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女神『異世界転生何になりたいですか』 俺「勇者の肋骨で」 作者:安泰
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第六十九話:『勇者のお古の武器』

うっかり異世界でも無難の方に投稿しちゃったい。

「ホァ、ホァ、アタァ」

『拳法家っぽい服を着て、木人樁相手にやっていますが、イマイチ声に張りがありませんね』

※木人樁、なんかそれっぽい動きを練習するアレっぽいの。

「まあこれ、そこまで声を出すものでもないですから」

『経験がないので分かりませんが、そんなものなのでしょうか。カンフー映画とかでは結構必死感が伝わっていましたけど』

「ああいえ、これは別でして」

『ふむ?それで、結局何をしているのでしょうか』

「ほら、以前女神様が言っていたじゃないですか」

『カンフー映画の真似をしろと言った記憶はないですが』

「手加減を覚える必要があると」

※前話参照。

『言いましたね。それでどうして拳法の真似をしているのか。手加減を覚えるのに、強くなってどうするのですか』

「実はこれ、木ではなくふ菓子です。ご覧の通り片手でも簡単に折れます」

『なるほど、折らないように加減をする訓練でしたか』

「ちなみに本日のお菓子はふ菓子です」

『貴方が散々叩いたふ菓子は食べたくありませんね』

「いえ、こちらは俺とググゲグデレスタフで処理します。女神様様にはもう一体の木人樁をば」

『趣味と実益を兼ねて……兼ねているのでしょうか。まあたまにはこういうのも悪くありませんが。ふむ、木目はチョコレートコーティングですか』

「一応特訓の甲斐もあって、音速に近い攻防でも羽根で触れる程度の衝撃しか与えずにすむようになっています。てぱぱぱ」

『口で言っている擬音がちょっとダサいですかね。確かに手加減は身についているようですが、私が言っていたものとはちょっと意味合いが違うと言いますか』

「てぱぱ?」

『その微妙にマスコットみたいな口調はしないように。うっかり消し飛ばしそうになります』

「ふ菓子が巻き込まれちゃいますからね」

『そういうことです。まあせっかく手加減を覚えたのであれば、次の転生で試して見てはどうでしょうか』

「それは良いですね。では早速……ホアタッ」

『ふ菓子の中にお題が……私のにも入っていないでしょうね』

「すみません、女神様の方にはチョコレートしか入れてないです」

『それで良いです』

「ええと、Samさんより『勇者のお古の武器』ですね」

『ふむ。お古という点を除けば、結構な当たり分野ですかね。ですが武器で手加減とかできますかね?』

「まあ、真の力とか解放しなければ?」

『武器としてはそういう方向性になりますかね。まあお古の武器ですから、そこまで強さを誇る必要もないので丁度良い転生先ですね』

「それじゃあ手加減を極めし者になれるよう、頑張ってきますね」

『手加減を極めし者って、逆に凄さを感じませんね』



『ほあた。……消し飛びますね。手加減を覚えるようにと言っておきながら、私も大概でしたか。まあ女神ですし、加減具合なんて適当で大丈夫でしょう』

「ただいまもどりました」

『ほあた』

「リスポン。拳圧だけで消し飛ぶとは、流石は女神様です」

『形は残るように手加減したつもりだったのですが、やはり人間は脆過ぎますね』

「強キャラ感凄いですね」

『それで、勇者のお古の武器でしたか』

「はい。エーテという女勇者が、冒険を始めた時に装備していたお古の武器になりました」

『どのような武器でしょうか』

「石包丁です」

※石を割って作る簡易的なナイフです。縄文時代とか弥生時代でよく見られたそうな。

『古い違い』

