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■ ハロウィンの主役
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日本で南西諸島や小笠原に住むオオコウモリの仲間は木の実などの植物を食べます
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4月から博物館の館長に着任しました伊澤です。とんでもない年に当たってしまって、皆さんにお会いすることもできず、博物館での楽しいイベントもなかなかできなくなっています。10月にはハロウィンがありました。みんなで仮装してはしゃぎたいところですが、それは来年までお預けになっています。
ハロウィンの主役の1人がコウモリです。コウモリは夜の動物なので、あまり見ることもないから馴染みがない、何か気持ちが悪い、血を吸われるかもしれない!などとあまりいいイメージがないようです。コウモリは翼手目(コウモリ目)と呼ばれていて、その名の通り、私たちの手に当たる部分が翼になって、飛ぶことのできる哺乳類です。飛ぶというとまずは「えっ、コウモリって哺乳類?」と言う方もあるかと思います。鳥ではありません。その証拠に、鳥は卵を産みますが、コウモリは赤ちゃんを産みます。鳥のお母さんはヒナに木の実や虫などを持ってきてあげますが、コウモリのお母さんはヒナにおっぱいをあげます。鳥はくちばしで餌をついばんで飲み込むので歯はありませんが、コウモリには強い歯があります。
でも、コウモリには鳥と同じ翼があるじゃない!と言われるかもしれません。鳥の翼は色々な大きさの羽が集まってできていますが、コウモリの翼は私たちの皮膚と同じです。指の間の皮膚が延びて大きくなって指の先までつながったと思ってください。怪我をして穴が開いても治りますし、筋肉があって自由に折りたたんだり動かしたりすることができます。
変な動物ですが、実は哺乳類の種類のうちの4分の1はコウモリの仲間です。なので、ほかの生き物や森林とも深く関わっています。福岡県でも現在11種のコウモリがいることがわかっていますが、みんな小さな昆虫を食べるコウモリです。自分の体重の30~40%の重さの昆虫を毎日食べています。私は3月まで沖縄に住んでいました。沖縄にはクビワオオコウモリという大型のコウモリがいます。翼の端から端までで80センチもあります。相当怖い?でも彼らはベジタリアンです。木の実や木の葉を食べます。木の実を食べてその種を遠くまで運んで落とすので、植物が分布を広げたり(種子散布)、森を維持するのに役立っています。花の花粉を顔につけて、ほかの花に運んだりもします(花粉媒介)。
私たちが北九州で一番よく見るコウモリはアブラコウモリ(イエコウモリ)で夕方街灯の周りなどを飛んでいます。街灯に集まってくる虫を食べているのです。怖がらないでください。血を吸うコウモリは南米にすむチスイコウモリだけですから。私たちに一番身近な哺乳類のその変わった暮らし方を観察してみてください。
(館長 伊澤 雅子)
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■ アジアの猛禽ハチクマ、海を渡る
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(左上)生命の多様性館に展示されているハチクマの剥製 (右上)飛翔するハチクマ (下)上昇気流に乗るハチクマの群れ
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秋になると、様々な渡り鳥たちが南へ向けて移動していきます。中でもダイナミックな渡りを見せてくれるのが猛禽類です。ハチクマはその代表格であり、翼を広げると130cmにもなります。ハチクマは飛ぶときに、日光で地面があたためられて発生する上昇気流(サーマル)や山の斜面で発生する上昇気流(地形性上昇気流)を大きな翼で巧みにとらえ、羽ばたきを最小限にとどめて高度を上げていきます(帆翔)。そして高度が十分に上がると、今度は猛スピードで滑空します。この帆翔と滑空を繰り返しながら、ハチクマは日本列島を南下していきます。
北九州上空はハチクマの渡り経路となっており、9月中旬になると多数のハチクマを観察することができます。風向きにもよりますが、風師山・足立山・高塔山・皿倉山などでは、関門海峡を越えてきたハチクマを間近で見ることができます。多くのハチクマが気流に乗って螺旋を描きながら上昇していく様子は「タカ柱」と呼ばれ、大規模なものでは数百羽がタカ柱を形成します。その光景は、圧巻の一言に尽きます。運が良ければ、1日に2,000羽を超えるハチクマに出会うことができるかもしれません。
北九州を通過した後、ハチクマは九州北部を南西へ移動し、五島列島の福江島に達します。その後、中国・上海方面に広がる東シナ海へ向けていっせいに飛び出していきます。大陸までの距離は約650kmで、途中に島はありません。大陸に着くまで、海上をノンストップで飛んでいくのです。平均時速45kmと仮定すると、約14時間半の旅路です。朝8時に出発しても、大陸に到達するのは夜10時半。降りることができないので、途中で辛くなっても、進むか戻るかしか選択肢はありません。ハチクマは、なぜこのような経路をとるのでしょうか。
最近の研究によると、東シナ海ではちょうど秋の渡りの時期に安定して強い北東風が吹いており、これが追い風となってハチクマの渡りを助けていることが示唆されています。また、この時期には海上でもサーマルが出現し、高度をあげるのに一役買っているとも考えられています。海上の渡りは、風を利用するハチクマにとって決して無謀なものではないのです。しかし2017年、気候変動が続くと、数十年後には渡りに適した風況の海域が消えてしまう可能性があるという研究結果が発表されました。ハチクマにとっては、近い将来、受難の時代が待ち受けているのかもしれません。
さて、無事に東シナ海を渡りきったハチクマは中国の海沿いを南下し、マレー半島から赤道直下のインドネシアの島々へと島伝いに移動し、秋の渡りを終えます。春が近づいてくると、ハチクマは秋の経路を辿って北上しますが、マレー半島を通過した後は中国内陸へ入り、朝鮮半島を経由して九州へと戻ってきます。秋よりも遠回りですが、春は海上よりも陸地のほうが、渡りに適した風況となっているようです。北九州で再びハチクマを見られるのはゴールデンウィーク前後。見られる渡りは秋よりも小規模ですが、空に目を向ければ、対馬海峡を超えてはるばる日本へと戻ってきたハチクマのタカ柱を目にすることができるかもしれません。今年のゴールデンウィークは外出自粛を余儀なくされましたが、来年は野外で空を見上げて、繁殖地へ向かうハチクマを探してみてはいかがでしょうか?
(自然史課学芸員 中原 亨)
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