お伊勢参りに訪れた人々を優しくもてなし、伊勢市民のおなかを柔らかく満たしてきた伝統食、伊勢うどん。コシのないふわふわの太麺と真っ黒でダシの風味豊かなタレのコラボレーションは、うどんの味わい方の地平を広げてくれる、新しくて懐かしい味。
Yahoo!ライフマガジン編集部
400年前から食べられている“元祖ファストフード”
ふわふわと柔らかい極太うどんに真っ黒なタレ。伊勢うどんの特徴を端的に説明すると、昨今流行のコシの強いうどんとは一線を画することが文字からも伝わってくる。
しかし長年にわたり伊勢市民の、そしてお伊勢参りに訪れた人々のおなかを優しく満たしてきたのは紛れもない事実。伊勢うどんとは、伊勢市周辺のみで食べられてきたこの地域限定のソウルフードなのだ。
伊勢市内にうどんを出す店は多く、市民はそれぞれに自分のお気に入りの店があるが、今も多くの市民に愛されるのが伊勢市河崎にある「つたや」だ。つたやの主人、青木英雄さんは伊勢市麺類飲食業組合の組合長を長年務めている、伊勢うどん界の重鎮。そこで、伊勢うどんについて尋ねてみた。
「伊勢うどんはおよそ400年前の江戸時代から食べられ続けている伊勢の伝統食です」(青木さん)
昔からお伊勢参りに訪れた参拝客をもてなすために出されていたと言われており、お客を待たせないよう、あらかじめゆで置いた麺にたまり醤油で作った温かいタレをかけて提供していた、というのが定説となっている。いわば「元祖ファストフード」とも言うべき食べ物なのだ。
薪釜で炊くこだわりのタレ
青木さんの伊勢うどんへの思い入れは並々ならぬものがある。こだわりの一つは薪を使った釜でのタレ作り。
カタクチイワシ、アジ、トビウオの3種類の雑節や、ソウダガツオ、ホンガツオの2種類のかつお節、さらに利尻昆布から贅沢にダシをとり、たまり醤油などを加え、5時間かけて薪釜で炊きあげる。香ばしさと臭み消しのため、仕上げには真っ赤に熱した鉄棒をタレの中へジューッ。一見、真っ黒で辛そうに見えるタレだが、ひと口味わえば芳醇なダシの風味が口いっぱいに広がり、最後まで飲み干してしまえるほどの味わい。
「タレは作ったら一晩寝かせるんさ。ガスの火やとすぐ温度が下がるけど、薪釜ならゆっくり冷める。その温度管理ができるからこの味になるんさ」。今も薪釜を使う理由を青木さんが教えてくれた。
ネギだけをのせた素うどんがデフォルトだが、自家製の焼豚をのせたこの店オリジナルの「焼豚伊勢うどん(750円)」も人気の品だ。
これまで持っていたうどんの概念を覆してくれる伊勢うどん、ぜひ伊勢へ訪れた際は召し上がれ。
※掲載の内容は2016年3月時点の情報に基づきます。
※2019年5月に店舗(住所、電話番号、営業時間など)、メニュー、料金などの一部情報を更新しました。