「いやぁ、この辺は少しばかり定義的な意味でのトラブルがありまして」

『ふむ、聞きましょう』

「俺が転生するのは勇者のお古の武器、つまるところ最初に使っていた武器となるのです」

『石包丁は元々農作などで麦を刈り取ったりする際に使う道具でしたね』

「はい。エーテは元々村娘、村の農耕を手伝っていた時に魔物がやってきまして」

『石包丁を手に戦ったと』

「はい。なんか無駄に大きかったので、つい手頃な武器として使ってしまったそうです」

『手のひらサイズに収まる石包丁が多少大きかったからといって、魔物相手の武器としては不相応でしょうに』

「こちら写真です」

『クレイモア並に大きいですね。これのどこが包丁なのか』

※刀身1mくらいある、なんかでっかい剣。

「エーテは元々勇者の力に目覚めていて、それなりに怪力だったんですよ。それでちまちまとやるより、一気に刈り取れる大きな石包丁を使っていたようです」

『石じゃ切れ味も悪いでしょうに』

「多少の切れ味の悪さなんて、速度があればどうにでもできますからね。エーテの一振りは麦畑の麦を一掃してましたよ」

『回収が大変そうですね。しかし貴方が関わる女性の武器が荒々しい率高くないですかね』

「勇者がこぢんまりとした武器を持っている方が少ないですからね」

『それは言えてます。死体や鐘と比べればマシな方ですかね』

※九話、十六話参照。

「まあピンきりではありますよ。素手で戦っていた子もいますし」

『いましたね。紅鮭を素手で血祭りに上げたカレー勇者』

※十三話参照。

「魔物を倒し、ついでに魔王の幹部の一人を半殺しにしたエーテは、自身が勇者であることを自覚し、魔王を倒す旅に出ます」

『立場的には魔王の幹部の方が上なのですがね』

「一緒に旅をしていましたが、俺はお古の武器としての転生でしたから、お古になるまではなりを潜めていましたね」

『出だしは巨大な石包丁を装備していったのですか。まあ十分なサイズの武器ですし、下手な市販品よりかは強そうですね』

「ただ割と早く武器は買い替えましたね。俺は基本エーテが手に入れたマジック収納ボックス的なものに入れられてましたよ」

『おや、割と原始人のような雰囲気の勇者だったので、石包丁を長く使うと思っていたのですが』

「冒険者に田舎者扱いされたのがショックだったそうです」

『女の子ですね』

「まあ、エーテを侮辱した冒険者は俺の錆になりましたが」

『石だから錆びないでしょうに』

「では俺の染みになりましたが」

『血が染み付いた巨大石包丁を持った女勇者はなかなかホラー』

「エーテが最初に買ったのは、大きな戦斧でした」

『勇者なのに斧ですか。似合いそうではありますが』

「ですが魔王の幹部の一人の首を刎ねながら、これじゃないなと思ったようです」

『そこまで順調なら、それで良いでしょうに』

「ただ俺よりも何千倍も高い戦斧です。せっかく買ったのだからと、性能を検証することになりました」

『元値ゼロでしょうからね、石包丁は』

「偶然通り掛かった魔王の幹部にバトルアクスを持たせ、エーテは再び俺を握って戦います」

『魔王の幹部が偶然通りかからないでください』

「まあ首を刎ねた奴のアジトでしたからね」

『他の幹部の様子を見に来たら、勇者に首を刎ねられていた挙げ句、戦斧を握らされて戦わされたんですか』

「まあそいつの名は戦斧のアクスラートという奴でして、戦斧の扱いはなかなかのものでしたよ」

『自分の斧を使えば良いのに』

「軽い報告のために来ただけでしたから、武器は置いてきていたそうです」

『まあ同僚と話をするだけのために斧は持ち歩かないですよね。ファンタジー世界じゃなければ』

「さて、この段階で既に俺は自我が芽生えており、それなりの力も発揮できました。ですが今回は手加減をすることが目的でしたからね。戦斧を立ててやろうと、目一杯手加減してやりましたよ」

