/20 テレビ朝日 報道ステーション
「静岡“緊急警報”変異種の市中感染は?ワクチンは?」 - 新聞記事:2021/01/15 朝日新聞
「米国で流行のウイルス、国内の患者から確認 新型コロナ」 - TV報道番組: 2021/01/12 NHK ニュース7
米国で流行のウイルス 国内患者から発見 慶応大学調査 - TV報道番組: 2020/12/24 テレビ朝日 報道ステーション
「“変異種”発見のカギ『遺伝子解析』国内の最前線」 - 新聞記事:2020/11/26 朝日新聞
「慶大病院のコロナ院内感染、ルート複数 遺伝情報で判別」 - 研究事業: 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
「ウイルス全ゲノムシーケンシングを用いた院内感染拡大防止支援システムの基礎研究」 - Webサイト記事: 2020/12/14 日経バイオテク
慶應大、新型コロナの重症度はウイルスゲノムの非同義置換数と逆相関
ご協力いただける医療機関・公的検査機関を募集しています
本研究は、現在、首都圏を中心に11の医療機関にご協力いただき推進されています。院内感染対策に資することはもちろん、本感染症の診断、治療、感染予防法を一刻も早く確立するためにも、本研究の全国規模の展開が望まれます。
本研究の趣旨をご理解いただき、ご協力いただける機関がございましたら、事務局までご連絡ください。
- 概要
- 貴機関で陽性となった患者様の検査残余検体をご提出いただき、ゲノム解析結果をお返しします。
- 対象機関
- 日本全国の医療機関・公的検査機関
- 期 間
- 2025年3月31日まで
- 費 用
- 2021年3月末までに解析結果が得られる検体については、全て本研究費で賄います。以後の解析関連費用につきましては、依頼機関でご負担願います。
- 事務局
- 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター covid19_genome@cmg.med.keio.ac.jp まで電子メールでご相談ください。
ご注意
- 個人のお問合せには対応いたしかねます。
- 迅速な対応を心がけておりますが、返答に時間を要する場合もございます。
- お問合せ内容によってはお答えできない場合もございます。
以上、ご了承ください。