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■ またまたムジナのはなし
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ハクビシンとアナグマ
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ある雑誌に、「ムジナの怪」というタイトルでアナグマの話題を紹介したことがあります。アナグマとタヌキはどちらもムジナと呼ばれて混同されることがあること、最近、タヌキにかわってアナグマ情報が増えていること、などを紹介したものです。
間違えられやすいのはタヌキとアナグマだけではありません。外来種であるアライグマも一見すると良く似ています。日本各地で農作物に被害をもたらすなど困った問題をひきおこしていて、北九州市周辺に出没するのも時間の問題かもしれません。ですから、これからは「タヌキ」と聞いたらアナグマだけでなくアライグマである可能性も考える必要がありそうです。
もう一種類、「ハクビシン」という動物も顔に白い線があって、似ていなくもありません。ハクビシンは東南アジアから日本まで広く分布しているのですが、日本ではとびとびに分布をしていて、外来種ではないかとされています。ただ、九州では確実な分布の報告はないようですので、考慮にいれたことはありませんでした。
ところが、5月半ばのこと、知り合いの研究者の方から「市内でハクビシンを側溝に閉じ込めている、という情報がありましたが、一緒に確認しに行きませんか」と誘われました。ハクビシンであれば貴重な記録になりますし、アライグマであればそのまま放すわけにはいきません。おっとり刀でかけつけてみると、幸か不幸かアナグマで、無事に放してやることができました。
確実さが大切な博物館ですから、現物を見るまで種類を断定すべきではないことをあらためて感じるできごとでした。でも、「ムジナ」ということばにはあいまいであやしい雰囲気があって、なんとなく気に入っています。個人的には、アライグマとハクビシンも「ムジナ」の仲間に入れておこうかな、と思っているところです。
(自然史課学芸員 馬場 稔)
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■ 阿修羅(あしゅら)じゃない!
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大威徳明王坐像(遍照院所蔵)
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東京・九州の国立博物館で2009年に開催された「国宝 阿修羅展」。この展覧会以降、仏像に対する関心が高まり仏像ブームとも言われる昨今ですが、開催中の展覧会「北九州市の宝もの」には市内の寺院が所蔵する5躯(仏像は躯【く】と数えます)の仏像にお出ましいただきました。中でも子どもたちが「阿修羅だー」と言いながら興味深そうにながめていく仏像があります。大威徳明王坐像(だいいとくみょうおうざぞう)です。
大威徳明王はもともとインドの神様で、サンスクリット語でヤマーンタカといい「死の神ヤマ(=閻魔)を倒すもの」の意味を持ちます。神の使いである水牛に乗り、六つの顔と六本の手、六本の足を持つのが特徴です。しばしば五大明王のうちの一つとして、また、戦勝祈願の本尊として単独でもまつられます。
一方の阿修羅ですが、古代ペルシアに起源をもつ神様で、善神として信仰されましたが、古代インドのバラモン教では一転、帝釈天と激しく戦う悪神とみなされるようになりました。(「修羅場(しゅらば)」という言葉は阿修羅と帝釈天が戦う場が起源です。)仏教では仏法の守護神となり、多くは三つの顔と六本の手を持ちます。また、釈迦の眷属(家来)として他のお像とともにまつられます。
このように大威徳明王と阿修羅は全く異なるものなのですが大威徳明王を阿修羅と間違えるのは「顔と手の数がたくさんある仏像」=「阿修羅」とイメージしているからのようです。また、このような仏像が阿修羅以外にもあるということを知らないということが大きな理由だと思います。展示場の子どもたちを見ながら、阿修羅という単語がこどもたちに定着しているのを驚くのと同時に、阿修羅以外にも色々な仏像があることを、もうちょっと知って欲しいなと思うこの頃です。
さて、今回展示の仏像たちは、普段は滅多にみることが出来ない貴重なものばかりです。「北九州にこんなに素晴らしい仏像があったんだ。」と思っていただけるでしょう。会期は残りわずかですが、この機会に仏像たちに会いにきて下さい。
(歴史課学芸員 富岡 優子)
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