『石包丁でどう手加減したのやら』

「互いに怪力無双の猛者、両者が万力を込めて振るうは巨大な武器。そしてぶつかり、響き渡る『ぽよん』」

『衝撃音が優しい』

「エーテもビックリしてましたよ」

『でしょうね』

「戦斧を粉々に砕かれ、吹き飛ばされたアクスラートも驚いていましたね」

『そして威力は手加減していなかった』

「そこは俺の力不足でした。俺には衝撃の際に放たれる轟音を精一杯に手加減して『ぽよん』にすることしか……」

『その努力を別の方向に持っていけば、理想の結果が得られたと思いますが』

「エーテは続いて大きな槍を買いました」

『勇者で槍ですか。少数派ではありますが、ないわけではないですね』

「ですが魔王の幹部を槍で壁へと磔にしながら、これじゃないなと思ったようです」

『敵をモズのはやにえ状態にしておきながら、余力がありますね』

「ただ俺よりも何万倍も高い槍です。せっかく買ったのだからと、性能を検証することになりました」

『元値ゼロでしょうからね、石包丁は』

「偶然通り掛かった魔王の幹部に槍を持たせ、エーテは再び俺を握って戦います」

『また様子見に来た系幹部でしょうかね』

「壁に突き刺していた幹部にお茶に誘われていたようですね」

『他の幹部にお茶に誘われて来たら、勇者に壁に磔にされていた挙げ句、槍を握らされて戦わされたんですか』

「まあそいつの名は槍鬼のベニランスシャッケという奴でして、槍の扱いはなかなかのものでしたよ」

『あの紅鮭、ネーミングセンスに限界を感じてませんかね。あと自分の槍を使えば良いのに』

「ベニランスシャッケは驚きました。なんとその槍は少し前に質屋に預けていた自分の槍だったのです」

『自分の槍でしたか』

「俺は戦斧での失敗を反省していましたからね。今度は槍を立ててやろうと、目一杯手加減してやりましたよ」

『同じ結果ではないにせよ、どう手加減したのやら』

「互いに超絶技巧の猛者、両者が卓越した技術で振るうは神速の一撃。そしてぶつかり、響き渡る『ばよん』」

『衝撃音がちょっと変化しているだけですね』

「しかし、俺が努力したのはそれだけではありません」

『効果音だけで天丼が繰り返されるかと心配してました』

「そう、今回槍はまるで無事だったのです。しかもぶつかった衝撃で不要な錆などが綺麗に吹き飛び、新品同様に」

『ある意味超絶技巧ですね』

「これにはエーテも、吹き飛ばされたベニランスシャッケも驚いていましたね」

『紅鮭は吹き飛んだんですね』

「そこは俺の力不足でした。俺には初撃の際に放たれる轟音を精一杯に手加減して『ばよん』にして、槍の回りに付着していた錆を吹き飛ばすことしか……」

『できることが増えているので、理想の結果は簡単に得られたと思いますが』

「エーテが次に選んだのは大きな剣でした」

『勇者として大剣はポピュラーですね。巨大な石包丁を使っていたのであれば、しっくりくる分野なのでは』

「ですが魔王の胴体に大剣を突き立てながら、これじゃないなと思ったようです」

『倒しちゃってる。最終目標倒しちゃってる』

「ただ俺よりも途方もなく高い大剣です。せっかく買ったのだからと、性能を検証することになりました」

『もう検証しなくても良いのでは』

「偶然そこにいた魔王の幹部に大剣を持たせ、エーテは再び俺を握って戦います」

『魔王の根城ですからね。もう自分の上司が倒される一部始終見てましたよね、その幹部。よく戦いましたね』

「その幹部の名はスタッフジョーという奴でして、杖を武器とした魔法使い系の奴でした」

『もはや大剣が得意ですらない』

「スタッフジョーは驚いていましたよ」

『そりゃ魔王が倒された挙げ句、得意でもない大剣を握らされて戦わされたんですからね』

「俺は思いました。これが手加減を実践する最後の舞台になるに違いない。全身全霊を込めて手加減をしなくてはと」

『全身全霊を込めて手加減って、もうよく分かりませんね』

「怪力無双、超絶技巧の猛者であるエーテ。そんな彼女が涙目で棒立ちのスタッフジョーに振るうは無慈悲の一撃」

『無慈悲にも程がある』

「響き渡る『ごしゃり』」

『わりと大惨事っぽい』

「いえ、大剣もスタッフジョーも無傷でした。俺はついに全ての衝撃を抑え込むほどの手加減に成功したのです」

『音は酷そうでしたが、最後の最後で理想の結果を得られたようですね』

「これにはエーテも、スタッフジョーを殴り倒しながら驚いていましたね」

『驚くついでに殴り倒されているのは可哀想ですね』

「まあこのスタッフジョー、最初に半殺しにしていたエーテの村を焼き払おうとした魔王の幹部ですからね」

『一応因縁はあったのですね』

「しかしこのエーテ、流石に俺を怪しむ目で睨みます」

『効果音やら錆取りやらした挙げ句、今度は一切のダメージが発生していなかったわけですからね』

「気まずくなった俺は言いました。『エーテ、君が俺を作った理由を思い出すんだ。君が俺で刈り取るのは敵の命ではなく麦のはずだ』と」

『上手いことを言おうとしている努力は認めます。でも気まずくなったからという時点で、ただの言い訳では』

「いやまあ、手加減を極めたかったって言ったら怒られそうでしたし」

『魔王を倒す冒険に出ている勇者が、自分の武器にそんなことを言われたら複雑でしょうね』

「エーテは俺の言葉にはっとして、涙を流します」

『泣く要素ありましたっけ』

「エーテが俺を作ったのは、自らの有り余る力を皆のために役立て、笑顔にすることが目的だったのです。その時に抱いていた優しい心を彼女は思い出したのです」

『少なくとも戦いのためではないでしょうね』

「それはエーテが武器を握るたび、『これじゃないな』と思っていた理由でもあったわけです。彼女自身、自分に合っているのは武器ではなく、農具だったのだと悟れたのです」

『勇者的には逆であって欲しいですがね』

「なんか上手い感じに諭され、謝ってくるエーテに対し、俺は『良いんだ。思い出してくれただけで、俺は満足だ』と慰めます」

『説明のところ、一言余計ですね』

「人ってどんな言葉が刺さるかわからないものですよね」

『ははぁ、さては無自覚で人を感動させてしまったことに照れを感じていますね』

「まあそんなところです。最初からちゃんと向き合っている分には平気だったりするんですがね」

『貴方は手加減をすることに必死なだけでしたが、勇者から見れば自らの有り余る力を抑えてまで、彼女の本来の目的を思い出させようと努力していたように捉えられたわけですね』

「そういったわけで、俺は崩れ落ちていきます」

『突然の死ですね』

「いやぁ、エーテの力を完全に抑えるには、俺の体の内部で衝撃を受け止める必要がありましたからね」

『勇者のフルパワーを石包丁の体では受け止めきれませんでしたか』

「おかげさまでエーテを余計に悲しませてしまいましたね。ちょっと反省点です」

『理想の結果を掴んだわけではありますが、確かにその代償は気まずいものですね』

「最後に一言二言励まして、お別れしてきました。お土産は槍と大剣です。なんか要らなさそうだったので」

『槍は紅鮭にでも送り届けておきなさい。多分喜ぶんじゃないですかね』

「それにしても……手加減って難しいですよね」

『色々と方向性が違った気がしますがね』

「目先のことに気をとらわれていると、周りのことが目に入らなくなると言いますか。もう少ししっかりと石包丁をしていれば、エーテとの冒険ももっと楽しめたと思うんですよ」

『そうですね。貴方は手先が器用ですが、人との付き合い方は不器用な方ですからね』

「手加減する努力を諦めるつもりはありませんけど、今度からは優先順位は低めにしていきたいですね」

『それが良いかと。私も手加減は苦手ですからね。他者と接する時はなかなか苦労します』

「俺相手には手加減なんて要りませんよ。どうせ復活するんですから」

『――そうですね。貴方も私に手加減は要りませんよ。そもそも加減できる相手ではないのですからね』

「ええ、もちろん。愛情表現だって全力で――」

『ほあた。自重はしなさい』




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